令和4年(2022)のブッポウソウ情報 No. 16:ふ化した巣箱が増加(6月24日の状況)

令和4年(2022)6月29日(水)

 今まで毎年,雨の日を除き,5月15日前後から毎日多様性プロジェクトの巣箱の中を見て,産卵した日にち,産卵数,ふ化した日にち,ふ化数,巣立った日にち,巣立ち数などを記録してきた。カメラ本体(CASIO Exilim)を最長4.5mの継竿(釣具店で売っている)の先につけ,巣箱の中に入れた後に,胸元にある子機のスイッチを押す。これだとどこの巣箱を写したのかわからなくなるので,継竿の先のカメラのスイッチを直接押して巣箱全体の写真を撮り(図1),家に帰った後でノートの記述と照合できるようにしている。

 2015年から2021年にかけては,多様性プロジェクトの設置した多くの巣箱を毎日見て回ったが,今年(2022)から研究内容が変わり,限定した数の巣箱を集中的に観察することが多くなった。以下,6月24日に観察した巣箱の状況を記しておきたい。

図1.CASIO Exilimで撮影した巣箱(A-18)。左側の棒は継竿の基部(カメラのレンズは基部の方を向いている。)。

 まずは,5月にオスが落鳥した美原の巣箱(図2)。詳細は別の機会に譲るとして,この巣箱では5月にオスがトビの逆襲を食らって落鳥した。幸いすぐに田んぼの作業をしていた方に拾われ,外傷もなかったこともあって,次の日に巣箱の近くで放鳥した。メスはオスがどこに行ったかすごく気にかけていたようだ。放鳥してすぐにオスとメスが盛んに鳴き交わしていた。その後,この巣箱の周辺ではメスの姿しか見えなくなった。やはり,いったんオスが落鳥すると生殖活動がとまり,産卵しないかと思っていたが,普段よりだいぶ遅れて産卵が始まった。産れた卵は4つ。巣箱の中にいるのはメスだろう。

 オスの姿は見られないが,巣箱の近くにいることは間違いない。ヒナがふ化してエサ運びの段階になったら,きっとエサを持って恐る恐る巣箱にやってくると思われる。トビに叩き落されたときに,精神的ショックで一時的に生殖腺刺激ホルモンの分泌がとまってしまうと,ペアの関係は解消されると思われるが,そこまでのことはなかったのだろう。今後のメスの活躍とオスの社会復帰が期待される。

図2.卵を温め中のブッポウソウのメス。この巣箱はまだオスがいるので,ふ化すればヒナは育つだろう。

 次に,案田(あんだ)にあるE-05の巣箱(図3)。案田には,今までひとつの巣箱しかかけていなかった。小道のすぐ脇にある電柱にかけたのはよかったが,すぐ近くにマネキン人形みたいなのを置くのが趣味な人がいた。ブッポウソウは,どうもそれが気になったらしく,産卵がスムーズに行かなかった。せっかく生んだ2~3コの卵も,巣箱をねらうスズメの集団に大量のワラを積まれ,あえなく退散となった。この巣箱(もうナンバーは忘れた)は降ろし,代わりに少し離れたところにE-05を設置した。
 E-05は,おばあちゃんの家のすぐ近く,20mぐらいのところにある電柱にかけた。最初は空き家のように見えたので,まあここならいいだろうと思っていた矢先に,3人のおばあちゃんたちが農作業にやってきた。ブッポウソウは,さすがに1年目はおっかなびっくりの子育てをしていたが,2年目以降はブッポウソウの方が人に慣れて,時々来るおばあちゃんたちを完全無視して子育てを行っている。E-05では,今年(2022)には5匹のヒナが羽化し,6月24日現在順調に育っている。

 案田にはE-05の他に,3年前だったか,A-20を設置した。案田は足王大権現のある湯武の集落のすぐ隣にある。距離にして300~400mぐらい離れている。湯武の周辺で何年にもわたって起きた凄惨な事件は,案田にある3つか4つの巣箱が原因だった可能性が高い。カラスによる捕食を心配しすぎて巣箱の入り口を狭くしてしまい,ブッポウソウが入れなくしてしまった。設置した人は毎年ブッポウソウが来てにぎやかにやっているよと言っているが,「こんな巣箱じゃあ困るぜ。何とかしてくれよ!」と騒いでいたのではないか。近くにE-05とA-20を設置したおかげで,巣箱に入れないペアがこちらにまわって,状況はかなり好転した感じがする。

