令和4年(2022)7月9日(土)
図1.「有漢どん詰まり」のあるL-05の巣箱(6月29日)。電柱と巣箱は,周囲の景観(landscape)とよくマッチする。一方,SONY RXⅢでは青空はうまく撮れない。照度が増すか,コントラストが強すぎるとよくないみたいである。逆に,木々の種による微妙な形状の違いはうまく表現できる。レンズ(Zeiss)の解像度が高いのだろう。
ブッポウソウの巣箱や電柱を一種のオブジェとみなせば,これらは里山の雰囲気(景観)を盛り上げるアート(Art)になる(図1)。高梁市有漢町にある谷(「有漢どん詰まり」と呼ぶ)と尾根筋には多くの巣箱が掛けてある。L-05が架けてある場所(図1)は,どん詰まりの谷の尾根を挟んで隣の谷にある。どん詰まりの手前から小道を右に入ってすぐのところにあるが,4駆の軽トラでないと行くのは無理だろう。多様性プロジェクトの巣箱は,不肖私の研究のためにつけてあり,他人がブッポウソウを撮影することは考慮していない。普通車や2駆の軽自動車で入ると,自力ではまず確実に出てこられない悪路が多い。悪路を折り返す運転技術が必要だし,どこで折り返すかの高度な判断力(これはウソ)が求められる。
図2.「有漢どん詰まり」の奥にある巣箱(B-15)。上流にももうひとつ巣箱があったが,岡山自動車道の4車線化に伴う残土置き場建設のために電柱自体がなくなった。もう4~5年前の話になるが,この巣箱に大きなアオダイショウが入っていたことがあった。電柱に登ってふたを開けてみると,ブッポウソウの親もいっしょに入っていた。親は逃げたが,ヒナは全部食べられていた。アオダイショウをつかんで外に捨てようとする際に,手を噛まれた記憶がある。大丈夫かとしばらく心配だった。6月26日撮影。
図2は,「有漢どん詰まり」の最も上流にある巣箱(B-15)を示している。巣箱の上にはケヤキの大木の枝が覆いかぶさっている。上から見ると巣箱は見えないはずなのに,よく探し当てたと思う。鉄板が敷き詰められている。アスファルトだけでは,この山道は車の重量に耐えられず,小川の方向(右側)に崩れてしまう。吉が傾かないように鉄板が敷き詰められている。この道は普通車でも通行可能で,ぐにゃぐにゃ道をどこまでも走れば真庭市に着く。
図3.L-05で子育てをするブッポウソウのオス。さらに拡大すると迫力が増す。電線は巣箱から2m離れている。吉備中央町にはこの位置から撮影できる巣箱は少ない。写真家は嫌うが,我々の方は芸術性を競う訳ではない。電線も自然環境の重要な要素(element)になっている。撮影は7月5日。
巣箱L-05(図1)は,道のすぐわきにある。ブッポウソウは軽トラが見えるとすぐに遠くに逃げる。近くに30分間いても巣箱には来なくなった。また,巣箱の下から空を見上げて巣箱に入るブッポウソウを撮影しても,あんまりいい写真になるとも思えない。いったんはL-05で撮影はあきらめかけたが,小川の対岸に軽トラの入れる道があることがわかり,少し戻ってから怪しげな橋を渡り,巣箱の向こう側(40mほど離れている)に車を止めた。
30分もかからないうちに,L-05でのエサ運びが再開され,オスとメスが交互に巣箱にエサを運んできた(図3)。L-05ではブッポウソウのきれいな写真がたくさん撮れた。
図4.B-15で子育てを行っているブッポウソウ。カメラから50mの距離。さらに拡大するとさらにいい感じになる。
図5.腹部をもがれたミヤマクワガタ。拾った時には,体が動いていることが多い。やったのはブッポウソウだろう。
B-15では道(図2)の脇に車を止め,600mmのレンズで撮影するときれいな写真が撮れる(図4)。B-15は,周囲の景観は素晴らしいが,巣箱の正面の写真を撮るのは無理である。
