令和4年(2022)のブッポウソウ情報 No. 18:熱中症で倒れているかと・・・。

令和4年(2022)7月3日(日)

 7月1日(金)は,美咲町江与味(えよみ)にある巣箱を見て回った。朝から陽射しは強烈で,エアコンを入れていない軽トラの中はサウナみたいになる。軽トラにはエアコンは装備されているが,野鳥の撮影はカメラを車内から構えることが多く,いつでもレンズを野鳥の方に向けて撮影することができるよう,左右の窓はいつも全開である。

図1.美咲町・江与味にある巣箱。左側に40°傾いている。架けられているのはNTTの電柱ではなく,中国電力の柱である。私は,中国電力の柱に架けることはないし,これだけ傾くと電柱に登って角度を調整するだろう。

 江与味には,吉(よし)の集落を中心に多様性プロジェクトの巣箱は10コある。川沿いの平地にある巣箱はすべて利用されているが,山の方にある巣箱は使われていないところがある。特にこの場所(図1)の周辺では定着率が悪い。おそらくこの集落にある巣箱(図1)を毎年掃除していないことが原因ではないかと思う。

 例の巣箱は,写真(図1)中央の電柱に架かっている。巣箱は,普通はNTTの電柱に添加されるが,この巣箱は中国電力の電柱に架かっている。NTTの電柱と違って中国電力の電線には100ボルト以上の電圧がかかっている。だから,電線の接続部位にうっかり触れると感電する危険がある。そもそも中国電力も自社の電柱に巣箱を添加することは許可していない。しかし,住民にその旨説明すると「そんなら,この電柱そっくり抜いてどっかへ持ってゆけ!」と怒鳴る因業爺さんも少なくない。中国電力も最初のころは注意していたようだが,最近は何も言わなくなっている。私の方も,中電の回し者ではないから,電柱に登るときは気をつけてしか言わない。もちろんじいさんの味方でもない。

 NTTの電柱にしても,中国電力の電柱にしても,電柱に登るには専用の器具がいる。例えば,私は電柱に登るときには「与作」を使っている。決して安くはないが,命には代えられない。

 電柱昇り機のお金をケチって,脚立を使うと事故が起きる可能性が著しく高まる。一番危ないのは,脚立の最上段に立って仕事をすることである。(脚立使用の注意にも書いてある。)今年(2022)は愛媛県で電柱から落ちて死亡事故が発生したとのこと。電柱昇り機ならば,突然ワイアが切れて体がずり落ちても,とっさに近くの物につかまれば落下は防げる。脚立を地面に十分に固定せずに上って,脚立ごとひっくり返って大けがをした人はたくさんいる。地面がコンクリートだと,1mの高さでも大けが(骨折が多い)になるので,お年寄りはくれぐれも注意していただきたい。体の反射機能は年とともに確実に衰えてくることを(私も含めて)忘れないようにしたい。

 さて,江与味の巣箱(図1)を通りがかった時に,巣箱にエサを運んでいるブッポウソウが目に付いた。道の脇に農機具を置く小屋があったので,その陰に軽トラを止め,外には出ずに車内からブッポウソウのエサ運び行動の写真撮影を行った。

図2.斜めの巣箱から出るブッポウソウ。巣箱はこんなに傾いていても,産卵や子育てに影響はない。巣箱の屋根が壊れかけなのは,雨水が侵入しやすく,子育てには好影響を与えている。一方,巣箱を電柱に固定する仕方は,稚拙としか言いようがない。脚立に登って巣箱を固定すると,足元がおぼつかなくなり,この図のように,どうしても中途半端な固定になる。撮影はEOS7D。

 ブッポウソウは,今にも電柱から落ちそうな巣箱でも子育てを行っていた。すぐ近くに良い巣箱があるにもかかわらず,この巣箱(図2)を使った。今日(7月1日)は,午後にこの巣箱を見つけて和中に戻るまで3時間,このおんぼろ巣箱で観察を続けた。

図3.巣箱に入る直前のブッポウソウのメス。巣箱に入るときには入り口の枠に足をかける。

図4。巣箱に入る直線のブッポウソウ(メスの方か?)。樹洞営巣性鳥類の足は短い。

 まずは,図3に示したブッポウソウの写真をご覧いただきたい。エサを運んできて,ちょうど巣箱の入り口に足をかけたところである。白紋の面積から,メスであることは間違いないだろう。巣箱の中はまだ見ていないが,ヒナは4匹と思われる。巣箱の中に巣材は入れてあるのだろうか,この次に江与味に行ったときに確認したい。くちばしにくわえているエサは特定できないが,甲虫類のように見える。となると,日中によく飛んでいるコメツキムシではなかろうか?

