令和4年(2022)のブッポウソウ情報 No. 4:ブッポウソウが飛来するタイミングは,エサとなる甲虫が発生し始める時期と一致する。

令和4年(2022)5月4日(水)

 巣箱をつけた付近の住民からの連絡により,ブッポウソウは4月27日ごろから繁殖場所にある巣箱に続々と飛来していることがわかる。私の方は,昨日は美咲町の江与味で,飛んでいるブッポウソウを確認した。ただ,飛んでいる周辺には巣箱はなかったので,つがいになるメスを探していたのではないだろうか?和中の基地でも,3日にはブッポウソウは「鹿の角」にはとまっていなかった。なかなかメスが来ないなあ・・・と探しに出かけたのかもしれない。

図1.満開になったガマズミの花。この時期に咲く白い花には多くの昆虫が集まるが,非常に小型の甲虫類が多い。5月3日,美咲町江与味。

 ブッポウソウのエサは昆虫,特に甲虫類をよく食べている。(何を食べているかについては,世の中にだいぶ誤解があり,いずれ 詳細な観察結果を添えて説明するだろう。)

 5月上旬の時期では,ブッポウソウが食べそうな甲虫は,センチコガネ,オサムシ,コアオハナムグリ,それにトンボ目のムギワラトンボである。センチコガネは春先から発生しているが,個体数は少ない。オサムシも4月中頃から姿を見かけるが,そんなに目立つ昆虫ではない。

 5月3日は,美咲町江与味一帯の花を見て回り,その後小森温泉の東に行った(図1)。さらに新山周辺をうろうろし,和田に出てから和中の基地に戻った。途中センチョコガネは見なかったが,オサムシの方は山道の中で道路を横断中の個体を一匹見つけただけである。こんな状態では,センチコガネやオサムシはとてもブッポウソウの主食にはならないだろう。

 5月初めから中旬にかけてブッポウソウの主食になる甲虫類は,コアオハナムグリである(図2)。コアオハナムグリの体長は1.2cmほど,体重は0.14gグラムぐらいである。ぴよ吉も大好きである。5月中旬になると道端に咲くピラカンサ(低木),シシウドのような花(草丈は1m以内),オオデマリ(低木),ガマズミ(低木)などにたくさん集まってくる(図3)。フジは,ハチはたくさん来るが甲虫は来ない。

図2.コアオハナムグリ。岡山市内では,4月下旬から発生するが,吉備中央町では5月上旬から発生する。

図3.江与味の川沿いに咲いていた低木(種名は不明)の白い花に来ていた甲虫。一番右はホタルカミキリ。右から3番目はカミキリモドキ。あとの4個体はゴミムシダマシかハムシの1種だろう。いずれもブッポウソウが食べるエサにはなりそうもない。ゴミムシダマシのような甲虫は,すごく臭い。カミキリモドキもたぶん臭い。

図4.(左)トゲヒゲトラカミキリのオス個体。(右)小さなコメツキムシ。大きければいい餌になるはずだが,ともに体長1cm弱で細長い体形なので,エサにはならないと思う。特に5月10日を過ぎれば,少し大型の甲虫はたくさん発生するので,こんな小さな甲虫を食べる可能性は極めて低いように思われる。

図5.カワトンボのメス。これはブッポウソウが食べるかは微妙なところだが,5月3には川沿いで多くの個体を観察できた。シオカラトンボの方は確実に食べると思われる。SONY RX10Ⅲで撮影。

 ブッポウソウが食べる昆虫類の中で,体の小さい種類は早い時期から(図4),やや大きい種類は,少し遅れて発生する(図5)。ブッポウソウは,甲虫類の発生の始まりの時期に合わせて飛来している可能性が非常に高い。それには明確な生態学的理由があるはずだ。

 多くの論文の中で,野鳥の繁殖のタイミングが季節のサイクルに同調していることは述べられている。現在の野鳥の研究のひとつのテーマは,繁殖のタイミング(例えば産卵のタイミング)が個体群の中で同調しているのか,そのメカニズムを明らかにすることである。ブッポウソウに関して言えば,4月末から5月上旬に飛来することがわかった。それで繁殖のタイミングの高い同調性は十分に説明できるのではないか?

 ・・・と,早合点してはいけない。そんな論文を出したら,即rejectである。

 ブッポウソウの繁殖のタイミングが同調することに対し,以下の疑問に回答する必要があるだろう。


1)なぜエサが十分にない時期に飛来するのか,納得できる説明が必要。
2)また,最初の産卵ピークは毎年5月26日から28日にかけて見られることはわかっているが,飛来の時期が同調していることだけで,産卵のタイミングに明確なピークが生じることの説明にはならない。
3)さらに,詳しい説明は省略するが,野鳥の産む受精卵の数は,時期が遅くなるに連れて減少する性質がある(clutch size decline)。ブッポウソウでもそうなっているか?この性質の生じる原因を,内分泌学的な機構を含めて明らかにする必要がある。
4)シジュウカラも同様にcavity-nesting birdであり,昆虫食である。とすると,ブッポウソウと同様に繁殖のタイミングは個体群内で同調しているのではなかろうか?
5)シジュウカラはブッポウソウに比べて小さい昆虫類を食べる。小さい昆虫類は大きな昆虫類に比べて季節的に早く発生する。とすると,シジュウカラの繁殖のスケジュールはブッポウソウに比べて時期的に早く始まることが予想されるが,どうだろうか?

 長年考え続けてきた「野鳥の繁殖のタイミングを決める内的・外的要因の解析」にようやく明かりが灯った感じがする。

<参考文献>

  • Newton, I. 1998. Population Limitation in Birds. Academic press.
  • Smith, H. (2004) Selection for synchronous breeding in the European starling. OIKOS 105: 301-311.
  • Ejsmond, A., M. Forchhammer, ØVarpe, and J.E. Jørgensen (2021) Nesting synchrony and clutch size in migratory birds: capital versus income breeding determines responses to variable spring onset. Am. Nat. 198: E122-E-135.

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