令和4年(2022)のブッポウソウ情報 No.1:巣箱「ミカサ」の設置

令和4年(2022)4月28日(木)

 令和4年(2022)のブッポウソウの季節が,すぐそこまで近づいてきた。4月28日(木)までは姿を見た人はいないようだが,あと2日もすれば声(さえずり)が聞かれると思う。

図1.新しい巣箱「ミカサ」の設置。巣箱のついた電柱を立てようとしているところ。吉備中央町豊岡。4月18日。

・・・と書いていたところで,中山良二さんからメール連絡があり,吉備中央町の豊野では27日に2か所で鳴き声がしたとのこと。28日には3か所で声を聞いたという連絡があった。毎年繁殖地にやってくる時期がほとんど同じというのは大変興味深い。

  ブッポウソウに限らず,野鳥は繁殖に関係する体内時計(概年時計)を持っていることはよく知られている。渡りのタイミングや行動自体も概年時計(circannual clock)によってコントロールされている。概年時計は,非繁殖地にいる野鳥に対し,渡りの季節が近づくと内分泌活動の変化を通じて,鳥にその時期を知らせる。概年時計は,鳥の体内に備わっている約1年周期の行動変化の発現に直接かかわっている。繁殖行動の発現を実際の季節の変化に合わせる(同調させる)環境因子は光周期(photpperiod)つまり24時間周期の昼夜サイクルであろう。

図2.巣箱を先に電柱にくっつけてから,電柱を立てている(中山方式)。手前の低木はウメか。その奥がキリ(桐)。ブッポウソウは桐の枝にとまるはずという目論見のもとで,この場所に電柱をたてた。電柱たてには吉備中央町ブッポウソウ会のメンバー4名のご協力をいただき,30分ほどで完成した。

図3.新しく設置した巣箱。「ミカサ」という名前を付けた。データの集計上,巣箱にはナンバーでもよいし,固有名詞でもよいから名前を付ける必要がある。こんな名前だと,子供たちにも親しみがわくだろう。多様性プロジェクトでは,巣箱の形状や外見に関して写真家に配慮することはない。

 概年リズムの同調因子は昼夜サイクル(day-night cycle)の昼と夜の長さの周年変化と考えられる。しかし,非繁殖期に分布する熱帯域では,1年を通じて光周期はほとんど変化がない,と言う強い主張をお持ちの方がおられるだろうが,それは人間から見てそのように見えるということだろう。私は,野鳥は光周期のわずかな変化に敏感ではないかと思う。

  概年時計は,渡りに関するホルモン渡りのタイミングだけでなく,繁殖地に到着してから求愛給餌,産卵,抱卵,子育て,幼鳥の学習活動の時期も,体内の内分泌活動の大雑把に制御していると思われる。それぞれの子育てに関する固有の行動の発現するタイミングは,繁殖地に存在する各種の要因(例えば,エサがたくさんあるとか,夜間の気温が高いとか・・・)によって決められるのだろう。野鳥の持つ概年時計が繁殖地で作用するどのような因子に反応した結果,産卵日が早まるとか,あるいは産卵数(clutch size)が増加するかのメカニズムを明らかにすることが,私たちの仕事である。写真家とは目的が異なるのである。ご了解いただけるとありがたい。

図4.ミカサのある風景。桐はまだ若葉が出ていない。4月18日。

 ミカサのついた電柱(図2,3,4)は,吉備中央町の豊岡にある。今年(2022)には,どんなペアが入るのか楽しみである。多分新しいペアが入るのではないだろうか?飛来するのが5月中旬,産卵は5月25日前後からだろう。産卵数は4つの可能性が高い。産卵の終わりは,5月31日と予想する。つまり,5月中は卵温めを交代する頻度が低いため,巣箱への出入りは少ない。5月いっぱいは,カメラを構えていてもなかなかシャッターは切れないことが多い。

 ヒナがふ化する予定の5月31日から6月2日にかけては,依然として巣箱に出入りする頻度は低い。ヒナがふ化して1週間ぐらいは,エサを運んできた親は,いったん巣箱の中に入り,エサをかみ砕いてからヒナに与えている。ヒナに口移しで与えるエサには,親の分泌する消化液(唾液ではなく逆流した胃液だろう。)が含まれる。おそらくふ化したばかりのヒナは,胃液の分泌が不十分で,親からの供給が必要不可欠と思われる。

 孵化後1週間を過ぎると(6月7日あたり),ヒナはエサの甲虫を丸ごと呑み込むことができ,十分な量の消化液も分泌されるだろう。ヒナのエサをねだる声も大きく,甲高くなる。親はそれに反応し,エサ運びの回数(頻度)を増してゆく。6月25日ごろにはエサ運びのピークを迎え,それ以後はエサ運びの頻度は徐々に低下する。

 7月12日から13日あたりに,巣箱からヒナが顔を出す。親は近くの枯れ木にとまって「ケッ・・・ケッ・・・ ケッ・・・」と間隔を置いて鳴いているのに気づくだろう。巣立ちの催促である。親からの巣立ちの催促に促されて,幼鳥4匹が全部巣立つのは,ミカサでは7月17日ごろと予想される。他の巣箱とほぼ同じ時期に巣立つと予想される。

 このように,ブッポウソウが見たいという目的であれば,ヒナにエサを運んでくる時期の7月1日から7月15日の2週間の間に訪れるとよい。

<文献>

・今井清(2003)ニワトリにおける卵生産過程とそのしくみ。日本鳥学会誌 52: 1-2.
・ Verhulst, S., and J.-A. Nilsson (2008) The timing of birds’ breeding seasons: a review of experiments that manipulated timing of breeding. Phil. Trans. R. R. Soc. B 363-399-410.

図5.満開のハナミズキ。4月23日豊岡にて。ハナミズキはブッポウソウの大好きなコアオハナムグリが吸蜜のためにたくさん訪れる。しかし,4月23日だとコアオハナムグリはほとんど発生していない。ブッポウソウの声を聞く4月27日あたりから姿が見られ,5月10日ごろからはたくさん飛んでいる姿を見ることができる。

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