生物多様性研究・教育プロジェクト 四季折々の自然の風景と野鳥 2023–No. 22: 今年は巣箱WA-01は選ばれなかった。

令和5年(2023)6月6日(火)

1.はじめに
 里山に巣箱(nestbox)が掛けられてから,ブッポウソウは巣箱を利用して繁殖するようになった。自然にできた木の「うろ」(cavity)でも繁殖しているケースもあるかもしれない。しかし,自然の「うろ」は巣箱に比べて居住性が悪く,どうしても周囲に巣箱が見つからないときに利用しているのだろう。
 巣箱は,野鳥にとっては魅力的な「巣」(nest),もしくは営巣場所(nesting site)を提供している。巣箱を設置すれば,そこに野鳥が引き付けられるのだから.巣箱はトラップ(罠:わな)の役目を果たしているとも言える。だから,巣箱はecological trap(生態学的罠)の1種と考えることができる。
ただし,ecological trapに関して,私の考え方はWikipediaの説明とは異なる。Wikipediaの方では,生物を引き付ける人工的環境(巣箱とは限らない)を作った場合に,繁殖に不敵な場所にひいきする生物が集中することや,その生物と同時に捕食者もたくさん現れるなどして,ひいきする生物の繁殖率(個体数)を低下させると書かれている。つまりデメリットが大きいことが強調されている。
 巣箱かけに関しては,2015年ごろにある論文(著者多数)が専門誌に出版された。題目は忘れたが,そこでは巣箱かけのメリットの方が大きいことが記されていた。第2次樹洞営巣性鳥類(secondary cavity-nesting birds)であれば,ひいきする生物の個体数は,巣箱かけによって増加する可能性は高い。
 巣箱かけのメリットとデメリットを考慮して,以下に巣箱かけに関する私の意見を記す。何種類かの第1次・第2次樹洞営巣性鳥類(スズメ,シジュウカラ,ヤマガラ,ブッポウソウ,フクロウ) は,種の個体数を増やしたければ,どんどん巣箱を掛ければよい。
 しかし,巣箱かけによって特定の種の個体数が増加すれば,その影響は同種だけでなく,他種にもおよぶことになる。結果として,同種間では激しい殺りく合戦が勃発する可能性が高まるだろう。実際に,ブッポウソウが増えたことによって,巣箱をめぐるブッポウソウ同士の激しい闘争が各所で発生している。さらに,シジュウカラ・ヤマガラ・スズメのヒナは,無残に踏みつけられるか,外に放り出される。
 ブッポウソウは,巣箱かけによって個体数が増加している。それを知った人たちはみんな浮かれてしまって,巣箱かけに関する負の影響(デメリット)を検証しようとしない。ブッポウソウだけでなく,浮かれる人たちの数も増えて,負の効果を考えようとする少数者を隅に追いやり,意見を言えない雰囲気を作りあげている。Ecological trapは,人間に対してはそんな機能も有している。また,浮かれた人々に軽率に従うと,結局ブッポウソウの個体群維持にとっては,大きなデメリットを背負うことになるだろう。
 話は変わる。昨年(2022)までは,吉備中央町の和中には,3つの巣箱が掛けられていた。巣箱間の距離は,WA-01(一番山側)とWA-02が150m,WA-02とWA-95(宇甘川沿いの田んぼ)が山(と言っても20mほどの高さ)を挟んで100m未満である。毎年,WA-02に新しく来るペアは,WA-01とWA-95のペアから激しい攻撃を受け,子育てをすることができなかった。何とかWA-02を救えないかと思案した結果、宇甘川の向こう側に新しい巣箱を2つ(RA-20とWA-03)設置した。RA-20とWA-03はわずか50mしか離れていない。
 昨年(2022)は,和中に設置した3つの巣箱のうち,WA-01とWA-95の2つしかブッポウソウが入らなかった。WA-02には,新しいペアが来るとWA-01とWA-95からオスが出撃して,ペアに対して激しく威かくして追い出してしまった。
 今年(2023)は,5月1日にWA-01にある「鹿の角」に一匹飛んできた(多分オス)。しかし,すぐにどこかに行ってしまった。5月7日(日)には嵐のような天気で,その後2~3日間は,どこの巣箱でも,近くにブッポウソウの姿を見かけなくなった。鹿の角に次に姿を見せたのは5月14日(日)だった。その時も一匹だけで,オスはまたすぐにいなくなった。やっと5月18日(日)になって,オスがメスを連れて鹿の角にとまっていた。しかし,昨年と違って,このペアはWA-01を気に入ってなかったのだろう。またいなくなってしまった。
 5月19日以降は,毎日1~2回(多分メスが)巣箱をのぞきに来てはいたが,産卵を準備している気配は感じられなかった。一方,WA-02には,通りがかると巣箱のすぐ近くの電線にとまっているメスを見る機会が増加した。
 おそらく今年(2023)は,WA-01ではなく,WA-02に移って産卵するのだろう。最初の卵が産まれる予定日(expected date)は,6月7日か8日と予想した。和中周辺の個体群の産卵日の平均は,5月29日だろう。平均値に比べて10日ほど遅くなると予想される。
 ブッポウソウの産卵は,巣箱を決めて以降,何らかのトラブルがあると平均値から遅れることがわかっている。WA-01の場合には,おそらく和中における巣箱の配置換えが大きく影響しているのだろう。
 オスが連れてきた新しいメスは,最初は鹿の角のあるWA-01に連れて行かれた。しかし,メスはWA-02の方が気に入っていたのだろう。昨年(2022)までは,WA-95のペアが「にらみ」を利かせていた。
 しかし,WA-95のオスは,昨年まで見張りをしていたWA-02とWA-95の間にある山の上ではなく,今年(2023)は宇甘川の川向うにあるヒノキの上から見張りをするようになった。見張り場所の移転にともなって,WA-02に攻撃をかけてくるブッポウソウがいなくなって,ペアはWA-01からWA-02に移ることができたのだろう。

