生物多様性研究・教育プロジェクト Internet Photo-Exhibition of Wild Animals(インターネット野生生物写真展) 2023–No. 8 ピンクと赤の入り混じったスモモ(?)の花

令和5年(2023)4月8日(土)

1.はじめに
 吉備中央町の里山には,3月下旬になるといろいろな種類の花が咲き始める。早いのは桜であるが,品種(varietyとかraceとか)によって異なる。一番早いのはカワズザクラであるが,吉備中央町では見かけない。次に早いのは,景翁(けいおう?)とかいう品種で,3月18日に江与味(美咲町)に巣箱の掃除に行ったときには満開になっていた。3月下旬になると,道路沿いに植えてあるソメイヨシノが一斉に咲き始めると,里山は一気に春の雰囲気が漂い始める。

 吉備中央町の和中(多様性プロジェクトの基地)では,4月初めからヒメリンゴの花が咲き始めた(図1)。最初は樹の種類がわからなかったが,花を拡大するとヒメリンゴとわかった(図2)。ヒメリンゴは,日本でもよく見かけるが,実(小さいリンゴ)がなるかはわからない。

「ヒメ」は「小さい」という意味で「お姫さま」の意味はない。カミキリムシでは,ヒメカミキリ(類),ヒメクロトラカミキリ,ヒメアヤモンチビカミキリ,ヒメヒゲナガカミキリ・・・など。チョウではヒメギフチョウ,ヒメシロチョウ,ヒメウスバシロチョウ,ヒメウラナミジャノメ・・・など,「ヒメ」の付く昆虫類は実に多い。

 なお,私もヒメリンゴの枝を食害するカミキリを観察したことがある。その時には,ヒメリンゴカミキリではなく,ルリカミキリ(の幼虫)だった。リンゴカミキリ類の幼虫は,バラ科植物を食害するとある。場所によっては,ヒメリンゴカミキリがヒメリンゴの枝や幹を食害することもあるのだろう。

 ヒメリンゴの木は,ロシア(カザニ周辺)の野原でもよく見かけられ,実(fruit)が薄黄色の種類と真っ赤になる種類の2つあるようだ。白雪姫は魔女にこのリンゴ(赤い方だろう)を食べさせられてこん睡状態に陥った。私も,小さくて真っ赤なリンゴを恐る恐る食べてみた。とんでもなく苦いのですぐに吐き出したが,毒はなさそうである。こんなリンゴを食べる動物は苦いと感じないのだろうか?

 毎年4月上旬には,和中にある民家の軒先にピンクと赤の入り混じったスモモ(?)の花が咲いている(図4)。最初は,赤色の花をつける枝を,ピンクの花をつける樹の幹や枝に「接ぎ木」して,こんな風景(図4)になったのかと仮定した。もしそうならば,赤の枝とピンク枝が厳密に分離するはずである。そう思って,持ってきたカメラで接写をして画像を解析すると,ひとつの花の中にも赤い部分とピンクの部分とが入り混じった形状になっていることに気づいた(図5と6)。花の一部が赤色だったりピンクだったり,花全体が赤だったりピンクだったりが,それぞれひとつの枝や幹に入り混じって咲いていた。

 このような花びらの形成は,接ぎ木や接ぎ枝では説明がつかない。おそらくこのような花(図4~図6)をつける品種があると思われる。この家に住む方は,「源平何とか」という種類ではないかと言われていたが,おそらくそんな種類(栽培品種)があるのだろう。

 スモモの花びらの色の発現には,少なくとも2つの遺伝子が関係しているだろう。ひとつは赤色,もうひとつはピンク色である。両方の遺伝子は対立関係にはなく,花弁(花びら)ができるときにどちらか一方の遺伝子が発現する(あるいは両方同時に発現することもあるかもしれない。)という風にして,完成した花びらの中に赤とピンクがいろいろな割合で入り混じってくるのではないか,と予想した。

 高校の教科書(生物Ⅰ)は,生物の発生(development)と遺伝子発現(gene expression)の関係の記述はなく,突然メンデル遺伝学から始まる。しかし,多くの事例を見ると,メンデル遺伝は特殊なケースであるとわかってくる。特殊な「メンデル遺伝」を一般化して多様な形態形成(morphogenesis)を説明する古典的な方法(つまり,ルールや法則に基づく事象から多様な結果を導き出す演繹法)よりも,現代生物学の知見(対立関係にはない複数の遺伝子が関係した形質発現)に基づいて考えられる可能性や,木村資生氏のお嫌いなハーディ・ワインバーグの法則を考慮した説明(複数の事例から共通点を導き出し,一般論となる結論を出す帰納法)の方が,発生と遺伝との関係をよりよく理解しやすいのではなかろうか?