 撮影は巣箱から30m離れた倉庫の脇に車を止め,車中から600mmレンズを使って行った。カメラはEOS7D。近澤峰男さんからお借りしたものである。図3と図4は,とともにブッポウソウの写真集には必ず出てくる平均的レベルの写真だろう。

 ブッポウソウの方はともかくとして,私は今にも地上に落下しそうなおんぼろ巣箱にすごく興味がある。このタイプの巣箱は,野鳥の会岡山県支部が始めた初期のタイプだろう。初期のタイプは,フタの本体へのはめ方と巣箱を電柱にくくりつける2本の角材の長さにある。現在吉備中央町で使われている巣箱は,巣箱の後ろ側にある2本の角材が巣箱の高さよりも,上下にそれぞれ10cmほど長くしてある。巣箱から上下に出た部分に針金を巻き付けて,巣箱を電柱に固定する。それが,図3と図4を見ればわかるように,江与味の巣箱は電柱に固定するのに使われる角材の長さが,巣箱の高さと同じになっている。そうなると,巣箱を電柱に固定するには巣箱本体に針金を巻くことになろだろう。一本では無理なので,3本や4本は巻き付ける必要がある。しかし,巣箱の入り口周辺に針金を通すと,巣箱に入るときに足を引っかけて親は宙づりになる可能性がある。どうしても下側半分に針金を通すことになる。

 四角い巣箱の本体に針金を巻き付け,巣箱を電柱に固定するのは容易ではない。しかも,巣箱がずり落ちるのを防ぐための電柱のボルトも1本しかない。これではすぐに巣箱は傾いてしまうのを防ぎようがない。私も一度吉川の巣箱(C-07)でちょうど同じタイプの巣箱を使っていたことがあった。この巣箱は,内部がアオゲラにつつかれるなどして破損した場合に,フタが巣箱から外れてしまうという欠点があった。すでに産卵した後にフタが外れかかったので,巣箱の下側半分に針金を回して固定したことがある。ふたがとれているのに気付いた時には卵ともどもどこかに消えてしまったこともあった。この巣箱をつけた人を探し出してもっと新しいタイプの巣箱をつけるようにアドバイスをしてあげたいが,話をするとすぐに「それではあんたがつけてくれ」と言われる。自分で間違ったことをやったのだから,自分で改善するようにしたらどうかと思うのだが,そういう方向にはなかなか話が進まない。その人の家に行くか,知り合いの人の家に行って,この巣箱を使ってと言って置いてくるのが一番良いだろう。

 ブッポウソウの方も,この巣箱(図1~図4)にはなじみが深いようだ。すぐ近くに良い巣箱(EY-10)を架けてもそっちはスズメが入るばかりで,ブッポウソウはいつもこのおんぼろ巣箱の方を使っている。

 数年前に江与味にあるいくつかの巣箱に大量のコケが入っていてびっくりしたことがある。好意で巣箱を掃除してくださったのかと思う。おそらくこの人がやったことではなかろうか?

 また,江与味の公会堂にある巣箱(図1)に来ているブッポウソウはすごく人慣れしている。普通は巣箱から30m離れた位置で軽トラのドアを開けると,ブッポウソウはすぐに飛んで遠くに逃げてゆく。ここは電線にとまったまま逃げることはしなかった。さらに,30m~50m離れていても,車内から600mmレンズを巣箱に向けると,やはり多くのブッポウソウは逃げてしまい,1時間近くも戻ってこないことも多い。だから多くの巣箱では,多くの人たちの期待するブッポウソウの写真を撮影することは非常に難しい。ブッポウソウの写真が撮りたいとおっしゃる方々に対し,「ここで撮影できますよ。」と気軽に返事をすると,大変な事態になる可能性が高い。ブッポウソウの写真を撮りたいという方々は,ブッポウソウとスズメと町を往来する人々の固有の性質を十分に区別していない可能性が高い。近くに行けば誰でもいい写真が撮れるというすごく安易な感覚があるようだ。つまり,ご自分の都合しか考えずにブッポウソウと触れ合おうとしている。ブッポウソウを見たい,撮りたいという人々に対して,私はここのところを勘違いしていた。ブッポウソウの観察については,考え方を基本的に改める必要があると思う。ブッポウソウには大変申し訳ないことをしたと猛省している。

