生物多様性研究・教育プロジェクト 四季折々の自然の風景と野鳥 2023–No. 11: 自分の予想はとんでもなく甘すぎた。

令和5年(2023)5月11日(火)

1.はじめに
 今年(2023)は,ブッポウソウの出足が鈍く,和中(WA-01)や美原集落センターの巣箱には,まだ来ていない。この1週間で,吉備中央町一帯にかけてある巣箱を見て回ったが,巣箱の近くで姿を見かけた個体は少なかった。5月8日になっても姿が見られないということは,越冬地で伝染病が発生して多くの個体が死亡したか,日本列島への渡り(migration)の途中に暴風雨に巻き込まれ,多くの個体が落鳥(らくちょう)したのかと一時心配になった。

 5月10日は,午後から和中,長瀬および美原(ともに吉備中央町)にある10個近くの巣箱を見て回った。何と,半分ほどの巣箱には,ブッポウソウが来ているではないか・・・。例年は5月12日から5月18日あたりにかけて,巣箱をめぐる激しいケンカ(闘争)が起きているので,まだこれから渡ってくる個体も多いのだろう。

 ちなみに,和中のWA-01では5月1日に山の上の方で声がしたが,ヤマガラが子育てしていたせいか,WA-01には近づいて来なかった。5月10日に巣箱を回ったとき,長瀬にある「美原4」の巣箱からメスが顔を出していた。「美原4」は,WA-01と山(標高250m?)を挟んで直線距離480mほどしか離れていない。ブッポウソウならすぐに移動できる。WA-01には入らずとも,近くの空いている巣箱(美原4)に入って子育てできるならば,私はそれほど気にはならない。好きな方を選べばよい。

 5月10日は,吉備中央町の上竹(県道31号)から巨瀬町に入り,巨瀬町(一部川井町)に設置した巣箱を見て回った。まだ数は多くなかったが,もう求愛給餌(courtship behavior)を始めているペア(巣箱e-01)もいた。あと4~5日もすれば,大部分の巣箱がブッポウソウによって占拠されるだろう。

 ひとつ前の記事に,シジュウカラのヒナに羽毛(feathers)が生えたら,ブッポウソウはシジュウカラの巣を襲撃しないと書いた。巨瀬町の巣箱(N-06)を見ると,巣箱の前にシジュウカラのオスが陣取ってあたりをしきりに警戒していた(図1)。この巣箱は,シジュウカラのヒナが巣立ち直前になっている。親は入り口で頑張っており,この巣箱からは全部の幼鳥が巣立ちすると予想した(図2)。

 軽トラに乗り込もうとするときに,親が飛んで行くのが見えた。念のためにと思って,巣箱を覗いてみると,巣の中には震えたヒナが一匹残されているのみだった。そして巣箱の下を見ると,巣箱からつまみ出された巣立ち直前のヒナが道の上で死んでいた(図3から図5)。体温は感じなかったし,死後硬直が起こり始めていた。ブッポウソウがシジュウカラのヒナを外につまみ出したのは,ほんの数時間前だったと思われる。親が警戒心を緩めたすきにブッポウソウが入り込んで巣を荒らしてしまったのだろう。

巣に残った1匹のヒナは,次回の侵入で外につまみ出される可能性が高い(図6)。この時点で電柱に登り,ヒナを回収し,エサをやれば間違いなく巣立ちできるだろう。しかし,そんなことをしても根本的な解決にはならない。ブッポウソウの巣箱という「新しい環境」に適応する,つまりブッポウソウという「外敵」から子供たちを守るためには,親同士が連携し,体を張って外敵の侵入を防ぐことが必要である。そして,シジュウカラはそのような行動を「学習」できるかにかかっている。

 シジュウカラは,巣を防衛するいくつかの手段を持っている。それらを組み合わせ,ブッポウソウという外敵の侵入を防ぐことを学習できるか,私の最大の関心事はそこにある。シジュウカラのヒナの生存確率は,巣箱の周囲の環境(ブッポウソウが巣箱を使いやすいかどうか)に依存しているかもしれない。しかしながら,巣の防衛行動も限定的ながら役立っている可能性は高いだろう。

