令和5年(2023)1月2日(月)
近澤峰男さんの撮影した野鳥の写真(図1)には,頭部やくちばし,足の骨格やツメの形状,羽毛の色彩に至るまで,精緻な構造が映し出されている。私は,近澤さんの写真を見て,鳥類における足根中足骨(ふしゃ骨)の進化や,産卵システムと環境適応の問題を深く考えるようになった。野鳥の姿が大雑把に映っている写真だったら,このような問題は考えもしなかっただろう。精密写真の良さは,外観で体の構造がよくわかることであろう。体の構造がよくわかることは,自然科学の発達に不可欠な要素である。
図1.サクラの枝につかまるシジュウカラ。平成27年11月3日撮影(近澤峰男)。兵庫県明石市にあるご自宅の近くで撮影されたと思う。
近澤峰男さんが撮影された写真(図1)と私が撮った写真(図2)の大きな違いは,写真の背景(background)にある。近澤さんの写真は,被写体の精緻な構造をひたすら追求して,濁りのない画像になっているのに対し,私が撮った写真(図2)には,背景に余計なものが多く入る。自分の心の中には雑念がいっぱい詰まっているのだと思う。私の場合には,写真家の人たちや見栄っ張りの強い方々への配慮は要らない。自分がよいと思うものを世に出せばよい。だから,雑念がいっぱい詰まった自然の風景(図2)というのも,なかなかいいものである。
図2.地衣類の付着したウメの枝にとまるミヤマホオジロ。くちばしは,実をついばむのに適した形状になっていると思う。もうひとつ注目していただきたいのは,枝に大量に付着している地衣類(lichen)である。枝にぶら下がっている黄緑色の地衣類は,ハンモック・モス(和名は不明)と呼ばれる。もうひとつは,枝に付着している白か灰色の地衣類で,やはり種名は不明。令和4年(2022)12月30日,吉備中央町和中にて。
令和4年もあと2日と迫った12月30日に,和中(吉備中央町)にある多様性プロジェクトの基地で野鳥の撮影を行った。基地にある何本かの柿の木には,多くの種類の野鳥がひっきりなしに飛来し,熟した実を食べていた。その中に,一匹ミヤマホウジロの姿があった(図2)。ミヤマホウジロは,熟した柿の実を食べるかは不明である。くちばしを見ると,木の実をつついて砕くタイプのようであった。ミヤマホウジョロは,柿の木の枝にとまったエナガ,メジロ,ヤマガラの群れとは別に,単独でウメの枝にとまっていた。
ウメの枝には,びっしりと地衣類(lichen)が付着して,古木の感じが漂っていた。地衣類の分類はどうなっているのか全くわからないが,少なくとも2種類あるような感じである。ひとつは,ホオジロの足元にある白色ないしは灰色の紙切れのような種類,もうひとつはホウジロの背後にある枝から吊り下がっている黄緑色の地衣類である。ウメの枝に付着した紙切れみたいな地衣類は,どこにでもたくさん見かけるが,何種類ぐらいあるかは不明である。もう一つの黄緑色の地衣類は,日本語で何というか知らないが,米国のフロリダ半島の樹林帯にはさらに大きくなっていて,地元ではハンモック・モスと呼ばれていた。風の強い日には,カシ(ウバメガシ?)の林からたくさん飛んできて電線にいっぱい引っかかっていた。
図3.地衣類の進化と予想される系統学的位置。
地衣類は,藻類(algae)と菌類(fungi)が寄せ集まってできた植物と言っていいのかもしれない。寄せ集めと書いたが,アメーバ様の細胞(菌類)にラン藻が入り込んだ形で共生しているのか,あるいは菌類と真核性の藻類が単に合体しているのか,それもよくわからない。
図4.ウメの枝を飛び立つミヤマホオジロ。足根中足骨と足の指は,胸部腹面の前方に折りたたまれているようだ。
Wikipediaによれば,ミヤマホオジロ(Emberiza elegans)は,夏には中国,朝鮮半島,ウスリー(ロシア)で繁殖し,冬になると中国南部,日本,台湾に移動し越冬する。日本では,冬季に冬鳥として,本州中部以西,四国,九州に飛来する,とある。岡山県では,冬になると市街地でもたまに見ることがある。
<参考文献>
- Ferl, R.J., and R.A. Wallace. 1996. Biology: The Realm of Life. Harper Collins Colleg Publishers. New York.
- Grant, P.R., and B.R. Grant. 2008. How and why species multiply: The Radiation of Darwin’s Finches. Princeton University Press. Princeton and Oxford.
- 山田真弓・西田誠・丸山工作. 1981. 進化系統学。裳華房。