1.Introduction
毎年ブッポウソウに季節になると,都会から多くの写真家や観光客が吉備中央町を訪れる。そのような人たちは,仕事の合間にやってきて短時間滞在すればそれで目的を達することができる。
一方,私は何をやっているかというと,生態学や動物行動学の研究である。野生生物の研究となると,自分の都合(my convenience)を優先していては,すぐに立ち行かなくなる。ブッポウソウの都合を優先して行動計画を立てなくてはならない。観察もほぼ毎日行う必要がある。だから,正直に言えば,都会から来る多くの観光客や写真家のお世話をする余裕は全くない。そういうことは,よその団体がやっていただけばよいのだが,どこの団体も何かやりだすとすぐに閉鎖的な集団になる。そして会話は途切れてゆく。
私は,生態学,分類学,進化生物学などの分野は,自分の手足と頭を使って稼ぐ学問だと思っている。ブッポウソウと触れ合う時間が長ければ長いほど,良い成果が得られそうな気がする。野球やサッカーの能力を上達させるために,日々の時間を惜しんで,懸命に練習に励む若者がいる。そんな若者と同じ気持ちなのだと思う。
私はフィールドに出て,一人で過ごすのが好きである。長時間観察を行い,自分が得た結果を論文の中に思い切りたくさんちりばめてみたい。自然科学の多くの研究は,理論だけでは前に進まない。理論とカルトは紙一重の違いであり,理論に頼るようになると,結局はカルトの領域が待ち受けている。つまり,思い込みとか噂のように,実証されていない根拠に基づいて物を考えるようになる。
実際に現場に行って環境や生物をよく観察すれば,多くの事実を目にすることができる。まずは,文献や教科書に頼って知識を身に着ける必要はある。しかし,生物や環境の本当の姿は,実際に現地に行ってみて始めて理解できることが多い。
生態学,動物行動学,分類学,進化生物学は,フィールドに出るのが好きな者には向いている分野だと思う。逆に,動くことが大儀な人,職場から外に出たくない人は,こういう分野は向いていないかもしれない。そういう人たちは,社会に役立たない研究は意味がないだとか,食えるものこそ研究の意義があるだとかを声高に主張する。だから,ブッポウソウの研究など存在しないと思う人たちは,社会の中にたくさんいるはずだ。日本人に限らず,偏狭な心を持つ人は多い。偏狭な心から発する主張に打ち負かされぬように生きてゆきたい。
里山(woodland),サンゴ礁の島々,そして土佐湾の環境を自分の目で確かめて,それから何か自分の意見を言うと,自分の心はすごく平穏になる。私の頭の中には,そういう神経回路網が存在しているのだろう。その神経回路網を,生きている限り,フル回転させてみたい。しかし,7月下旬の里山はとにかく暑い。特に優れている訳でもない私の神経回路網も,厳しい暑さのために不調をきたしている。
2.撮影に関する基本情報
<撮影者と所属> 三枝誠行・近澤峰男(生物多様性研究・教育プロジェクト)
<撮影場所> 納地(吉備中央町),巨瀬町(高梁市)。<Key words> エコの里,巣立ち,警戒飛翔,威かく攻撃,里山の夏,EOS 7D。
<撮影機材> Canon EOS 7DにTAMRON Zoom Lens (28-300mm F/3.5 Di VC PZD)を付けた。
<参考文献>
Ferl, R.J., and R.A. Wallace. 1996. Biology: The Realm of Life. HarperCollins Collage Publishers.
図1.「エコの里」で見かけたハチのぬいぐるみ。後ろの雑木林や畑とよくマッチしている。日よけ,雨よけに傘がある方がよいのでは,などと余計な心配をしてしまう。グループの中には,すごく創作力の豊かなおばちゃんが混じっている。インターネットを通じて豊かな発想をどんどん発信してほしい。
図 2.「エコの里」の看板。ものすごく発想の豊かなおばちゃんたち(5 人ぐらい)が管理している。子供たちは,こういう絵には興味はないのだろうか?
図 3.「エコの里」の近くにある巣箱(D-04)。ヒナ(幼鳥)が巣箱から顔を出している。外では親が「巣立ちコール」をずっと繰り返していた。
図 4.巣箱 D-04 の観察場所。時々軽トラが通るので,観察には適していないが,巣箱を見る位置としては非常に良い。
図 5.エコの里の近くにあるもう一つの巣箱(D-08)。ここでは警戒飛しょうが頻繁に見られた。威かく攻撃に移行する直前のオス。
図 6.威かく攻撃をするオス。Focus はヒノキにあっているが,ブッポウソウもそんなにぼやけていない。ヒノキから飛び出して 10m ぐらいのところ。
図 7.ブッポウソウの威かく攻撃。たぶん 4m ぐらいのところまで来ている。ピントは後ろの木に合っているが,迫力ある画像だ。パシコールはなかった。
図 8.警戒飛しょうをしながらヒノキに戻る個体。Canon EOS 7D の威力はすごい。飛翔中の個体にもすぐに focus が合う。高速でシャッターも切れる。
図 9.広葉樹の枝にとまると,いる場所が特定しづらくなる。どこにいるかお分かりいただけるだろうか?
図 10.道路に落ちていたオニヤンマ。頭部の形態はコオニヤンマと大きく異なる。昆虫の複眼は実は左右非対称・・・なんてことはないのだろうか?
図 11.巨瀬町にある K-04 の巣箱。長らくスズメに負けていたが,昨年あたりからスズメに勝つようになった。気の弱いペアである。
図 12.幼鳥のいる雑木林。K-04 の巣箱から 50m ほど離れた林の中から,巣立ったばかりの幼鳥と親の鳴き声がずっと聞えていた。
図 13.K-04 の観察場所。ここは近くの家の人が親切なので,一人で来るのならば紹介できる。ただし,すぐに遠くに逃げるし,なかなか巣箱には来ない。
図 14.K-04 の観察場所のすぐ後ろにある社。地震があったら岩(地神)が転げ落ちて,鳥居を破壊する可能性あり。
図 15.K-04 のある場所をちょっと上ったところにある民家。ここの住人とは会ったことがない。上の林からも幼鳥の鳴き声が聞こえた。
図 16.幼鳥の顔出し。こういうケースでは,次に訪れた時(3 日から 5 日後)には,巣箱は空になっていることが多い。
図 17.駐車場の上に咲いていた橙色の花。種類はわからないが(調べていない),毎年この時期に咲いている。
図 18.自然の造形美。軽トラのフロントガラスにとまったヒメウラナミジャノメ(運転席から撮影)。1 秒前だと両方の翅(はね)の裏が見えた。