図5.体を反転して巣箱から離れようとするブッポウソウ。図4とは違う角度から撮影した。この写真を見れば,古いタイプの巣箱は電柱にうまく固定できないことがよくわかるだろう。針金を角材に通す穴もない。

 次は,図5をご覧いただきたい。写真のタイトルは「落下寸前の巣箱で子育てをするブッポウソウ」。ブッポウソウは黒く写っているだけで,カラスではないかと疑う人は多いだろう。こんな写真はだれも見向きもしないだろうが,私には思い出深い写真のひとつである。私には,写真家の方々や,ブッポウソウを見たい,撮影したいと吉備中央町を訪れる方々とは,本質的に違う好みがあるように思う。いいとか悪いとかということではなく,現実にすごいギャップがあるのは間違いない。

 私は,海でも山でも日本列島の自然環境が好きである。実際に自分の足で歩いてみて,各地に展開する自然環境のありのままの姿と,固有の自然環境が維持される仕組みを学びたい。世界の最先端の科学思想を取り入れながら深く考察することは,私の人生の大きな楽しみのひとつである。

 どんな美しい生物でも,単独で美しくなれる訳ではない。形態(form)や行動(behavior)が自身の生きる環境にマッチしたときに,その美しさは際立つ。近澤さんが撮影された数多くの写真には,自然環境とよくマッチした動物の生きざまが写っていて,私はそれに強い共感を感じている。  

 「おんぼろ巣箱」(図2)を選んだブッポウソウは,10年以上生き続けている年寄りブッポウソウだろう。おんぼろ巣箱を取り付けた人間ののじいさんは,そのことに気づいているだろうか?

 「私たち夫婦(ペア)は,この巣箱をもう10年近く使い続けた。だから,見かけはいくらぼろになっても,使える限りはずっと使い続けたい。」私がそう思うのには,明確な理由がある。生物にとってにとっては,個体やペアとしての生存は種(species)の存続によって保障される。つまり,鳥がペアとして子育てをするためには,歴史的に培われた「種の存続」のルールの重い足かせをクリアしなければならない。

 生物にとって種が存続するには,ある世代(generation)の出生数が,前の世代の出生数と同じかそれ以上になる必要がある。自分で巣を作らない野鳥の場合には,前の年に利用された巣(nest)を再利用して子育てを行うことになる。昨年はこの巣を利用してうまく子育てができたのだから,今年も,新しい「うろ(樹洞や巣箱)」を探すよりは,昨年使った巣を利用せよという「種の存続のルール」が,本能行動として個体やペアの行動を規制する。個体レベルにおいては,新しい巣箱の安全性や居住性の良さが大事だろう。しかし,過去に何度も失敗を繰り返してできあがった「種の存続のルール」は,個人の希望とは相いれない条件を提示する。大脳は,たとえ壊れていても,まだ使えるようであれば,去年使った巣箱を使えという(自発的な)指示を出す。もちろんその指示に逆らって,新しい巣箱で子育てをするペアも出てくるだろうが,10年間うまく行ったという記憶は,古い巣箱に対する執着を十分強くする心理的要因になるだろう。 

 鳥の人生も,人と同じく「なにわぶし」の部分がある。鳥でも人でも「生きる」ためには各所で選択があり,どういう選択をするかで後の人生(鳥生)は大きな影響を受ける。ただし,選択肢は,鳥よりも人の方が圧倒的に多い。
鳥類における巣(nest)の再利用(reuse)については,大学の生態学の授業で取り上げてもよい課題だろう。ただし,こういう課題は実務家に相談しても取り合ってはもらえない。偏狭な実務家を説得する努力よりは,次世代の自然科学ということを強く主張し,自分の道をまい進する方が得策である。‘鳥’あえず,おんぼろ巣箱を再利用して,今のところは子育てがうまく行っているようでよかったと思う。

図6.おんぼろ巣箱を出るブッポウソウのメス。おんぼろ巣箱自体は,ヒナの生存率は高いと思う。

 図6は,おんぼろ巣箱から出るブッポウソウを示している。ブッポウソウの写真ではよく見られる写真である。左の翼(wing)には,初列風切(primaries),次列風切(secondaries),雨覆(coverts)がよく見える。ブッポウソウは飛んでいるときには口を開けていることが多い。翼の色合いと顔の表情から.やはりかなり年月を重ねているという印象を受ける。

図7.巣箱から出て止まり木(電線)に移動するオス。翼の主要な構成要素である大羽(おおばね)(feather)はぼやけている。私は,単焦点レンズの扱いには不慣れで,この写真はシャッター速度が遅かったと思われる。

