令和4年(2022)7月14日(木)
吉備中央町にやってくるブッポウソウのメスは,巣箱(nestbox)の中で4つか5つの卵を産む。トラブルがあると卵数は2つか3つに減少するが,平均産卵数は年ごと,地域ごとにより,統計的には有意な違いがある。大雑把な数値で言えば,平均産卵数は3.9~4.3ぐらいになっていると思う。
ブッポウソウが,かつて樹洞(tree cavities)を使っていた時には,平均産卵数は2.5~3.3程度ではなかったかと思われる。卵数が昔(と言っても30年前)と今とで大きく異なる理由は,巣(nest)の使い心地や居心地が樹洞と巣箱では大きく違うことが挙げられるだろう。巣箱の内部が広くなって,そこに巣材が敷き詰められていることが,直接卵数の増加につながったのではない。野鳥には,産卵やエサの状況が好適ならば,早い時期から産卵(egg layingまたはlaying)が起き,卵数も増加するという性質がある。産卵の場合には,好適な条件(つまり巣箱)を与えてやれば,樹洞よりも早い時期から産卵が起き,早くから産卵が起きると卵数が増加する(clutch size decline)。実務家には理解できないが(環境の何が直接的な影響か不明),動物生態学の面目躍如たる成果がここにある。なぜそんなことが可能になるかの生理学的・分子生物学的メカニズムは,現代生物学における次の課題になるだろう。
要するに,野鳥は美味いものをたくさん食べれば,すぐに卵数が増える訳ではない。産卵する場所(巣)が広ければ,すぐに産卵数が増加するという訳でもない。環境情報のinputに対して産卵や行動発現というoutputのレベルや内容が,内分泌過程(endocrine system)というクッション(例えれば,町役場・県庁・国の省庁の意思決定システム)を通して決定されるということ。
さてと・・・,7月に入ると多くの巣箱の中には,3匹から5匹のヒナがいて,親鳥はエサ運びに余念がない。ヒナの成長は早く,最初のヒナが巣立つのは,ふ化してから25日か26日後だったと思う。ここにも面白い課題がある。親のエサ運び頻度は,ペアによって大きく異なる。にもかかわらず,最初のヒナ(幼鳥)が巣立つのは,どの巣箱でも判で押したように同じ期間(日にち)になるのか?「恒温動物だから」というのは,説明したことにならない。後のヒナは結構ばらばらと巣立つ。なぜ後はいい加減(いい加減ということはないとは思うが・・・)でもいいのか?こういうことは, いわゆる専門家を自称する方々に質問するとひどく怒られる。だから,自分で証拠を見つけて解決してゆかねばならない。
1週間以上経過したが,7月6日(水)に巨瀬町と川面町(ともに高梁市)を回ったときに,いつも見ているe-01の巣箱に立ち寄った(図1)。もう4~5年前のことになるが,e-01の巣箱では初めて来たペアがひとつ卵を産んだ。控えめな行動をするペアであることはすぐにわかった。しかし,ここにはかなりうるさいペアが何年も前から子育てを行っていた。うるさいペアは,その年はかなり遅れてきたか,長いこと巣箱をほったらかしにしていたのだろう。巣箱に来たら別なペアが産卵していたことがわかると,新しく来たペアを激しく威かくし,とうとう追い出してしまった。これは作り話ではなく,追い出したところを実際に見ている。残った卵は早速巣箱の外に捨てられた。e-01の巣箱は,その後もうるさいペアによって使われているので,産卵・ふ化。巣立ちの時期は相当早くなっていただろう。
しかし,いくら何でも7月6日というのは巣立ちには早すぎる。親が巣箱から顔をしているのだろうと思ってカメラを向けてよく見ると,何とこっちを見ているのは,親ではなくヒナの方だった。ブッポウソウは,くちばしを見れば,親とヒナ(幼鳥)を区別することは容易である。その後e-01の巣箱は見ていないが,7月14日現在では全部巣立ったに違いない。
図1.巣箱から頭を出して外を見るヒナ(幼鳥)。7月6日。直径8cmの入り口は,ヒナでもギリギリの大きさである。
図2.巣箱から顔を出して外を伺うヒナ(幼鳥)。親の巣立ちコールは始まっていなかった。撮影: 9 July, 2022.
次に案田(吉備中央町)で見かけたヒナ(幼鳥)の顔出し(図2)。E-05の巣箱は,設置した最初の年(2016年?)はスズメとの巣箱の分捕り合戦に敗れたが,その後はスズメの攻勢に打ち勝って子育てを続けている。7月9日に見たときには,ヒナが顔を出していた。野鳥の場合には,ヒナから幼鳥への転換は定義によって判定するしかない。巣箱の中にいる場合にはヒナ,外に出たら幼鳥。巣立ちに失敗した幼鳥を巣箱に戻したら「ヒナ」に逆戻りになる。
図3.アブラゼミを巣箱に運んできたブッポウソウ。こちら(レンズの方)を見ているのがお分かりいただけるだろうか?こういう時に600mmのレンズはすごく役立つ。獲物を捕まえるときは両眼視になるが,何かを認識するときには片側の眼でも可能だろう。この後E-05には全く来なくなってしまった。この写真は3倍も4倍も拡大できる。
7月9日は,E-05を通りがかったときにヒナが顔を出していて(図2),すぐ後で親がアブラゼミを持って巣箱に来た。親は激しい違和感を覚えたらしく,こちら(レンズのある所)を見ている(図3)。この写真(図3)は,その意味で貴重である。
実は,この時に軽トラを止めて撮影態勢に入ったのが,巣箱からわずか30mの距離であった。さすがに近づき過ぎたのだろう。エサを運んできたのはこれ1回だけで,それ以後は30分待っても巣箱に来なくなってしまった。
600mmのレンズを装着したカメラだと,巣箱との距離は40m~60mがいいと思う。そのぐらいの距離だと,物陰に隠れて30分も辛抱すれば,エサ運びを再開することが多いように思える。ただし,どういうところに隠れるか,多少の訓練がいる。自分の都合の良いときにやってきて,こんな写真(図3)が撮れることは期待しない方がよい。もちろん,この写真(図3)が素晴らしいと自画自賛している訳ではない。ブッポウソウの行動がよくわかるという意味で,貴重な写真である。
巣箱との距離が60m以上になると,三脚を使い,ISOとシャッター・スピードを大きく上げるとよい。ちなみに近澤峰男さんがお使いになっていたCANON EOS7Dは,ISOとシャッター・スピードがともに10,000を超える高いレベルで撮影が可能である。その場合に焦点深度は,最適値が5.6~6.3ぐらいになる。やはり高級なカメラとレンズは,値段だけのことはある。
図4.細田にあるA-08の巣箱。巣箱からの距離20m。この距離だと人の姿が見えたらブッポウソウは来ない。
多様性プロジェクトは,1日100個以上の巣箱を見て回ることもあった。そのため,多くは調査の便利な人家のすぐ近くに架けてある(図4)。この位置から巣箱にレンズを向けたら,ブッポウソウは一日中来ないだろう。右側の茂みに完全にもぐって身動きしなかったら,昨年まで来ていたブッポウソウならば,エサ運びをやってくれるかもしれない。茂みの中からならば,SONY RX10Ⅲでも撮影可能だろう。ただし,シマカにいっぱい刺されるのは覚悟されたい。
<参考文献>
Newton, I. (1994) The role of nest sites in limiting the numbers of hole-nesting birds: a review. Biol. Conserv. 70: 265-276.