雨が降ると,水がアスファルト(今は鉄板)の上を流れてゴミが道路の端にたまる。そういうところを見るとミヤマクワガタやノコギリクワガタの死骸が転がっている。腹部をもがれた個体が多い(図5)。ブッポウソウはクワガタの腹部をくわえ,止まり木にクワガタのからだを激しくたたきつける。何回かたたきつけると,頭胸部は腹部から切り離されて地面に落ちる。7月上旬から中中にかけては,道路を走行中に腹部のないクワガタを拾うことができる。まあ,こんなのでは標本にはならないだろうが・・・。
7月に入ると,里山の緑は濃さを増す。いたるところにネムのピンク色の花が目立つ。7月中旬になれば,リョウブの花が咲き始める。岡山県の県北山地では,リョウブには多くの甲虫類が集まる。運がよければ,リョウブモモブトコバネもやってくる。吉備中央町や高梁市だと,リョウブの花にはオオヨスジカミキリが来る。リョウブが咲き出したらあとはひたすら暑いだけの日々が続く。
里山には,オオスズメバチがやたらと多い。それもびっくりするほど大きな個体がよく飛んでいる。車の中に入ってきたら大変である。興奮させないように,うまく外に追い出さねばならない。オオスズメバチは,キイロスズメバチに比べたら行動は鈍重(どんじゅう)である。パニックにならぬよう処理していただきたい。
オオスズメバチには顔を指されるのが一番危険である。やられたら本当に1~2日間は昏睡状態になって生死の境をさまようことになる。私は小さいころに2度顔を刺され,2度目は昏睡状態になったことを記憶している。
<ブッポウソウの撮影>
ブッポウソウは人間が巣箱に近づくと遠くに逃げる。巣箱から40-50m離れ,物陰に隠れて30分ぐらいじっと待つと,やっとエサ運びを再開する。この距離では600mmの望遠レンズを使えば十分対応できる。しかし,望遠レンズは中古で購入したとしても50万ぐらいかかる。Canon EOS7D(すでに販売終了)も,安くはない。
一方,巣箱から40-50m離れた位置からブッポウソウを撮影するとなると,昆虫撮影家がよく持っているSONY RX10(これは30m未満)や,多くの人たちが使っているコンパクトカメラ(たとえばCanon PowerShot S95)ではとても対応できない。このようなカメラをお持ちの方々が,鮮明なブッポウソウの写真を撮影しようと思えば,巣箱にどんどん近づくことになる。しかし,人に慣れていないブッポウソウはエサ運びをやめ,どこかに逃げて何時間も戻らないことがしばしば起きてしまう。
横山様でも,400-600mmのレンズをお持ちの方々は,いい写真が撮れるが,SONY RX10Ⅲ,Canon PowerShot S95, Panasonic HX-WA20(みんなちょっと古すぎるか?)だと,ブッポウソウはほとんど黒い点ぐらいにしか写らないだろう。
カメラを持って吉備中央町に来れば,ブッポウソウの素晴らしい写真が撮影できると思い込んでいる方々は多い。一方,巷にはきれいだ,美しいとか,そんなブッポウソウばかり載っていて,どうやったらいい写真が撮れるかを書いた本はない。
私案ではあるが,スマホとかコンパクトカメラをお持ちの方は,USBメモリーを持って400-600mmのレンズで撮影している人のところに行き,写真を撮ってもらったらどうだろうか?昆虫採集家にも言えることだが,採集した標本や,自分の撮った写真を見て,自分たちだけ喜ぶのではなく,他人に無償で情報を提供してもよいのではないか?写真家や中山良二さんには,そういうところのサービスができる人として期待している。
<参考文献>
日本鞘翅目学会(編)(1984)日本産カミキリ大図鑑。講談社。