 いずれにせよ,最近の高校の教科書を見ると,自然科学の知識を詰め込むためのテキストになっていて,「考えて答えを出す」という自然科学本来の目的や目標から益々離れていくのがよくわかる。一所懸命考えて原理,原則,理論の意味がよくわかれば,後は応用として技術の習得や向上は容易にできる。研究における本末転倒の傾向が強まって,知識を吸収すれば自分は有能だと信じている人が増えている。

 本末転倒の主要な原因は,自然科学に携わる「実務家」の割合が急速に増加していることだと思う。自然科学の研究に携わるかを問わず,人は時間を使って考えないと,この厳しい世の中,本当に自分が生きてよかったと思える道を見つけるのは極めて困難である。

 当日(4月5日)は,今は亡き近澤峰男さんも峰ぴょん谷に来ていただいて一緒に撮影した。私が使ったカメラはCanon EOS 7D(中古,ランクはAB)に接写用のマクロレンズ(Canon Compact-macro Lens)をつけて撮影した。マクロレンズはB級品だったが,非常に良い状態であった。ともにカメラのキタムラで購入した。

 今までは,接写のためにPentax-KrやK10に50 mmマクロレンズ(Sigma DM Macro 1:2.8)をつけて使用した。Pentaxのカメラはオートフォーカスがないので(古い機種),撮影には随分と忍耐力が必要だった。少し逃げては止まるという昆虫を追いかけるとよくわかる。

 その点,EOS 7Dはオート・フォーカスが可能なので,撮影は楽にできる。画質も優れている。ただし,近づくとすぐに逃げるアオタテハモドキとかハンミョウを撮影するには,ズームの可能なSONY RX10Ⅲあたりを使った方が,しんどい思いをしなくて済む。

2.被写体と撮影に関する基礎情報
<撮影者氏名> 三枝誠行・近澤峰男(NPO法人生物多様性研究・教育プロジェクト常任理事)。
<撮影場所> 和中周辺(吉備中央町)
<撮影日> 令和5年(2023)4月5日(火)
<撮影機材> Canon EOS 7Dにマクロレンズ(Canon Compact-macro Lens, EF 50mm 1:2.5)をつけて撮影。

<参考文献>
・木村資生(1988)生物進化を考える。岩波新書。
・高等学校教科書(生物Ⅰ)。新しくは「生物基礎」となっているようだ。メンデル遺伝は,以前と変わらず残っているだろう。
・小島圭三・林匡夫(1981)原色日本昆虫生態図鑑 I. カミキリ編。保育社。
・福田晴夫他(1975)原色日本昆虫生態図鑑 Ⅲ. チョウ編。保育社。

図1.4月上旬に咲くヒメリンゴの花。樹皮はルリカミキリの幼虫の食害を受けるが,和中ではルリカミキリは見たことがない。

図2.ヒメリンゴの花。拡大するとリンゴの花そのものである。今は亡き片山さんのおばあちゃんが畑に植えたのだろう。

図3.ホトケノザの花にとまるハエ(種名はわからない)。EOS 7Dとマクロレンズの組み合わせは,なかなか良い写真が撮れそうである。

図4.赤とピンクの花が入り混じったスモモ(?)の木。こんな樹は今まで見たことがなかった。

図5.赤色とピンク色が異なった割合で発現しているスモモの花。私は美しい自然に接すると,すごく元気が湧いてくる。

図6.一つの花全体が赤いところ,ひとつの花全体がピンクのところ,少しだけ赤が混じるパターンもある。実務家には理解できない世界がある。

図7.赤とピンクの入り混じった花の木から10m離れたところにあったスモモの木。こちらは一本の樹全体が赤一色だった。

図8.里山の春。桜は散りかけ,緑が濃くなっている。昔は,特に医・歯・薬系,あるいは工学系の奴らに(全部ではない)「役にも立たない記事を書いて,何を遊んでいるんだ・・・。」とよく罵倒されたが,そんな奴らに負ける気はしなかった。この世の中,重症化した偏見を抱いて生きている人たちは非常に多い。

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