令和5年(2023)5月20日(土)
1.はじめに
吉備中央町の和中には,全部で5つの巣箱がある。宇甘川の北側に3つ(WA-01, WA-02, WA-95)と橋を渡った南側に2つ(R-20とWA-03)ある。一番離れているのがWA-01とWA-02で150mぐらいだろうか。あとは50mもないぐらいの距離である。
巣箱は300m以上離れて設置せよと言う方々がいる。そういう人たちは,ブッポウソウが入るかどうかに関心があるのだろう。確かに巣箱間の距離を大きくすれば,両方の巣箱に入るペアの割合は増加する。
生物多様性研究・教育プロジェクトでは,野鳥の生態を研究するために巣箱を設置した。和中では,ブッポウソウ同士の巣箱争奪合戦を防止できるか,またシジュウカラやヤマガラはブッポウソウの巣箱で子育てができるか,研究を進めている。いわゆる保護団体とは異なった視点で活動が行われている。巣箱間の距離を300m以上離すというのは,保護団体の活動方針(ルール)であり,そちらの方々の間で順守していただければよい。しかし,私たちが巣箱をかけるのは,ブッポウソウが入ることを前提にしている訳ではない。
要は,保護団体では300mルールが確立しているのだから,保護を目標にされる方々は,話し合いによって300mルールを維持してゆくのがよい。都合が悪くなったら100mに変更するというのは,あまりに虫が良すぎる話ではないか。
今年はブッポウソウの出足が鈍かった。そのことを示す状況証拠(circumstantial evidence)はたくさんある。5月1日から3日までにブッポウソウが来たという報告はあったが,一匹だけしかいなかった巣箱も多いのではないか。また,5月7日(日)には大雨が降り,風も強かった。東シナ海では5日から6日にかけて,天候の状態がよくなかったと思われる。悪天候が影響したという証拠はないが,5月4日から8日までにブッポウソウが来たという報告はなかった。
私の方は,4月17日から雨天の日を除いてほぼ毎日のように巣箱を見て回っている。ノートには,5月9日まではブッポウソウの来ている気配のない巣箱が多いと記されている。5月10日を過ぎると,シジュウカラやヤマガラの巣が壊されている巣箱が増えてきた。例年なら,5月12日か13日あたりからあちこちで聞こえる威かく音声(ケー・ケケケケケ)も,今年は5月15日に上有漢(M-05)で初めて聞いた。
2.被写体と撮影に関する基礎情報
<撮影者と所属> 三枝誠行・近澤峰男(生物多様性研究・教育プロジェクト常任理事)。<撮影場所> 和中(吉備中央町)。
<撮影日時> 令和5年(2023)5月18日(木)。<Key words> ブッポウソウ,5月1日,5月14日,5月18日,ペア形成
<記録機材> 近澤第2カメラ(Canon EOS 7D Mark II with Canon 600 mm レンズ)。
<参考文献> Newton, I. 1994. Experiments on the limitation of bird breeding densities: a review. Ibis 136: 397-411.
図1.巣箱(WA-01)の前方に設置された「鹿の角」。ブッポウソウの観察場所ではないので,撮影は限られた数人に許可している。
図2.「鹿の角」にとまるオス。5月14日(日)。行動の様子から,毎年ここにきている個体に間違いないだろう。
図3.WA-01に来るときには,宇甘川に近いWA-02を経由して入ってくる。WA-01に定着すると,頻繁にWA-02に出撃し,侵入者を追い払う。
図 4.巣箱 WA-02 の近くの電線にとまるオス。しばらくすると奥にある WA-01(鹿の角)に移動する。5 月 14 日。
図5.WA-02からWA-01に移動して「鹿の角」にとまったオス。5月14日。午前中は晴れていた。
図6.雨の中で「鹿の角」にとまり,」メスを待っているオス。しばらくしてWA-02の方に飛んで行き,その後行方不明になった。5月14日。
図7.メスを連れてWA-01に戻ってきたオス(左側の個体)。オスは体を横棒の上に乗せて,リラックスしている。5月18日。和中の基地(WA-01)に戻る時にWA-02の近くを通る。その時に見かけたペアがWA-01に移動した。
図8.メスの思い出の枯れ木(中央の少し奥にあるクリの立ち枯れ)。しばらくしてメスはこの枯れ木にとまって私を見に来た。
図9.クリの立ち枯れにとまるブッポウソウのメス。オスが連れてきたか,自分で来たのかは不明だが,「鹿の角」にとまってからしばらくして私がいる場所の近くにあるクリの立ち枯れにとまった。2年前だったと思うが,このメスはまさにこの場所で巣立ちした幼鳥にエサ(クワカミキリ)を与えていた。全く同じと言ってもよい写真を2年前に撮影している。その時のメスが,今ここにいる。ちょっと感動的シーンである。