 ・・・なんてことを偉そうに書いたが,結論として,当初の私の予想はとんでもなく甘すぎた。現実はシジュウカラの個体群維持にとって遥かに厳しい状況にある。巣の防衛行動など,ブッポウソウの前には全く歯が立たないことが判明した。

 今年(2023)は,シジュウカラがずいぶん健闘しているという印象を持っていた。しかし実際は,ブッポウソウの到着が全体的に遅れた分,シジュウカラのヒナが長く生き残っただけのことだったようだ。

 こういう現実を知ることになれば,ブッポウソウの巣箱からシジュウカラのヒナが無事に育つ方法は,ふたつしか残っていない。ブッポウソウの巣箱の入り口を狭めると,今度はブッポウソウが入れなくなる。巣箱の入り口を狭めることはできない。そうなると,シジュウカラがブッポウソウに襲われないためには,ブッポウソウが入ってこない林間の薄暗いところに巣箱を設置すればよい。しかし,これは巣箱の入り口を狭めるのと同じことで,そこまでして今,シジュウカラの命を救わねばならないほど,シジュウカラの個体群密度は低くはないだろう。しかし,この予想も外れるかもしれない。

 もうひとつの方法は,巣箱「ミカサ」でやったように,シジュウカラが産卵し,卵を温めだした時点で,新しい巣箱をシジュウカラの産卵した巣箱のすぐ下に設置し,シジュウカラの巣を下の巣箱に移すことである(図6)。シジュウカラの巣の移動は,元の位置から50cm以下の距離にしないと,シジュウカラの親は巣を放棄してしまうだろう。新しい箱を古い箱のすぐ下に置けば,シジュウカラは1日ほど古い巣箱に入って「あれれ,どうなったの?」みたいな行動をしているが,やがて下の巣箱に巣が移されているのがわかると,下の巣箱に入って子育てを継続する。

 ブッポウソウ信者の中には,そういうこと(野鳥が人間と同じ能力を持たないこと)を全く理解せず,新しい巣箱をもとの箱から遠くはなして設置し,これでシジュウカラが保護できたという者がいた。

 検証する(verify)というコンセプトがない人たちに保護を任せると,とんでもないことを実行する方々がいる。アマチュアだから自分の都合で何をしてもよいということではない。専門家と称する人たちでさえ,検証することに慣れていない人たちが多く,保護活動は益々オカルト化が進行している感じを受ける。

2.被写体と撮影に関する基礎情報
<撮影者と所属> 三枝誠行・近澤峰男(生物多様性研究・教育プロジェクト常任理事)
<撮影場所> 高梁市巨瀬町。<撮影日時> 令和5年(2023)5月10日(木)。
<Key words> シジュウカラ,巣立ち直前のヒナ,ブッポウソウ,巣箱の外に捨てる,巣の防衛行動,巣箱ミカサ,検証(verification)。
<記録機材> CASIO Exilim, SONY RX10Ⅲ,SONY Handycam HDR-CX 680(ビデオカメラ),SONY リニアPCMLレコーダー。
<参考文献>
Newton, I. 1998. Population Limitation in Birds. Academic Press, Amsterdam.

図 1.巣箱(N-06)の入り口に陣取って見張りを続けているシジュウカラ。中にある巣は,すでにブッポウソウに荒らされている。

図 2.巨瀬町にある巣箱 N-06。もうじき田植が行われる。巣立ち寸前のヒナは,巣箱の下の小道に落ちていた。

図 3.巣箱の下に落ちていた 2 匹のヒナ。真ん中は小石。両側の 2 匹が死んだ個体。

図 4.ブッポウソウが巣箱の外に捨てたシジュウカラのヒナ。もう死んでいる。見たくない人は図 7 に進んだらよい。

図 5.ブッポウソウが巣箱の外に捨てたシジュウカラのヒナ。これを見たときに,ブッポウソウが来たときにはヒナは 100%助からないと思った。

図 6.巣箱に残っていたヒナ。ビデオ解析をするとまだ生きていたが,次の侵入でアウトになることは間違いない。

図 7.昨年(2022)はミカサでシジュウカラが子育てした。ブッポウソウが来る前にミカサの下に新しい巣箱を設置し,巣を移動した。

図 8.道路(交通量多い)の上を歩いていた子ガメ。体長7cm ほど。これからの季節には,こういうのを拾っては小川にポイが続く。

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