サンゴ礁とサンゴ礁原プロジェクト No. 8:諏訪之瀬島のサンゴ礁

 令和3年(2021)11月26日に諏訪之瀬島の御岳(標高は799m)が噴火した。夜23時までに噴煙量が中程度かそれ以上の噴火が6回起きたようである。福岡管区気象台によれば,噴煙の高さは最高2,700mに達したが,大きな噴石が飛び交う噴火ではなかったようだ。

図1.トカラ列島と諏訪之瀬島 (赤丸で示した)。 悪石島と小宝島の間には渡瀬線がある。島々をつなぐ実線は,鹿児島港と名瀬港(奄美大島)を結ぶ航路(フェリーとしま2)を示す。種子島,屋久島,口永良部島,および薩摩硫黄島と黒島を結ぶ実線は,別の航路。

 トカラ列島(図1)を含む琉球列島は,大陸プレート(ユーラシア・プレート)の東側の縁の上に点在している。ユーラシア・プレートの下には,フィリッピン・プレートが潜り込み,その反動でユーラシア・プレートの東側の縁が少し盛リ上がり,浅い海底になっているのではないだろうか。一方,フィリッピン・プレートは,ユーラシア・プレートの岩盤を削りながらユーラシア・プレートに潜り込むために,双方のプレートの間には深い溝(琉球海溝)が形成されると思われる(図2)。

図2.諏訪之瀬島とその周辺の予想される海底の地形と地殻。 Castro, P., and M.E. Huber (2005) Marine Biology. Figure 2.11を描き直す。絵は下手だが,これならば原図とみなしても差し支えないと思われる。

 ユーラシア・プレートとフィリッピン・プレートの隙間には,地球内部からマグマが上がってきて,ユーラシア・プレートの東の端の浅瀬になった場所から吹き出し,それによってトカラ列島の火山島が作られたのではないだろうか。トカラ列島には,噴火口の跡が残っている島々があるが,現在活発に活動している火山(活火山)は諏訪之瀬島ひとつである。

 諏訪之瀬島の火口は,島のほぼ中央にある。噴火口の周囲は広範囲にわたって植生が破壊されていて,溶岩が流れた後がくっきりと残っている。人が住んでいるのは,島の南側にある切石港と元浦漁港を結ぶ幅200m,長さ1kmほどの狭い範囲である。船(フェリーとしま2)は,普段は切石港に接岸する。住民の方々は,おそらく軽トラに乗って集落から切石港に行き,船を待つのであろう。島には飛行場があるが,どれほどの頻度で飛行機が発着するか不明。少なくとも定期便はない模様だ。

図3.諏訪之瀬島の南側の地形。切石港の桟橋のすぐ近くにサンゴ礁がある。サンゴ礁の面積から言って,堡礁(barrier reef)ではなく,裾礁(fringing reef)としてよいであろう。なお,図1に示した渡瀬線とサンゴ礁の形成とは無関係。

 諏訪之瀬島の海岸には,所々サンゴ礁が見られる。サンゴ塊は,波打ち際のすぐ近くにあり,一番規模が大きい礁は,切石港のすぐ南側にある。図3で海岸に白波が立っている海岸が見えるだろう。それがサンゴ礁である。切石港の付近は,幅100m近くはありそうだ。

 サンゴ礁は,インド・西大西洋を中心に分布している。詳しいことはいずれ述べるにして,サンゴ礁のタイプは3つに分類されている。ひとつは裾礁(きょしょう)と呼ばれる礁で英語はfringing reef。海岸の縁に形成される。2つ目のタイプは,堡礁(ほしょう)と呼ばれ,英語はbarrier reef。オーストリア大陸の北にあるGreat Barrier Reefが有名であるが,ユーラシア大陸の縁に,トカラ列島から与那国島まで広大な範囲に形成されるリーフも世界に誇る堡礁と言えるのではないか。私は,Ryukyu Great Barrier Reefと呼んでいるが,そう言っているのは,現在のところ私だけである。3つ目は環礁(atoll)。南太平洋の熱帯域の島々に見られるサンゴ礁である。環礁は,琉球列島にはない。


図4.切石港の桟橋から見たサンゴ礁。(Google Mapに投稿された諏訪之瀬島の写真を転載。)

図5.諏訪之瀬島のサンゴ礁(裾礁)のイメージ。この写真は,平成23年(2011)4月に西表島祖納の海岸で撮影した。図4に見えているサンゴの種類数は,この場所では少なく,岩肌(死んだサンゴ塊)は露出している。諏訪之瀬島は行ったことがないので,実際にどうなっているかはわからないが,多分こんな感じかと思う。エダサンゴ類は,諏訪之瀬島ぐらいの緯度になるとみられないと思う。

図6.諏訪之瀬島の海岸にある裾礁(fringing reef)。頂上から波打ち際にかけて山肌の「しわしわ感」がすごい。溶岩の流れだした後だろう。地形から見て,諏訪之瀬島は絶壁だらけの感じがする。もちろん島の周囲を回る道はない。山の斜面には,背丈の低い竹とススキが優占種になっていて,少し群落の遷移が進んだところは,シャリンバイ,ギンネム,シロバナセンダングラサ,アダン,ツワブキ,ガジュマル,ウツギなどが自生しているものと思われる。

 図6は,諏訪之瀬島の北側(西側)の海岸を示している。写真左側の海岸には,裾礁がありそうだが,右側の海岸沿いに白波の立っているところは,サンゴ礁ではなく,岩礁海岸に打ち寄せて砕ける波であろう。

 日本列島の海岸沿いに形成されるサンゴ礁は,堡礁と考えておられる方々が多いと思う。少し南の宝島あたりまで行けば,堡礁と言えるかもしれないが,諏訪之瀬島あたりでは裾礁と呼んだ方がいいのではないだろうか。実は,裾礁と堡礁は,下記の文献でも十分に区別できていない感じがする。裾礁というのは,あったとしても高緯度とか,最近隆起した海岸とか,限定された地域にしか形成されないのだろう。あえて区別する必要があるのか,とも思う。

<参考文献>

  • Castro, P., ad M.E. Huber. 2005. Marine Biology (fifth edition). McGraw-Hill, Boston.
  • 森田康夫 2006. 鹿児島県三島・黒島における植物採集記録。鹿児島県立博物館研究報告25: 22-29.

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