令和4年(2022)のブッポウソウ情報 No. 7: ミカサ,大失敗か?・・・と思ったら。

令和4年(2022)5月26日(木)

 吉備中央町の豊岡に巣箱を設置したのは,確か令和4年(2022)4月18日だったと思う。吉備中央町ブッポウソウ会の会員4名のご協力により電柱を立て,それに巣箱を設置した。巣箱の名前は,ミカサとした。

 ミカサを設置してから20日後の5月8日に巣箱を見に行った。ミカサのすぐ近くの桐の枝にはブッポウソウが1匹とまっていた。一方,ミカサの中を覗くと,巣箱の中ではシジュウカラが入って産卵中であった(図1)。

図1.ミカサの中で産まれたシジュウカラの卵。9つあるが,まだ産むかもしれない。シジュウカラの卵は,令和4年(2022)5月10日に産卵床ごとミカサのすぐ下に設置したA-05に移した。

 ミカサで産まれたシジュウカラの卵は,このまま置くとブッポウソウが来てつつかれて割られるか,くちばしでくわえて外にポイ・・・となることは目に見えている。シジュウカラが餌とする昆虫類は,ブッポウソウと比べてずっと小さい。春にはまず小さい種類(カゲロウ,カワゲラ,双翅類)から羽化が始まる。ブッポウソウは食べる昆虫が発生するのは5月初め,かなり目立つようになるのは,5月10日以降である。エサとなる昆虫類の羽化(emergence)のタイミングの違いから,シジュウカラの方がブッポウソウより早く繁殖活動に入る。シジュウカラは攻撃的な野鳥ではないので,後からブッポウソウが入ってきた場合には,抵抗することもできず,せっかく時間をかけて作った巣は,ブッポウソウに無残に踏み荒らされるだろう。

図2.5月11日のミカサの巣箱。巣箱から頭をのぞかせるブッポウソウ(2022年5月11日)。まだ産卵準備には入っていない。下の巣箱(A-05)では,シジュウカラが卵を温めている。

 何とか,シジュウカラの巣をあの乱暴なブッポウソウから守れないか。・・・という訳で,5月8日にミカサのすぐ下に新しい巣箱を設置した。新しい巣箱と言っても,取り外した A-05の巣箱を中山良二さんが修理したものである。

 なお,A-05は足王大権現の近くにあった。いわく付きの巣箱で,ブッポウソウが落鳥したり,中で死んでいたことなど,重大事件が重なって,とうとう取り外してしまった。しかし,これは巣箱自体のせいで起きたことではない。

 中山さんは,写真家のご機嫌取りにご執心である。写真家の中には,巣箱に何か書かれることをすごく嫌う方々がいる。そういう方々への配慮というか,そんたくというか,とにかく巣箱のナンバーや名前を消したがる。

 一方,私たち(多様性プロジェクト)の方は,巣箱にナンバーや名前がないとデータを集計するときに,どこの巣箱で取られたデータなのかわからなくなる。全部の巣箱に名前や番号を必ずつけるようにしている。

 中山さんは,修理するときに,これ見よがしにきれいにナンバーを消したつもりだったのだろう。しかし,巣箱が雨に濡れて以前のナンバー(A-05)が再びくっきりと現れているのがわかる(図2)。さすが,いわくつきの巣箱だけある。ド根性巣箱と言っていいかもしれない。

図3.5月23日に見たミカサの内部。設置する直前に入れたおがくずが置いてあるだけで,ブッポウソウが中に入っている感じがしない。巣箱の裏側に横方向につけた登り木は,中山さんの発想で,これはあった方がよい。

図4.5月24日に見たミカサの内部。何と,ブッポウソウが産卵を始めている。

 中山さんの話はさておき,ミカサにはすぐにブッポウソウが入った(図2)。一方,ミカサの下に移したシジュウカラの巣では,親が最初はミカサの方に何度も入って,なんかおかしいな・・・という感じだった。しばらくして下の巣箱に入って巣を見つけたようで,それ以降はA-05で抱卵を続けていた。