図3. E-05の巣箱で育つ5匹のヒナ。まだ眼は開いていないようだが,5匹の大きさはよくそろっている。

図4. A-28の巣箱。ふ化したばかりのヒナが一匹見える。

 次は,上田東にある自立柱に架けたA-28の巣箱(図4)。A-28は木柱型の巣箱で,設置年度は確か2015年。アカマツの枯れ木を切って,真二つに割り,中をくりぬいてから再びくっつけた。入り口の扉は自分でつけた。ふ化したばかりのヒナが2匹見える。

図5.C-07の巣箱。ブッポウソウが入れない巣箱の近く(20m)に設置。凄惨な事件の解消になると期待される。

 湯武では,何年も続く死亡事件を受けて,今年(2022)は巣箱の位置を変えた。まずは,C-07の巣箱(図5)。この巣箱は昨年「足王大権現」の近くの電柱にかけてあり,ブッポウソウの首なし事件が発生した。犯人は最初イタチと思っていたが,ブッポウソウの仕業だろう。巣箱に飛んできて,卵を温めているオスが頭を出した瞬間をねらって頸部をつついたのだろう。頸部への攻撃は激しく,首の骨が折れ,頭は外に吹っ飛び,本体は巣箱の中に反動で仰向けに倒れたと思われる。地面に落ちた頭部は,すぐにイタチかアナグマに持って行かれたのだろう。今年(2022)はC-07を足王大権現から200mほど離して添架したことで,凄惨な事件は回避できたように思われる。

 もちろん,足王大権現には何の罪もない。足に問題を抱えておられる方々は,参拝に訪れるとよかろう。湯武や案田あたりの里山の景観は素晴らしい。横山様みたいな噂ばかりが先行する場所ではなく,湯武や案田にも来て,里山の自然に触れ合うことができれば,自分の気持ちに余裕が生まれ,どう生きたらよいかについて建設的な思考ができるようになるだろう。自然の美しい景観は,困ったときに自分の心を癒し,自分を勇気づけてくれる。

 湯武から細田にかけては,誰がつけたかわからない木柱型の巣箱がいくつか架っている(図6)。全部木柱である。これらの巣箱の中身は見ていないが,入り口の大きさを含め,いずれもブッポウソウが入れる状態にはなっていないのではなかろうか?ブッポウソウの方は,そんな巣箱を見つけて使おうとするが,実際には巣箱に入れない。そんな巣箱に執着しているうちに,メスの方では卵形成が始まり,オス・メスともにフラストレーションが頂点に達してくるのではないだろうか?最高にいらいらしたオスは,近くの巣箱に行って,すでに産卵しているメスを襲い,つつき殺してしまうことは,大いにありうる気がする。

 湯武で起きた数々の衝撃事件の発端は,ブッポウソウが入れない巣箱を設置したことが原因ではないか・・・と今は考えている。似た条件の巣箱は,図6に示したタイプ以外にも,近くに3つ4つある。しかし,証拠がそろっている訳ではないので,設置した人を特定し,改善を申し入れることはできない。 

 そんな方向を考えるよりは,不備な巣箱のすぐ近くに,ブッポウソウの入れる巣箱を設置するという手があるだろう。巣箱がすぐ近くに並んで2つあれば,ブッポウソウはどちらかの巣箱しか入らない。そんなことを考えて,C-07の巣箱をブッポウソウの入れない巣箱のすぐ近くに置いてみた(図5)。設置者には申し訳ないが,私としてはすごくいい野外実験ができた。

図6。ブッポウソウが入れない木柱型巣箱。巣箱としてではなく,モニュメントとして,景観によくマッチしているので素晴らしい(皮肉ではない)。毎年5月上旬から中旬にかけては,この巣箱にもブッポウソウのペアが来て騒いでいるのが見られるだろう。この巣箱がダメだとわかると,ブッポウソウのペアは他の巣箱を探し始める。すぐ近くに新しい巣箱があれば,近くで子育てを始めている巣箱を襲うこともなくなるだろう。

 昨年(2021)までは,足王大権現から直線距離にして200mほどのところにA-05があった。A-05は2015年に設置した。以降A-05では毎年のように事件が起きた。一昨年(2020)は,オスが落鳥した。ケガはなかったのですぐに放鳥すればよかったが,ぼんくらな私の判断で1か月も飼育室に置いてしまった。まさか,その時の記憶が残っていて,この個体が湯武の周辺で凄惨な事件を起こし続ける「キラーD」なんてことはないだろうか?

