生物多様性研究・教育プロジェクト(研究と教育の原点を考える) Ⅲ. 四季折々の自然の風景と野鳥 2024‒No. 6:4月12日と13日の里山

                     2024年5月1日(水)

1.はじめに
 ブッポウソウの生態研究については,昨年(2023)でいったん区切りをつけている。一部の研究については,吉備中央町ブッポウソウ会の協力を得て継続している。現在は,今まで取ったデータに基づき,原著論文(複数)の執筆作業に移っている。論文の投稿は生態学の分野に絞ったが,私のめざしたゴールはどこにも見つからなかった。

 生態学という分野には,文系的思考(ファンタジーの世界。例えば「進撃の巨人」)と 理系的思考(実証的思考の世界。分子生物学はこの世界に入る。)が入り混じっている。それぞれの世界には急進的な人たちがいる。理系的思考の急進派は,文系的思考の人たちを実証的な科学ができない遊び人とこき下ろしている。一方,文系的思考の急進派は,理系的思考をする者は記述(description)ばかりで,物語を作れないとさげすんでいる。それぞれの思考の急進派が,その分野の学問をけん引し,憎み合ったり無視したりする構図は,今も昔も変わりない。また,これは日本だけのことではなく,全世界で起きている。人間という生物はよほど争い(fighting)が好きなのであろう。

 私の思考は,文系的と理系的のちょうど中間である。つまり,私の専門は分子生物学でもないし,文系思考の生態学でもない。動物学(zoology)の世界に生きる人間である。動物学という学問は,立ち位置が微妙なところにあり,理学部生物学科の専門家さえよく理解していない。動物学のジャーナルも数は少なく,総じてインパクトファクターも高いとは言えない。

 動物学の分野では,日本ではZoological Scienceが出版されている。このジャーナルは視点は良いと思うが,編集体制に問題があるように思う。編集体制の問題がIF 0.9という低い数値につながっているように思える。編集体制を改善すれば,IF 1.5から2.0ぐらいで国際的にacknowledgeされたjournalになるのではないだろうか?一方,あまり高いIFを求めると,predatory journalの世界に引きずり込まれる。しかし,理系的思考の急進派(過激派)に自制を求めるのは難しい。

 生物の繁殖活動を動物学の視点で見るとどうなるか?野鳥の場合には,季節の移行に合わせて発現する内分泌機構がある。内分泌機構と季節との間を取り持つのがcircannual clock(概年時計)である。私は,ずっと前から海産動物の生物時計の研究を行ってきた。今まで行った研究との接点が見つかった時には,嬉しかった。日本のjournalに投稿する予定はないが,動物学の視点で原著論文を書いてみたい。

2.撮影と執筆の基本情報
<撮影> 三枝誠行・近澤峰男。<撮影機材>SONY RX10Ⅲと RICOH WG-50。<執筆> 三枝誠行(生物多様性研究・教育プロジェクト)。
<参考文献>
・伊藤嘉昭(1973)比較生態学。岩波書店。
・Richard Dawkins (1986) The Blind Watchmaker. Longman Scientific & Technical, UK.

図 1.満開の桜(巨瀬町)。奥はソメイヨシノだろうが,手前の品種は知らない。

図 2.コバノミツバツツジ。岡山県南部の春を代表する植物だが,吉備中央町から巨瀬町にかけては少ない。有漢町や北房町にも少なかったように記憶している。岡山市内の龍ノ口山には,ソヨゴやコシダといっしょに非常に多い。スプリング・エフェメラルと呼んでもおかしくないように思う。

図 3.豊岡(吉備中央町)の風景。4 月中旬の時点では,ブッポウソウはまだ来ていない。時々もう来ているという情報が入るが,100 パーセントウソの情報である。なぜウソであるとわかるかというと,野鳥の持つ概年時計(circannual clock)は非常に正確であり,気温が高い年があっても飛来が早くなることはない。飛来が早くなるのは概年時計に遺伝子突然変異があって,たとえば circannual gate の期間(interval)が長くなることが考えられる。

図 4.スモモの花(?)。桜のようには見えないが・・・。和田(吉備中央町)を通りがかった際に撮影。

図 5.豊野(吉備中央町)の風景と民家。田んぼの手入れは行き届いている。田んぼの畔がこんなにきれいだと里山(woodland)の雰囲気が強く出るが,手入れを怠ると里山ではなく,単なる雑草地と化す。この家のじいさんは私が遠くから声をかけても,全く反応しない。

図 6.上田西(吉備中央町)にある巣箱(左)とワラの溜まった巣箱の中(右)。上田西は全域でスズメの勢力が強い。写真の奥の方には,野鳥の会の巣箱があって,毎年スズメとブッポウソウで激しい奪い合いが行われている。昨年(2023)は,合戦の末にスズメが勝利してブッポウソウのペアは追い出された。このペアは写真の巣箱の後ろにある林に長いこととまっていて,最終的にこの巣箱を使って子育てをした。今年(2024)はどうなるだろうか?