 さらに図7をご覧いただきたい。オスが巣箱から離れてゆくところが写っている。たいして見栄えのする写真でもないが(謙遜している訳ではない),この写真(図7)は面白いことを考えさせてくれる。

 図8は,図7の写真から巣箱だけを切り取った写真である。何度も言うように,巣箱はおんぼろで,屋根には亀裂が入り,雨が降ると雨水が隙間を伝って巣箱の中に侵入するだろう。しかも,巣箱は傾き,ヒナにとって決して居住性がいいとは言えない,と誰しも思うだろう。しかし,それは人間から見た価値基準(スタンダード)であって,人間がいいと思えば,野生生物もまたいいと想うはずだと思うのは,人間のとんでもない思い上がりである。

 そんな証拠はどこにあるかというと,人間がいいと思う巣箱と,どう見てもよく思えない巣箱(図7)でヒナの生存率(survival ratio)を比較してみればよい。人間の都合を最優先にしてこしらえた巣箱は,一見居住性は向上しているように見えるが,実際にはブッポウソウのヒナの生育に不敵な環境を提供することになるかもしれない。実際にはヒナの生育に不敵な環境を提供して「動物を保護している,どうだ!」と自慢する方々は多い。結果を客観的に評価できるシステムを立ち上げてから言った方がよいだろう。その点,図8に示した巣箱は,中は(人間から見て)結構ひどい状態であったとしても,鳥にとっての居住性は意外と良いだろう。つまり,ヒナの死亡率は,見かけの良い巣箱より低いことが予想される。野鳥の保護というからには,巣箱内の環境はヒナの生育に好適かどうかよく調べてみる必要がある。

 日本の社会では,お金をとることに多大なエフォートが費やされ,プロジェクトがどのように社会で機能したかは,形式的なアセスメントで終わってしまうことが多い。巣箱も同じように考えられているのだろう。「巣箱が落ちそう・・・」というのはまた別の問題である。こちらは改善を要求する。

図8.巣箱だけの写真。ブッポウソウというのに,さすがにこの写真をいいという人はいないかもしれない。バカにするなと怒られそうだが,この巣箱は鳥にとってどういう存在かを考えさせてくれる。

図9.頭部の見かけ(appearance)から,若々しさよりも,優れた狩り技術を持つ老練な鳥という印象を受ける。10歳は越えているだろう。翼の表面の白紋が広く,オスで間違いない。

図6.電線から飛び立つブッポウソウ。シャッタースピードは確か125分の1秒ぐらいだった。普通はこれぐらいならそんなにぶれることはないが,望遠レンズを使うとシャッタースピードは,猛烈に早くする(例えば,1,000分の1秒)必要がありそうだ。7月4日の撮影(有漢どん詰まり)ではこの点は改善された。

 話は一番始めに戻る。いい写真が撮れるかどうかは,巣箱のある場所にもよるが,ブッポウソウが人に慣れているかが,一番大きな要因になる。ブッポウソウを撮影するには,ブッポウソウが人に慣れている巣箱を探す必要がある。

 江与味の公会堂の巣箱(図1)にいるブッポウソウはすごく人慣れしているのは間違いない。吉備中央町では,美原集落センターやB-08(上田西)のブッポウソウは人慣れしている。ミカサは近くの巣箱から移ったペアで人慣れしているが,撮影者の隠れる場所がない。和中は,今年はすぐ逃げる。天福寺と妙本寺は上級者向けだが,50m離れていてもカメラ(大きなレンズ)を向けるとすぐ逃げるかもしれない。

 有漢町,巨瀬町,川面町,撮影に良さそうな場所はたくさんあるが,巣箱に近づくと逃げてしまい,長い時間エサ運びが中断されるところが多い。今は「有漢どん詰まり」と呼んでいるところで撮影している。巣箱の正面30mから撮影できる。背景は森になっている。   

 ブッポウソウを撮影しているときには,軽トラの運転席に寝転ぶような格好になる。ドアの枠にレンズ(600mm)を置いてシャッターを切るため,どうしても頭を座席に近づけることになる。ものすごく窮屈な格好で長時間過ごす。農機具置き場のすぐ近くの家に住むおばちゃんが,長いこと軽トラがとまっていて,運転手が熱中症で倒れていると思ったらしく,2度も見に来てくださった。軽トラの外に出て話をしたが,それでもブッポウソウは逃げなかった。

<参考文献>

  • Newton, I. 1998. Population Limitation in Birds. Academic Press, London.
  • Patterson, C. 1999. Evolution (second edition). Cornell University Press, New York.

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