2.被写体と撮影に関する基礎情報
<撮影者と所属> 三枝誠行・近澤峰男(生物多様性研究・教育プロジェクト)
<撮影場所> 和中(吉備中央町)。宇甘川沿いには細い橋がかかっているが,渡らないように。ブッポウソウを見ながら渡ると,川に落ちる。 
<撮影日時> 令和5年(2023)5月から6月。<Key words> ブッポウソウ,WA-01とWA-02,見張り場所の移転,産卵予定日。
<記録機材> 近澤第1カメラ(SONY RX10Ⅲ); 近澤第2カメラ(Canon EOS 7D Mark II with Canon 600mm Lens).
<参考文献>
・Wikipedia 「エコロジカル・トラップ」(https://ja.wikipedia.org/wiki/エコロジカルトラップ)
・Mine, K., A . Yamada, T. Nanri, K. Maruyama, H. Nakamura, and M, Saigusa (2014) Effect of nestbox provisioning on breeding density of Dollarbirds (Eurystomus orientalis). Pacific Science 68 (3): 365-374.
・Mainwaring, M.C. (2015) The use of man-made structures as nesting sites by birds: A review of the costs and benefits. Journal for Nature Conservation 25: 17-22.

図1.巣箱WA-01と「鹿の角」(止まり木)。良いところだと思うが,メスの方が気に入らなかったのだろう。来年新しいペアを誘致したい。

図2.「鹿の角」にとまるオス(2回目)。5月14日。最初は5月1日にいたが,写真には撮れなかった。すぐにどこかに行ってしまった。

図3.新しいメス(右)を連れてきたオス(左)。5月18日に見たらペアで鹿の角にとまっていた。現れるタイミングがずいぶん遅れている。

図4.思い出の木(クリの立ち枯れ)にとまったメス。5月18日。最初は去年のメス親かと思ったが,WA-01で生まれ,新しく来た個体だろう。

図5.巣箱WA-02。6月1日。6月に入るとメスは,巣箱WA-02の近くの電線に頻繁にとまるようになった。産卵が近づいている。 

図6.電線から逃げて近くのタケの先にとまったメス。6月1日。WA-02での産卵は6月7日か8日から始まると予想した。

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