生物多様性研究・教育プロジェクト 四季折々の自然の風景と野鳥 2023–No. 15: ちょっといい話

令和5年(2023)5月23日(火)

1.はじめに
 ブッポウソウウが赤道近くの島々から日本列島に渡ってくるのは,4月終わりから5月中旬までの期間ではなかろうか?ブッポウソウがいつ巣箱の近くにいたかという自分自身の観察した記録を見ると,最初に予想したよりもかなり長い期間(25日間ぐらい)のような気がする。渡りをする期間についてはいろいろな意見はあるだろうが,仮説の検証(verification)まで考慮して発言する人はほとんどいない。

 ブッポウソウが巣箱の近くの電線にとまるようになると,直接的な被害を受けるのは,シジュウカラ,ヤマガラ,スズメである。シジュウカラ,ヤマガラ,スズメは,早い個体では,4月上旬から巣作りを開始する。(個体群における)産卵期間,抱卵期間,巣立ちまでの日にちについては,現在調査中であるが,産卵から巣立ちまでには,1ヶ月ぐらいかかるだろう。ブッポウソウが巣箱に現れ始めるのは5月上旬であるが,それまでに巣立ち(fledging)に至る巣箱は皆無である。

 巣箱にコケやわらを運んで作られた産卵床は,ブッポウソウに踏みつけられる。産卵床にある卵はブッポウソウにすべて割られるか外に捨てられる。もっとすごいのは,産卵床にいるヒナ(chick)はブッポウソウにつつき殺されるか,くわえて巣箱の外にポイされる。巣立ち寸前のヒナまでポイされることから,ブッポウソウが来たら命の助かる巣箱はないだろうと思われた。実際に5月15日の記録を見ると,巣箱の中はブッポウソウに荒らされ,近くには親も見当たらなくなった。

 巣箱M-05は,高梁市有漢町にある。M-05を最初に覗いたのは4月20日で,その時にはシジュウカラの親が卵を温めていた。5月8日に見たときにはヒナがいた。ブッポウソウの気配はまだ感じられなかった。少し間が開いて,5月18日にM-05に行ったときには,巣箱のすぐ前にあるコナラとアベマキの林の中で,ブッポウソウのペア(全部で5匹ぐらいいた感じ)が激しい巣箱争奪戦を演じていた。

2.被写体と撮影に関する基礎情報
<撮影者と所属> 三枝誠行・近澤峰男(生物多様性研究・教育プロジェクト常任理事)
<撮影場所> 高梁市有漢町上有漢(巣箱M-05)と高梁市巨瀬町(巣箱N-06)。<撮影日時> 令和5年(2023)4月20日から5月20日。
<Key words> 巣箱,シジュウカラ,ヒナ,巣立ち,ブッポウソウ。<記録機材> CASIO Exilim;SONY RX10Ⅲ(近澤第1カメラ); Canon EOS 7D plus マクロレンズ。
<参考文献>
 Williams T.D. 2012. Physiological Adaptations for Breeding in Birds. Princeton University Press.

図1.高梁市有漢町にある巣箱(M-05)。5月16日撮影。撮影当日は巣箱の前の林の中で,激しい巣箱争奪合戦(死闘)が繰り広げられた。

図2.卵かヒナの上に覆いかぶさって巣を守るシジュウカラのメス。5月5日撮影。パシューあるいはカチッ・カチッという声が聞こえる。

図3.巣箱の中で成長しているヒナ。5月8日撮影。7匹いるかもしれない。羽毛が生えてきている。

図 4.巣立ちが始まった巣箱。5 月 16 日撮影。巣を出て巣箱の角にいる幼鳥(young)は羽ばたいて巣箱の入り口から出ると思う。

図 5.巣立ち実行中の巣箱。5 月 17 日撮影。まだ全部残っているか,1 匹は巣だったか?

図 6.巣箱の近くの電線にとまる親。もうエサは運んでいないようだ。なお,親から「巣立ち促しコール」が発せられるかは不明。

図 7.巣箱の前を通過するブッポウソウ。5 月 16 日撮影。M-05 にブッポウソウがいつ来たかは不明だが,5 月 10 日あたりと予想される。5 月16 日の巣箱争奪戦は,5 月 10 ごろに来ていたペアに対して,当日別のペアとその他 1~2 匹が通りがかり,最初のペアが追い払おうとして発生したのだろう。2 匹で絡まってきりもみしながら地上に落ちたところを何度も目撃した。なお,この写真(図 7)では,ブッポウソウの姿がボケているが,私たちの活動の目的はきれいなブッポウソウの写真を撮ることではない。生態学的に意味のある写真を撮りたい。

図 8.M-05 の巣箱。5 月 20 日に撮影。シジュウカラが作った産卵床はブッポウソウに踏み荒らされ,ブッポウソウの産卵床に変わっている。

図 9.巨瀬町にある N-06 の巣箱。5 月 2 日に撮影。ブッポウソウはまだ現れておらず,シジュウカラのヒナは順調に育っていた。その後 1 週間見ていないが,5 月 10 日に行ったときには,巣立ち直前のヒナが巣箱の前の道に捨てられていた。N-06 にブッポウソウがいつ現れたか不明だが,事件のあった当日(5 月 10 日)と予想した。ブッポウソウは,N-06 に現れてからすぐにシジュウカラの巣を破壊したのかもしれない。

図 10.M-05(有漢町)の巣箱(左)と育っているヒナ(右)。5 月 2 日撮影。巨瀬町の巣箱 N-06 と同じ日(5 月 2 日)に撮影していることに注意。図 9 と図 10 を比較すると,ヒナの成長はほとんど同じと予想される。一方,ブッポウソウが来たのも,M-05 も N-06 も 5 月 10 日あたりと予想される。もしこの予想が正しいならば,N-06(図 9)では来てからすぐに巣立ち間近のヒナを捨ててしまったのに対し,M-05(図 10)では巣立ち直前のヒナ(幼鳥)がいる巣を荒らす行為は行っていなかったことになる。どうしてこんな違いが生じるのか,解明する必要がある。

図 11.M-05(有漢町)の手前にある四角錐の墓。「陸軍兵長 大石正志 昭和 19 年 7 月 13 日 於ビルマ戦死 行年 34 才」と記されている。

図 12.M-05(有漢町)の手前にある四角錐の墓。反対側には「陸軍伍長 大石一郎 昭和 20 年 1 月 17 日 於ビルマ国カンサー戦死 行年 28 才」と刻まれている。大石家では太平洋戦争でご兄弟をなくされた。春から夏にかけて,お墓の周りにはきれいな花がいっぱい咲いている。

図 13.墓のすぐ上の花壇に咲いていたキジムナーの花。花の名前はおばあちゃんが教えて下さったが,忘れました。

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