 ここで問題が起きた。シジュウカラの巣を写してからミカサを毎日見ていたが,何とブッポウソウの気配がなくなってしまったのである。桐の枝にもとまっていることはなかったし,小川の向こうの林にもブッポウソウらしき姿は見当たらなかった。ひょっとしたら,ミカサの下に設置したA-05の巣箱のせいでミカサの巣箱のクオリティ(quality)が低下して,ブッポウソウが放棄した可能性が疑われた。つまり,同じ箱が上下に2つ並んでいると,もう片方に自分の競争相手が入り込むのではないか?そうなったらケンカが起きて産卵を妨げられることを鳥が認識(cognize)して,ミカサを放棄した可能性があった。そういうことであれば,ミカサの設置は大失敗ということになる。

 5月23日にミカサを見て,ブッポウソウの気配が全くないのを感じ取り,ここはもう今年は来ないだろうと半分あきらめかけた(図3)。5月24日(火)には引撫(ひきなで)から豊岡にまわったので,ミカサもついでに覗いてみたところ何と,巣箱にはブッポウソウの卵がひとつ置かれていた(図4)。

 ミカサは今年使われるのは間違いないだろう。いくつ卵が産まれるだろうか?A-05で育っているシジュウカラは巣立ちが近い(図5)。

図5.A-05の巣箱の中で育つシジュウカラのヒナ(5月24日)。中央の1匹が大きく口を開けて餌くれコール(チッ・チッ・チッ・・ではなく,チュウ・チュウという感じの鳴き声)を発しているが,他の個体は,異変を感じたらしく,巣の中で完全に固まっている。右下には巣を脱走した幼鳥が2匹ちぢこまっている。赤いところは,シジュウカラが運んできた赤いワタで,ヒナの死骸ではない。

 繰り返しになるが,シジュウカラやスズメの食べるエサ(昆虫)は発生が早い。食べられる昆虫類の発生時期に合わせて,巣作りや産卵時期もブッポウソウが飛来する前から始められる。一方,ブッポウソウはシジュウカラやスズメの食べるよりも大きな昆虫類(コガネムシ,トンボ,セミなど)を捕まえる。体が多少大きい昆虫が目に付くようになるのは,5月5日前後である。ブッポウソウは,食べられるエサが羽化し出す直前ぐらいに繁殖地(吉備中央町)にやってくる。繁殖地に到着してから,昨年使った巣箱や新しく設置された巣箱を見つけ出すが,巣箱の中には営巣中,産卵中,あるいは子育て中のシジュウカラやスズメがいる。

 ブッポウソウは,これらの小鳥たちを排除して,小鳥たちの産卵したベッド(産卵床)の上に自分たちの卵を産む。こう書くと,皆さんはいつもブッポウソウが勝利するみたいに思われるかもしれない。しかし,時々は小鳥たち,特にスズメには,返り討ちを食らわされて巣を放棄することがある。新しく設置した巣箱では,毎年子育て中のスズメと侵入してきたブッポウソウの間で営巣場所をめぐって激しい攻防戦が繰り広げられる。人間が手を加えない巣箱では,スズメがブッポウソウを追い出してしまうことも少なくない(図6)。

図6. 巣箱(K-02)の中に作られたスズメの巣。2017年12月28日,新見市北房町にて。K-02の巣箱も,2016年に巣箱を設置して以来スズメとブッポウソウの営巣場所をめぐる争いが続いている。ブッポウソウが来る前にスズメが巣材を箱いっぱいに詰めてしまうと,ブッポウソウは産卵できないので退散になる。スズメが巣作りをするときには応援団が現れ,巣箱の近くには10匹以上が集まるときがある。高梁市中井町では,巣箱(I-02)を設置した2016年には,スズメの大集団によってブッポウソウは打ち負かされたが,次の年2017年は,長いことスズメの集団を追い払い続け,最後にワラのたくさん詰まった巣箱に押し入って産卵した。2017年以降はI-02ではブッポウソウが勝利し続けている。巣箱の掃除をしなかったら,この巣箱はワラが詰まったままになり,たった1年で使われなくなる。

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