生物多様性研究・教育プロジェクト(研究と教育の原点を考える) V. ブッポウソウの飛来と子育て 2024‒No. 1.シジュウカラの巣が危ない。自分の足元は痛風で危ない。

2024年5月5日(日)

1.はじめに
 4月下旬に法事があり,足に合わない靴を履いたせいだろうか,また持病の痛風の発作が起きた。激痛の部位は,今までは足の親指の付け根だったが,今回は右足のかかとにシフトした。右足には確かに激痛が走るが,巣箱の調査をやめる訳にはいかない。

 車に乗ればかかとが痛くてアクセルを踏みにくい。車を降りれば片足びっこを引いて巣箱までたどり着く。水平の場所を歩くときはまあ多少歩けるが,少し斜面になるととたんに激痛が走る。5月3日(金)には,有漢町の巣箱を見て回った。I-01の巣箱にアクセスするには,イノシシが徹底的に掘りまくった土手と荒れ地を30mほど歩く。地面のでこぼこに引っかかって転んだ時には,思わず「ぎゃおー」と叫んでしまった。

 痛風はギックリ腰と同じで,病気ではない。体を動かさなければ,激痛は起きないし,腹も減る。それがわかれば医者に行く必要がない。痛風の場合には,痛みが最高潮に達する頃には,肉類を食べたいと思わなくなる。尿酸の結晶化を促進するビールも飲みたいと思わなくなる。研究活動によるストレスの上昇で美味しいものを食べ過ぎたのだろう。しばらく粗食(ダイエット)をすれば痛みは引くと思う。

 痛風のお陰で足を動かして激痛が生じると,なぜか自分は生きているという実感が湧いてくる。病気の時の痛みとは違って,ギックリ腰や痛風で起きる激痛は生きていることを証明するシグナルである。ギエー・ギエーと言いながら田んぼのあぜ道を歩く(気持ちとしては,はってゆく感じ)のは,私にとって夏の風物詩である。ただし,どこかで必ず見ている人がいる。でも,痛いのをこらえるのが先だから,いちいち格好をつけてもいられない。

 今年(2024)からブッポウソウに加えてシジュウカラの繁殖生態の研究を始めた。シジュウカラもブッポウソウと同様にsecondary cavity-nesting bird(第二次樹洞営巣性鳥類)である。営巣場所をめぐって激しい争いが繰り広げられている。呑気に撮影などしている暇はない。

2.撮影と執筆の基本情報
<撮影> 三枝誠行・近澤峰男。<撮影機材> SONY RX10Ⅲ。<執筆> 三枝誠行(生物多様性研究・教育プロジェクト)。

3.参考文献
・Newton, I. 1998. Population Limitation in Birds. Academic Press, New York.
・Williams, T.D. 2012. Physiological Adaptations for breeding in Birds. Princeton University Press, Princeton and Oxford.

図 1.シジュウカラのよく見られる里山の林(吉備中央町上井原)。痛風の発作が起きると,少しの段差を上り下りする際にも激痛が走る。田んぼの畔から上の小道に上がるのも一苦労である。痛みがかかとに出ると,つま先立ちをすれば歩くことはできるが,ちょっとつまづくとウゲーとなる。

図 2.電柱につけられた 2 つの巣箱。シジュウカラの産卵期はブッポウソウよりも早い。抱卵期間とヒナの期間(育雛期(いくすうき)と言うらしい。)はまだ集計中であるが,ほぼすべての巣でヒナが巣立つ前にブッポウソウがやってきて,シジュウカラの巣を荒らしてしまう。卵が置いてあればつついて割るか,くわえて外にポイ。ヒナの場合にも,つつき殺してからくわえて外にポイ。ひどいのになると,巣立ち直前のヒナまでつつき殺して外にポイしたケース(巨瀬町 N-06)もあった。ブッポウソウが来る前にシジュウカラの巣を下の巣箱に移してみた。成功するか終わってみないとわからない。

