令和4年(2022)6月21日(火)
吉備中央町湯武にあるブッポウソウの巣箱(H-30)では,6月1日にメスが死亡したことは既に報告した。巣箱を乗っ取ろうとしたブッポウソウに首を激しくつつかれて頸動脈を損傷し,出血多量が原因だったと思われる。
新しく来たメスのブッポウソウは,6月1日の夕方,私が瀕死のブッポウソウを回収するとすぐに巣箱に入り,産卵床を整え始めた。瀕死のブッポウソウは,卵をひとつ産んでいた。このまま置くと新しいメスに壊されてしまうので,卵も回収した。回収した卵は,基地に帰る途中にA-14の巣箱に立ち寄り,電柱に登ってA-14のメスが産んだ4つの卵に混ぜておいた。6月23日か6月24日にはふ化するだろう。
さて,話は6月1日に戻ろう。6月1日にメスが瀕死の状態で発見されたH-30の巣箱では,巣箱のすぐ近くの電線に新しいペアがとまって,死に行くメス(図1)を早く巣箱から出せと,私の方に催促していた。新しいメスは,このメス(図1)を回収するや否や,巣箱に入って産卵床を整えていた。この時ばかりは,めったに見られなかったオスの姿も確認できた。
実はこのオスの行動は大変気になっている。H-30の巣箱には,前のメスとペアのオスと新しいペアのオスと,本当に別なオスがいたのだろうか?もし同じオスだったとすれば,同一巣箱において続けざまに起きたメスの死亡事件の顛末には,もうひとつのシナリオが考えられる。この件(キラーDの暗躍の可能性)については,後続の記事に譲りたい。
図1.頸動脈が損傷し,大量出血で死亡したメス(2番目に死んだメス)。首には流れ出た血を吸いに体長2-3mm前後の真っ黒い甲虫が何十匹と集まっている。ちょっとおぞましいシーンなので,まじまじと写真を見つめないように。
図2.死んだメスが生前に産んだ3つの卵。普通のブッポウソウが産む卵よりもはるかに大きいサイズである。
最初のメス(6月1日に死亡したメス)の方は,希望のあった大阪市立自然史博物館に標本として送付し,ひとつ産んでいた卵は,帰りがけにA-14の巣箱に混ぜておいた。このメス(図1と図2)の死亡原因も最初のメスと同じで,首を激しくつつかれたことによる失血であろう。損傷を受けた部分に集まった何十という黒い甲虫の粒を見ると,ぞっと身の毛がよだつ。
図1と図2に示したメスの死因は明確なので,鳥インフルの可能性はまずないだろう。(岡山県家畜衛生保健所と協議した。)もし鳥インフルならば,家で飼育している「ぴよ吉」はとっくに死んでいるはずである。あるいは,普段と全く違った健康状態となるだろう。
一方,このメスを手に持ってみてやけに重たいことに気づいた。そういえば,このメスの産んだ3つの卵も,ブッポウソウの産む普通の卵に比べて相当大きいことにも気になった。まだデータの集計は行っていないが,普通にブッポウソウの産む卵に比べて1.3倍ぐらいある感じがする。H-30で2番目に死亡したメスの卵がなぜこんなに大きかったのか,野外の鳥類の保護にとって極めて重要な課題である。
このような問題(鳥インフルの疑いではなく,H-30の2番目のメスが大きな卵を産んだこと)は,実験室における生理学的研究(内分泌学的研究)では,把握することが難しい。生態や行動観察の結果から提起できる問題である。
鳥の産卵のメカニズムは複雑である。生態学者に尋ねると,そんなことには関心がないと言われるだろう。生理学者(内分泌学者)に尋ねると,メカニズムは全部わかっていると言う。では,あなた達には全部わかっているというそのメカニズムで.この事例(例えばclutch size decline)をどう説明できるのかと問いつめると,うんともすんとも言わなくなるか(完全無視の回答),さっき全部わかっていると言っただろう・・・と激しく怒り出す者もいる。権威者の中には,確かに優れた見識をお持ちの方もおられるが,地位と見識の程度が比例するという単純な感覚をお持ちの方が圧倒的に多い。
そういう人たちをいつまでも相手にしていては,折角提起した問題もすぐに握りつぶされる。自分で調べて実験し,自分で判断し,自分で解決する覚悟がないと環境保護に関する学問は進まない。