生物多様性研究・教育プロジェクト Internet Photo-Exhibition of Wild Animals(インターネット野生生物写真展) 2023–No. 6 巣箱掃除完了の報告

令和5年(2023)3月19日(日)

1.はじめに
 ブッポウソウは,生態学的には「第2次樹洞営巣性鳥類」に入る。「営巣性」と言っても,ブッポウソウの場合には,木の「うろ」(cavity)をそのまま「巣」(nest)として利用するだけで,空洞の周囲をつついて内部の空間を多少広げることはしても,スズメやシジュウカラのように自ら「巣」と言える形状を作ることはしない。他人(キツツキ)の作った巣をほぼそのまま利用するので,産卵や子育てにわざわざ巣材を準備する必要がなかったのだろう。

 このような習性を持つ野鳥の場合には,山火事で焼けた後に残った大木(snagという)がたくさんあり,キツツキがいっぱい樹洞を作ってくれる環境が維持されているうちは,個体数が増加する。しかし,山火事が減り,キツツキの作る巣穴が減ってくると,子育てをする樹洞がなくなるためにブッポウソウの個体数は急激に減少する。実際に,キツツキ(日本の場合にはオオアカゲラ)の作った巣穴が著しく減少した時期(1990年前後)には,ブッポウソウは日本列島では絶滅が危惧されるようになった。

 第2次樹洞営巣性鳥類(secondary cavity-nesting birds)は,スズメやシジュウカラと違って,自分たちで巣材を運んで巣を作らない。だから,樹洞の代わりとなる木の箱を置いてやれば,そこに入って子育てをするだろう。最初は偶然だったが,ある程度の容積の巣箱(nestbox)を樹幹(電柱)にかけてみたら,そこに入って産卵し,子育てをすることがわかった。・・・ということで始まった巣箱かけは,いまや中国・四国地方ではごくありふれた季節の行事となっている。

 巣箱かけは,ブッポウソウの個体数を増やすには実に効果的な作戦だったが,大きな問題が残った。それは,ブッポウソウのヒナたちは,巣箱の中でウンチをして,巣立ちの頃には巣箱の中に相当な量のウンチがたまることであった。加えて,スズメは巣箱に大量のワラを運び込んで「巣」を作る。シジュウカラも結構な量のコケを巣箱に運んで「巣」を作る。結局,ブッポウソウの子育てが終わるまでに,巣箱の中に大量のフンやわらやコケが残される結果となる。これらを毎年掃除してやらなければ,次の年に同じ巣箱にやってきたブッポウソウは,樹洞という形状を越えて,ツバメの巣のような形状の巣箱の中では,産卵行動が抑制されるため,産卵できずにどこかへ逃げ去ってしまう。

 だから,ブッポウソウの個体数を維持しようと思ったら,毎年ブッポウソウの巣箱を掃除して,巣箱の中に巣材(私の場合には,片山さんの工場でもらった外材のおがくず)を入れておく必要がある。おがくずを入れるのは,ブッポウソウが卵(胚)を温める際に,卵が巣(incubation chamber)から転がり出ることを防ぐ目的がある。

 巣箱の掃除は,いわゆるブッポウソウの保護を自称する人たちのように厳密にやる必要はない。また,巣箱自体も隙間があって反対側の「隙間」が見えるような構造であっても差し支えない。巣箱の入り口のサイズも,巷では直径何センチがよいなど,主張はかまびすしいが,そういう人たちのやることは,ひとつの掃除に異常に長い時間を費やしたり,隙間の全くない巣箱を作って中に水がたまり,ブッポウソウのヒナを溺死させたり,逆に全く水滴が入らず,ヒナを脱水症で死亡させるような事件を引き起こしている。注意してはいるが,保護を自称する団体の特性として,身勝手な判断(例えば,人間から見てきれいに見える巣箱づくり)を優先させているものだから,他人の意見に聞く耳持たずの人たちが多い。

 そういう人たちは,聴く耳持たずの割には,行政には平身低頭する習性がある。お上にぺこぺことみっともないまでの姿をさらすことと引き換えに,自分が利益を受けることができる。そんな習慣は,江戸時代から現代に引き継がれている。お上はそこまでして平民に自分の権威を認めてもらいたいと思っているし,平民はそうすればお上から利益を受けられることがわかっている。日本という国の特徴は,互いの心の中にある人間の弱さを利用し合った社会関係の構築にある。

 とにかく,自分の置かれている状況を客観的に判断する能力が不足した人たちが多い。田舎の人間だからということではない。国民全体にそのような傾向が強い。インターネットやマスコミの報道を聴いていると,これからの社会には,自分の立ち位置を客観的に判断する能力を身につける必要性を強く主張している記事が目立つ。ブッポウソウの研究が,そういう能力の育成や改善に少しでも役立つことができたら・・・と思う。

 今年(2023)は,ブッポウソウの巣箱の掃除は,3月1日から始めた。最初の1週間はずいぶんと寒い日が続いたが,後半は暖かい日が多く,16日間で終了した。今年は壊れた巣箱を修理したり,新しいものと取り換えながら作業を進めたので,1日当たりの掃除巣箱数のペースは,昨年までと比べて3分の2に落ちた。設置した巣箱も研究目的の変更に合わせて,特に吉備中央町ではかなりの程度再編を行った。研究の効率と自分ができる数を考えれば,来年からは,さらに大幅な編成替えが必要になるだろう。

