生物多様性研究・教育プロジェクト 四季折々の自然の風景と野鳥 2023–No. 9: うまく巣を防衛できるシジュウカラもいそうだ。

令和5年(2023)5月7日(日)

1.はじめに
 ブッポウソウは,シジュウカラやヤマガラの成鳥(matured specimens)を襲うことはない。カラスはもう少し凶暴で,巣立ちしたばかりの幼鳥を襲うことはあるかもしれない。ブッポウソウが他の種類の野鳥を襲撃しないのは,ブッポウソウが「優しい」鳥だからではない。シジュカラやヤマガラは,ブッポウソウの巣箱の中に巣材(コケ)を運んで産卵し,子育てをすることも多い。4月末から5月上旬に繁殖地に飛来したブッポウソウは,シジュウカラやヤマガラの親の隙を見計らって巣箱に侵入する。巣箱の中で卵を破壊し,ヒナをつついて殺したり,口にくわえて巣箱の外に放り投げて殺すことは,よく見られる光景である。

 「ブッポウソウのために作った巣箱だから,ブッポウソウが使う権利がある。」などと言う幼稚な議論を持ち出して,ブッポウソウの肩を持つ(忖度する=to please him/her)人たちがいることは把握している。日常,自分の都合ばかりを考えて行動し,自分自身を客観視できないと,そんなものの考え方になるのだろう。

 ブッポウソウの巣箱は,人にとっては,ブッポウソウのために作られたのかもしれない。しかしながら,同じ生態系の中にいるシジュウカラやヤマガラにとっては,人間の自分勝手な忖度は通用しない。ブッポウソウために作った巣箱であっても,自分たちの子育てに適した場所と判断すれば,巣材のコケを大量に運び,産卵し,ふ化したヒナにエサ(主に鱗翅目幼虫)を運んで子育てを行う。

 ブッポウソウ信者の方々は,私が問題を指摘すれば,また別の理由や原因を考えて,ブッポウソウを神様のように崇めたてようとする。返事に窮すると,「理屈なんか言うんじゃない。」と本音が出てくる。私は「カリスマ性」が低いので,そういう人たちとの「いたちごっこ」(cat-and-mouse chase game)にいつまでも付き合っていられない。

 そのような人たちとは,生物に対する見方・考え方が,根本から異なっている。つまり,私は,生物の世界で観察される検証可能な事例を根拠にして自分の意見を述べている。多くの方々のように,権威者の意向に忖度して生物を見ている訳ではない。そのギャップは,話せばわかるという次元をはるかに超えている。権威者の肩を持つ人々は,私の書く記事は見ない方がよいだろう。見たとしても,不満なところしか見当たらず,怒りばかりが増幅されるに違いない。

 話をシジュウカラとヤマガラの子育てに戻す。ブッポウソウは,シジュウカラやヤマガラの成鳥を襲撃することはない。しかし,巣箱にあるシジュウカラやヤマガラの卵があれば,食べてしまったり,巣箱の外に持ち出して捨てることは普通にある。
これは,卵の大きさ(size)の問題ではない。なぜならば,巣箱の中にあるブッポウソウの卵でさえも,新しく来たブッポウソウはつついて壊したり,嘴でくわえて外に捨てたりする。まだ羽毛の生えていない赤子ヒナでも,自分の産んだ卵からふ化した個体でないと,つついて殺すこともあるだろう。

 ブッポウソウの場合には,巣立ちした後のシジュウカラやヤマガラの幼鳥(young)を,つつき殺すことはしない。つまり,ヒナの間に,つつき殺すことができるか,そうでないかを決める発育ステージ(growth stage)の境界があると考えてよいだろう。まだ羽毛が生えていないステージ(私は「赤子ヒナ」と呼んでいる)の時は,巣箱に入れたカメラ(Casio, Exilim)に反応し,口を大きく開けてピー・ピーと「エサくれコール」を発している。赤子ヒナの発する「エサくれコール」は,親にとっては「エサやり行動」を促進させるが,捕食者にとっては,「あそこにすごく良い餌があるぞ!」というサインになる。

 ブッポウソウの場合には,赤子ヒナを食べることまではしないが,巣箱に押し入って蹂躙することが可能と判断するのだろう。赤子ヒナの場合には,親が巣箱の入り口でブッポウソウの侵入を防衛する(いわゆる「通せんぼ」する)か,ヒナの上にかぶさって「パシュー・パシュー・・・・」という威嚇音を発するかすれば,ブッポウソウによるヒナの蹂躙を免れる可能性が高い。一方,親はエサを取りに頻繁に巣箱を離れる。いくら雌雄がうまく連携したとしても,その隙を狙ってブッポウソウが侵入することは,避けられないように思われる。