図 3.巣箱を新しく設置する作業。吉備中央町の吉川にて。4 月 18 日。R-11 の巣箱をのぞいたら,シジュウカラ(多分メス)が中にいて,卵を温めていた。シジュウカラは巣箱の中に見慣れない物が侵入すると,プシュー・プシューという威かく音を発しながら尾羽を周期的に広げる。放っておくとブッポウソウが来て巣を荒らしてしまう。シジュウカラとブッポウソウの両方を救う方法として,R-11 の下にもう一つ巣箱を設置して,シジュウカラの巣を移すことを考えた。しかし,シジュウカラが移動した巣を自分の巣と認識して(cognize),下の巣箱に入って抱卵を継続するか大きな問題が生じる。ヒトとシジュウカラでは,大脳の大きさが異なり,神経回路網の数も大きく違っているだろう。人間と同じように考えるべきではない。

図 4.R-11 の下に新しく設置した巣箱(E-10)で抱卵するシジュウカラ。4 月 26 日。1 例だけで実験は成功と思ってはいけない。しかもブッポウソウはまだ飛来していない。

図 5.R-11 のすぐ下に新たに設置した巣箱(E-10)。 4 月 26 日。入口の小さい巣箱にすればブッポウソウに襲われないだろうという意見もあるが,入口が狭いとカメラ(CASIO Exilim)が入らない。もっと小さな内視鏡カメラもあるが,カメラとシャッター部をつなぐ長い線が気になる。

図 6.R-11 の下につけた E-10 の巣箱の内部。4 月 26 日にみた時にはヒナがふ化していた。ブッポウソウが来て巣を荒らすかもしれないし,まだ実験成功と断定はできない。ヒナは綿に完全に埋もれているような個体がいるが,ちゃんと頭を出すことができるのだろうか,気になって仕方がない。

図 7.巣箱(E-10)の屋根から入口をのぞくスズメ。4 月 26 日。ここ(吉川)はスズメの多いところである。このスズメには中がどのような状況か認識していると思われる。中でシジュウカラが元気に子育てしていると思えば,巣箱の中には入らない。元気がないと分かれば,すぐにわらを運び入れる。

図 8.R-11 の巣箱(4 月 26 日)。シジュウカラの巣が下の巣箱(E-10)に移されてから,この巣箱はどの鳥にも使われていない。

図 9. R-11 の巣箱。4 月 28 日見た時には 10 匹のヒナが育っていた。もう一匹は綿に埋もれているかもしれない。まだ成功とはいえない。

図 10. R-11 の巣箱の外。シジュウカラのペアが電線にとまってしきりに鳴いていた。スズメも何匹か巣箱の近くで産卵場所を探していた。付近で生活しているスズメは,この巣箱(E-10)でシジュウカラが子育てをしていることを認識していると思う。ならば,まだ使われていない R-11 にワラを運んだらよかろうと思うが,その気配はない。シジュウカラが子育てした後にわらを運んで産卵しようとしているのかもしれない。野鳥の子育てには多くの危険がともなう。一度シジュウカラの子育てが成功した後なら,自分たちもうまく行きそうだという心理があるのかもしれない。

図 8.上井原の巣箱(綱島恭治さん宅の田んぼ)。ここ(図 2)は毎年シジュウカラが産卵するが,ブッポウソウがやってきて巣を壊してしまう。しかし,綱島さんはシジュウカラがいるとブッポウソウが巣箱に入って来られなくなると固く信じ込んでいる。中山さんが来ると巣材ごと外にポイされるので,産卵が起きた時点で下にもう一つ巣箱(2418)を設置し,そこに巣材ごと移した。5 月 2 日の時点で,親も下の巣箱に移って卵を温めていた。しかし,ブッポウソウはシジュウカラの巣を荒らさずに,上の巣箱で産卵してくれるのか,不安はまだ解消されていない。

図 9.細田(吉備中央町)にある H-25の巣箱とその下に設置された 2403の巣箱。左右の写真の左側にみられる筒は,先端に巣箱をのぞくカメラ(CASIO Exilim)をつけていて,風景を撮影するためには竿を逆さにする。そのため竿の基部が写ってしまう。ここ(H-25)もシジュウカラが産卵した。

図 10.下の巣箱(2403)に移されたシジュウカラの巣(左)。上の巣箱(H-25)に再び作られたシジュウカラの巣(右)。左の写真(2403)に見られる巣は放棄された。卵が 3 つ見えている。シジュウカラは,せっかく下したこの巣(2403)を放棄して,元あった巣箱(H-25)に再び巣材を運び始めた。