 なお,巣箱の数の報告は,吉備中央町は他の市町村に比べて多くのブッポウソウが育っているという政治的な目的に利用されるだけなので,正確な数は公開していない。「どれぐらいの数の巣箱を・・・?」「うん,そこそこの数なんだ・・・と。」

 私がブッポウソウの巣箱をかけるのは,純粋に野生動物の行動の発現機構を知りたいからである。吉備中央町がいかに巣箱かけに熱心に取り組んでいるかを示そうとしている訳ではない。しかし,広い視点で見れば,多様性プロジェクトの活動は十分に地域貢献でき得る方向に向かっていると思う。活動の展望(scope)や目的(aim)は,ひとつしかないというのはまずいだろう。多様な視点で,社会貢献を進めて行く必要があるし,地方公共団体は多様な活動を理解し,受け入れたらよいだろう。

2.被写体と撮影に関する基礎情報
<撮影者氏名> 三枝誠行(NPO法人生物多様性研究・教育プロジェクト常任理事)。
<撮影場所> 吉備中央町,高梁市(有漢町・巨瀬町・川面町),北房町,美咲町江与味。
<撮影日> 令和5年(2023)3月1日から3月18日。
<撮影機材> SONY RX10Ⅲ,およびEOS 7D(タムロンのレンズ)。

<参考文献>
・堀田昌伸・江崎保男(2001)樹洞営巣性鳥類の樹洞をめぐる種内・種間の相互関係:特に自然樹洞について。日本鳥類学会誌50:145-157。
・Newton, I. (1998) Population Limitation in Birds. Academic Press.  
・MacKinnon, J. and Phillips, K. (2010) A Field Guide to the Birds of China. Oxford University Press.

図 1.巣箱掃除を行った日にち。2023 年 3 月晴天の日が続き,期間の間に休めたのは 2 日間(12 日と 13 日)だけであった。

図 2.巣箱掃除 3 日目。2 月末から 3 月にかけて,田んぼの土起しや畔の草刈が始まる。作業は,夫婦で行っているところがある。写真の左側のご夫婦は,作業の合間に一休みしているところ。写真に写っている範囲をきれいにするだけでも大変な作業である。吉備中央町細田にて。

図 3.吉備中央町上田西に新しく設置した巣箱。まずはシジュウカラが入るだろう。シジュウカラはいつ,そしていくつ卵を産むか楽しみだ。3 月 3 日。

図 4.ブドウの枯れ蔓にとまるホオジロ。もっと拡大してもよいが,これで十分きれいさがわかるだろう。3 月 3 日,吉備中央町上田東にて。

図 5.原っぱに萌え出る雑草の上を歩くツグミ。ツグミで間違っていないだろうか?3 月 3 日,高梁市川面町にて。

図 6.砂利の上でゴロンする「華」。人にまとわりついて何をするかというと, 地面に寝転がってゴロンを繰り返している。自分なりの愛情表現であろう。

図 7.白い壁の土蔵と梅の花(3 月 4 日)。白い壁とピンクの梅の花(桜ではない)がよくマッチしている。高梁市有漢町にて。

図 8.県道 78 号(長屋賀陽線)の一番奥にある集落(高梁市川面町)。78 号線は山の奥に行く従って棚田が多くみられるようになる。3 月 3 日。

図 9.菜の花に吸蜜に来たキタテハ。3 月 15 日,高梁市有漢町にて。多分越冬した個体だろう。今年(2023)の春はキタテハの姿が目立つ。

図 10.自宅前の菜園を耕している人。里山では春になるといっぱいみられる光景。何の種をまくのだろうか?3 月 15 日,高梁市中井町。

図 12.自宅の前の菜園で畑仕事をするおばちゃん。高梁市有漢町「有漢どん詰まり」の里山の風景。野菜の種を植えているところと思う。3 月 16 日。

図 13.「有漢どん詰まり」の里山の景観。桜はまだ咲いていなかった。3 月 16 日。

図 14.春まで残ったウルシの実。ヤマハゼかナツハゼ納見の実かもしれないが,この低木の種類がわからない。3 月 16 日「有漢どん詰まり」。

図 15.「有漢どん詰まり」で見かけたウルシの実。吉備中央町(和中)では、ルリビタキがこの実を食べに来ていた。和中では全部なくなっていたが,ほかの地域では結構残っていることが多いので,ウルシの実を食べる野鳥が少ないのか,ウルシの実はあまり好きではないのか,どちらかであろう。3 月中旬になって暖かくなると,新芽を食べる小鳥たちが増加するようだ。3 月 16 日。

図 16.3 月 16 日。高梁市巨瀬町にある L-06 の巣箱。まずスズメがワラ積みをした後にブッポウソウが入って,わらを踏みつけて自分の産卵床を作った。ワラの上にヒナ(4 匹?)がフンを残して成長し,幼鳥として巣立った。昨年(2022)は,産卵数や巣箱占拠状況の調査はしなかった。

図 17.ブッポウソウの巣箱の中で頻繁にみられるタマムシのクチクラ。タマムシは飛んでいるのはめったに見られないが,巣箱の中にはフンに混じって外骨格の切れ端が転がっていることが多い。ブッポウソウはよほど光物が好きらしい。タマムシの個体数はブッポウソウの捕食により確実に減っていると思う。タマムシの保護者という人は聞いたことがないが,もしいたら現在の状況にとんでもないお怒りを発すること間違いない。

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