 だがしかし,どの種類の野鳥のヒナも,少し成長して体表に羽毛が生えてくると,外からの親の警戒音に反応して,ヒナは一斉に口を閉じ,体を固める。ブッポウソウでは,親の発する警戒音は「ケケッ」という短い音声信号であるが,シジュウカラとヤマガラはどれが警戒音かまだ判別できていない。「ジャキ・ジャキ・ジャキ」とか「ピピピ・ピー」とかいう強い音声が,該当するかもしれない。

 ブッポウソウは,羽毛ヒナのいる巣箱も覗くことはあるだろう。しかし,巣箱の底には黒い「何者か」が,声も出さずにじっとしている。そんな巣を見ると,攻撃行動は抑制されて,代わりに逃避行動が発現すると考えることができる。私は今まで,多くの野鳥が親の発する警戒音に反応して,一斉に口を閉じ,体を固める行動に意味があるのか疑ってきた。しかし,シジュウカラやヤマガラの子育てを観察し,一斉に口を閉じ,体を固める行動が,捕食者(predator)や巣を乗っ取ろう(usurp)とする個体から巣(nest)を守るのに極めて重要な役割を演じているのではないか,と考えるようになった。

 1年だけではデータが不足だ。来年もう一度やって,今年の結果と仮説を検証したい。2年間で得られた結果は原著論文にまとめて,editorやreviewerの意見を聞いてみたい。

2.被写体と撮影に関する基礎情報
<撮影者と所属> 三枝誠行・近澤峰男(生物多様性研究教育プロジェクト常任理事)
<撮影場所> 吉備中央町,高梁市有漢町。<撮影日時> 令和5年(2023)5月4日(木)~6日(土)。
<Key words> シジュウカラ,赤子ヒナと羽毛ヒナ,ブッポウソウ,巣荒らし,警戒音。
<記録機材> CASIO Exilim, SONY RX10Ⅲ(カメラ),SONY Handycam HDR-CX 680(ビデオカメラ),SONY リニアPCMLレコーダー,なお近澤第2カメラ(Canon EOS7D Mark ⅡとCanon 600mm AFレンズの組み合わせ)は,まだ出番がない。今は,生物をいかにきれいに撮影するかよりも,生物の行動に関する野外実験に集中したい。

<参考文献>
・Newton, I. 1998. Population Limitation in Birds. Academic Press, Amsterdam.
・Williams, T.D. 2012. Physiological Adaptations for Breeding in Birds. Princeton University Press, Princeton and Oxford.
・MacKinnon, J., and K. Phillipps. 2010. A Field Guide to the Birds of China. Oxford University Press. New York.

図1.巣箱(L-09)を守るブッポウソウのオス。巣箱の中にはメスが入っている。高梁市有漢町(2023年5月5日)。

図2.巣箱(L-09)の中で産卵床を整えているメスのブッポウソウ。5月5日。巣箱にカメラ(Casio Exilim)を入れるとけたたましく鳴く。

図3.自立柱にかけられたH-25の巣箱。

図4.巣箱(H-25)の中にあるシジュウカラの巣。中の「赤ヒナ」は,ブッポウソウに踏みつけられてすでに死亡していると思われる。5月5日,吉備中央町にて。

図5.高梁市川井町にあるL-09の巣箱。

図6.シジュウカラの巣とヒナ6匹。ヒナはまだ羽毛が生えかけで,赤ヒナ状態。まだブッポウソウの蹂躙を受けていない。5月5日。

図 7.L-09 の巣箱に現れたブッポウソウ(5 月 6 日)。L-09 の巣箱にいるシジュウカラのヒナ(図 6)は助からないかもしれない。

図 8.シジュウカラの巣箱防衛行動。入口に立って「通せんぼ」をすれば,ブッポウソウは入れない。周囲を強く警戒している。5 月 5 日。

図 9.B-12 の巣箱。巣箱の中では 5~6 匹の「羽毛ヒナ」が口を閉ざして体を固めている。こういう状況だと,巣箱を覗いたブッポウソウは,攻撃衝動(destructive urge)が抑制され,逃避行動(escape)が発現するだろう。つまり,B-12 のヒナは巣立ちする可能性が高い。

図 10.シジュウカラの巣防衛行動(nest-defensing behavior)。尾を広げパシュー・パシューという鳴き声を発する。パチ・パチと鳴く個体もいる。

図 11.ミドリカミキリをくわえて路上をうろうろするホオジロ。近くに巣があるのだろう,飛び立とうとしない。ホオジロも,親になればブッ ポウソウやカラスの襲撃を受けることはない。ヒナはカラスやほ乳類の攻撃を受けるだろう。

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