令和4年(2022)のブッポウソウ情報 No. 10:右肩に傷を受けたブッポウソウ

令和4年(2022)6月11日(日)

 今年は,吉備中央町の多くの巣箱で近年にない異変が起きている感じがする。動物学者として放置しておけない状況になったので,実際にどんな異変が起きているのかを順次報告し,それらにどう対処できるかについて述べてみたい。・・・などと格好をつけてみたいが,多くの事例が次々と舞い込み,何が起きているのかを把握するのがやっとの状況である。

図1.右肩に傷のあるブッポウソウのメス。傷は巣箱を奪いに来たブッポウソウとの闘いで受けたものだろう。つつかれてできた傷口も見えている。上下のくちばしが刺さった跡も分かる。多少の出血はあったようだが,翼の骨までは達していないようだ。また,くちばしの色が赤いのは,生殖腺刺激ホルモン(GSH)の分泌が最盛期になっているからと思う。産卵期が終わり,抱卵期に入ると徐々に橙色に変わると予想される。

 まずは,右肩に傷のあるブッポウソウについて。吉備中央町下土井の巣箱に来るブッポウソウは,毎年同じ個体が来ていて,今年(2022)の産卵は昨年と同様に6月1日の予定であった。

 このメスは,巣箱をしばしば覗いては,たまに中に入り,5分から長くて30分ほど産卵床を整え,また出て行くことを繰り返していた。見かけは例年とほとんど違いはなく,例年通り6月1日に産卵するのを心待ちにしていた。しかし,予想された日には産卵が始まらなかった。「これは異なこと・・・」と心配になり,慎重に経過を見守ることにした。

 次の日(6月2日)にも産卵はなし。6月3日,4日,5日にも巣箱に入るが,やはり卵は生まれなかった。そして6月6日(月)になってようやく最初の卵が産まれた。予想された産卵日(6月1日)からは5日間も遅くなった。

 ブッポウソウにとって産卵日が5日間ずれるということは,実は相当に異常な事態が生じている可能性がある。また,6月6日に最初の卵が産まれるとなると,6月8日に2番目の卵,6月8日に3番目の卵が産まれてそこで打ち切りとなる可能性が高い。

 産卵が遅れた原因を突き止めるために,ブッポウソウの行動の録画を再生した。すると,6月初旬に巣箱に出入りするブッポウソウには右肩に傷があったことに気づいた(図1)。その傷がいつできたかを日を追ってさかのぼると,5月22日以降は傷があるが,5月21日以前には見当たらないことがわかった。

 今年も多くの巣箱の周辺では,巣箱を求めて近づいてくる(単独の)個体やペアがいて,それらを追い払おうとするペアとの間に激しい争いが起きた。このメスは5月22日に侵入者との闘いに参加して,その際に敵対者から右肩をつつかれたのだろう。傷は深くはないが,心理的なダメージは大きかったのかもしれない。

 ブッポウソウの産卵日や産卵数は,ブッポウソウの心理的状態に大きく左右される。正確に言えば,現在その証拠を集積しつつある。傷を受けたことにより,心理的ショックで肝臓における卵黄前駆物質の生産が一時ストップしたか,卵形成(卵胞(ovarian follicle)の急速成長)が順調に行かなかったか,あるいは成熟した卵が卵管に輸送される過程(排卵)が一時止められてしまったか,3つぐらいの可能性がありそうだ。最後のケースが起きた場合には卵数は,例年と同じ4つになる可能性が高い。一方,前2者が起きた場合には,産卵数は3つになる可能性が高くなるように思われる。

図2.木箱にとまるコオニヤンマ。トンボは年によって発生数が大きく変動する。今年はコオニヤンマの数は多い。

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