 昨年(2021)は,H-30と同じように,メスが巣箱の中で死亡していた。今年は思い切って150mほど移動し,道の脇に設置した(番号はH-39)。A-05の取り外しと,H-39の設置は,いまのところうまく行っているような感じがする(図7)。

 ただH-39は,オスがいるか不明である。オスはひょっとしたら,H-30の巣箱で2度メスを殺した「キラーD」かもしれない。H-39では卵はひとつしか生まれなかった。後の2つ(巨大な卵)は,H-30で2番目に死亡したメスが産んだ。全部ふ化するかはまだわからない。

図7.H-39の巣箱(湯武)。A-05の巣箱を下ろして150m離れた電柱に移設した。6月24日温め中。

図8.H-30の巣箱。6月24日現在空のまま。時期からいって,今年この巣箱で産卵は無理だろう。

 さて,6月16日に2番目のメスも死亡したH-30の巣箱。新しいペアが入ると,産卵が始まるまでに2週間かかる。ここで2番目のメスが死んだのは6月16日だから,新しいメスがすぐに産卵準備に入ったとしても,産卵が始まるのは7月初旬になる。しかし,交尾や産卵のゲート(gate)が閉じるのは,多くのメスでは6月下旬だろう。もし新しいメスがいたとしても,H-30の巣箱で産卵の始まる可能性は低い(図8)。

 ブッポウソウの度重なる死亡事案は,岡山県自然保護課や環境省・中国四国地方環境事務所にも情報を提供している。希少生物の保護に関しては,環境省が自ら,あるいは各地の関係団体に委嘱して実施しているケースが多いと思われる。詳細は知らないが,淡水に生息する天然魚の保護の研究を行っている地域がある。対象となる生物は異なるが,私がやっているブッポウソウの研究と内容は似ているかもしれない。つまり,もし環境省が関わるとしても,研究の中身は私が今やっていることと大きくは違わない感じがする。早い話,環境省が進めてよい研究なのであるが,代わりに私が進めているというのは言い過ぎだろうか?

 私はかつて泥干潟に生息する十脚甲殻類(アナジャコ類)の形態異常を通じて,環境省のプロジェクト(環境汚染物質)に加わったことがある。前身のプロジェクトは,1年間の予備研究を含めて6年間続いたが,環境省のプロジェクトになってからは2年限りで辞退した。環境省の進めるプロジェクトは,初めから結論ありきみたいなのが多い。プロジェクトの発案者やリーダーがとにかく成果を求める傾向が強いせいか,議論をないがしろにしている。わからないことが出ても,元に戻って考え直すこともない。そういうやり方について行ける人は良いが,私は能吏ではなく,途中でこぼれ落ちた。

 ブッポウソウ・プロジェクトにおいても成果をパブリッシュすることは,半ば義務である。しかし,このプロジェクトには初めから結論がある訳ではない。成果をパブリッシュして,社会がご機嫌になるか,不愉快になるか,予測できない。研究費をもらわなければ,どっちに転んでも言い訳できる。逆に,金をもらったら「自分が作るブッポウソウの物語」は実現しない。

図9.B-08の巣箱。6月24日の段階で卵ということは,池でのケンカがメスの産卵日に影響した可能性が高い。

 さて,上田西にあるB-08(気の強いオスのいる巣箱)では今年は4つ卵が産まれた(図9)。今までの状況だったら,B-08の例年の状況ならば,卵は5つ産まれても良さそうである。B-08のオスは気が荒く,池でのケンカでUW-01の巣箱のオスをつつき殺した。ケンカの影響はメスにも出ている可能性があるが,いまのところそれを検証できる方法がない。

 一方,UW-01の巣箱は,いつ行ってもブッポウソウは1匹しか見られない(図10)。ひとりで卵を温めているのは間違いない。カメラを巣箱に入れると,ケーケーと気丈な鳴き声で迎えてくれる。5つも卵を産んでいるので,全部ふ化したらエサやりが大変だろう。ひとりで全部育てたら,ギネス・ブックに登録してあげたい気持である。

図10.UW-01の巣箱で卵を温めるメス。こちらの卵は5つ。もうすぐふ化するだろう。

 ヒナがふ化し,エサやりが始まる7月上旬になると,ブッポウソウの撮影に訪れる人たちの数は飛躍的に増加する。始めて見たブッポウソウの姿に歓喜する方もおられると思う。

 一方,この時期,私の方はどうか?ブッポウソウは,子育てのベテランもいるが,危なっかしいペアがいて,ハラハラさせられる場面が多い。また,エサのいる環境は巣箱によってまちまちなのに,最初のヒナは,どの巣箱も判で押したように同じ期間で巣立ちするのだろうか? 当たり前のことだが,ヒナの数に応じて親の獲ってくる餌の数は異なっているのだろうか?それならば,親は巣箱の中にいるヒナの数をカウントすることができるのか?しかし,もし数をカウントできる能力があるとなると,ヒナが一匹いなくなると,親は必死にそのヒナを探そうとするだろう。撮影者と違って,この時期には私の方はフラストレーションが増加し,「因業じじい度」も一気に上がる。軽トラに乗って爆走する因業じじいに注意あれ!

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