図 7.上田西の松田さん宅に設置された自立柱(左)と巣箱の中(右)。松田さん宅の庭には,巣箱(R-20)は去年(2023)設置されたと思う。ペアは200m ほど離れた巣箱(δ-01)で毎年子育てをしていたが,この巣箱のすぐ近くにブルーベリー畑に野鳥を追い払う音声が大きく響く。ペアはそれを嫌ってδ-01 に移ったのかも知れない。δ-01 の付近は車や人の往来する頻度も高かった。

図 8.美納谷にある N-01 の巣箱。100m 下に野鳥の会の巣箱があって,ブッポウソウのペアは N-01 と野鳥の会の巣箱を交互に使っている。今年はどちらで子育てするか不明。両方の巣箱が使われることはなさそうだ。巣箱の中にはおがくずが敷いてある。巣材を入れないとふ化率に大きな影響が出る。

図 9.K-08(新見市北房町)と思う。番号は H-25 になっている(左)。巣箱の中には,シジュウカラが運んだ巣材(コケと綿)がいっぱい詰まっている。あと数日で産卵が始まると思う。

図 10.吉備中央町の豊野にある E-03 の巣箱(左)。巣箱の前には大きな池があり,現在池の修理の工事が行われている。巣箱の中にはシジュウカラが運んだコケと綿がいっぱい詰まっている(右)。あと数日したら産卵が始まるだろう。

図 11.吉備中央町豊岡にある R-10 の巣箱(左)。巣箱の中(右)では,シジュウカラが受精卵を温めている。シジュウカラの卵は 9 コか 10 コぐらい産まれることが多い。こんなにたくさんふ化したら,親はヒナにエサやりが大変だろう。

図 12.巣箱の中で受精卵を温めるシジュウカラ。4 月 13 日,豊岡(吉備中央町)にある R-10 の巣箱と思う。
 R-10 の巣箱は 5 年ほど前に設置されたと思う。毎年シジュウカラがコケを運んで巣を作り,産卵をしていた。しかし,胚発生が進行中の卵が置かれていたり,ふ化したヒナがいるにもかかわらず,5 月上旬にブッポウソウが入り込んで,シジュウカラの巣を荒らしてしまう。
 ブッポウソウによるシジュウカラの巣荒らしは大変なもので,卵はつついて割るし,くちばしでくわえて巣箱の外に捨てている。ヒナの場合も,つついて殺すか,くばしでくわえて巣箱の外に放り投げている。
 昨年(2023)には巨瀬町にあるM-06 の巣箱で,巣立ち直前費シジュウカラのヒナが,巣箱の中でつつかれて,巣箱の外に放り投げられて死んでいた。この状況はさすがに見捨てるべきではないと思った。ブッポウソウを偏愛するあまり,他の野鳥が犠牲になることはまずいだろう。シジュウカラは,イノシシやニホンザルとは違った野生生物である。吉備中央町ではシジュウカラの保護も必要だ。

図 13.抱卵している最中に見られるシジュウカラの威かく行動。
 シジュウカラの場合には抱卵(incubation)は,メスがずっとやっているような気がする。(ブッポウソウはオスとメスが交代で抱卵。)巣箱の近くで観察していると,もう一匹が鱗翅目の幼虫を巣箱に運んでいるのがわかる。狩りはオスがやって,メスは巣箱の中で卵を温めているのだろう。
 シジュウカラが卵を温めている巣箱をのぞくと,メスは周期的に「プシュー,プシュー」という音を発している。プシューという音とともに,メスは尾羽(おばね:tail feathers)を広げて,侵入者を威かくする。威かく音は尾羽をすり合わせて出しているのか,口から発せられるのかわからないが,巣箱の下にいても聞こえる。おそらく威かく効果はあるのだろうが,問題はヒナのエサを捕りに出かけた際に容易に他種(ブッポウソウ)の侵入を許してしまうことである。

図 14.産卵後に綿をかぶせて隠されたシジュウカラの卵。シジュウカラはよく白い綿を運んでくる。なぜ白い綿が多いかというと,産まれた卵を隠すためだろう。野鳥を見て姿をめでるだけでなく,野鳥の生き方も研究してみたらどうだろうか?

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