図 11.細田(吉備中央町)にある名無しの巣箱とその下につけた新しい巣箱(A-10)。この辺り(左の写真)にはシジュウカラが多い。この場所にある巣箱でもシジュウカラが 4 月 13 日と 14 日に産卵した。4 月 20 日に巣を下の巣箱(A-10)に移した。4 月 28 日に A-10 をのぞいたところ,全部ふ化していた。シジュウカラの抱卵期間はちょうど 2 週間(14 日間)だろう。ブッポウソウの抱卵期間(25 日間)の半分より少し長い。

図 12.下の巣箱(A-10)でふ化したシジュウカラのヒナ。4 月 28 日。まだブッポウソウは来ていない。巣立ちは 5 月 11 日か 12 日ごろだろうか?

図 13.豊野(吉備中央町)の景観(左)と巣箱(右)。この巣箱(R-10)も毎年シジュウカラが産卵する。ブッポウソウの巣箱は,この付近には 2 つある。一つは鈴木宅(200m ぐらい離れていたように思う。)と,左の写真の赤い屋根の家に住むじいさんの田んぼにある巣箱(50m 離れている)である。じいさんの田んぼに来るブッポウソウは,R-10 を使いもしないのに,巣箱を荒らしまくる大変嫌な奴らである。この巣箱(R-10)では,過去にシジュウカラの巣立ちは観察されていない。今年(2024)は,産卵が始まるのを待って,巣を下の箱に移した。5月2日現在で,ヒナは順調に育っている。なお,赤い屋根のじいさんは私が来ると,どこで見ているのか急いで飛んでくる。最近は,この巣箱をよく観察しているようで,昨日小さい鳥が出たとかいうような話をしてくれる。しょっちゅう会っていれば,コミュニケーションができているのでトラブルが起きることはないが,たまにやってくる人たちはこういうじいさんたちの性質を知らないので,トラブルが勃発することがある。私でもどうにもならないケースもまれにある。

図 14.R-10 の下の設置した巣箱(番号がないので「こげ茶巣箱」と呼んでいる)の中で育つヒナ。全部で 10 匹いると思う。産卵は 4 月 10 日と 11 日。ふ化は 4 月 26 日あたりと思う。抱卵期間は 16 日間。順調にいけば巣立ちは 5 月 11 日か 12 日あたりになるだろう。育雛期はたぶん 16 日間前後。

図 15.吉備中央町下加茂にある A-01 の巣箱と下に新しく設置した巣箱(2415)。A-01 もシジュウカラが大量のコケを運び入れていた。

図 16.2415(2015 は間違い)の巣箱の中。大量のコケが敷き詰められ,その上にたくさんの綿が置かれている。とっくに産卵があっていいはずなのに,まだ卵は一つも生まれていない。シジュウカラの声も聞かれないので,これらの巣箱(A-01 と 2415)は放棄されたのだと思う。

図17.吉備中央町小森にある巣箱。上がP-07,下が2414。この場所も毎年シジュウカラが巣を作り,子育てをするが,途中で何者かに巣を荒らされる。最初は巣を荒らすのはブッポウソウかと思っていたが,ブッポウソウ自体も卵を壊されたり,ヒナを盗まれたりして巣立ちできない事例があることがわかってきた。吉備中央町では何年もブッポウソウが巣立ちできない場所がいくつかある。詳細はいずれ報告したい。

図 18.2414 の巣箱。親が抱卵をしていた。5 月 2 日の時点で,ヒナは育っている。親の腹部左側に姿が見える。ブッポウソウの声はまだ聞いていない。

図 19.吉備中央町高屋にある P-03 の巣箱(上)と 2401 の巣箱(下)。4 月 20 日に P-03 の下に巣箱を設置したと思う。

図 20.4 月 28 日にみた時の 2401 の巣箱の中。卵は 10 コ産まれたが,この巣は放棄された。つまり実験失敗ということ。

図 21.B-04 の巣箱(上)と 2402 の巣箱(下)。吉備中央町上野。4 月 20 日に巣を上の巣箱から下の巣箱に移動。

図 22.4 月 18 日にみた 2402 の巣箱。巣は完全に放棄されており,近くで親の鳴く声も聞こえなかった。巣箱を新設してそこに巣を移すという実験は,必ず成功する訳ではなく,失敗するケースも多い。しかし,失敗するケースにはある重要な特徴(シジュウカラの社会構成)があることに気づいた。

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