令和4年(2022)3月29日(火)
この2か月,自然環境レポートは休みをいただいた。最初の1か月は,著書(自然のふところ:近澤峰男さんと共に歩んだ自然哲学の道)の執筆に専念した。執筆が終わってからすぐ,3月13日(日)よりブッポウソウの巣箱の掃除に入り,休みはさらに延長された。
当初は,200個以上ある巣箱の掃除は,1か月かかると予想していたが,予定を大幅に前倒しできて,掃除は3月25日に終了した。ちなみに,著書の方は70部印刷して,関係部署(主に吉備中央町)に非売品として配布したため,予備の冊子は手元には残っていない。
という訳で,今週からレポートの方を再開したい。まずは,令和4年(2022)3月11日に境港の水産物直売センターに行った時の報告から。
図1.残雪の美しい大山(だいせん)。西側から見ると,大山(1,729m)から烏ヶ山(1,448m),蒜山三座(1,202‒1,100m)と馬の背のように連なっているが,北側から見ると,新幹線から見る富士山とよく似た形になっている。
岡山から境港に行くにあたって一番重要なことは,県北の積雪状況である。岡山県から鳥取県に抜ける道はいくつかあるが,私は冬用タイヤを持っていないので,道に雪が積もっている状況では,鳥取県に抜けるのは困難である。だから12月下旬から2月いっぱいは,鳥取県に行くことはない。
一方,山々に雪が積もりだす時期(12月中旬)や,道の両側に残雪の見える時期(3月上旬)には,道路に雪が積もっていなければ,鳥取県に行くことができる。それでも,12月中旬ともなれば,美甘(みかも)あたりまでは雪がなくても,新庄村を越えて四十曲(しじゅうまがり)峠にさしかかると大雪になることがある。大雪の場合,新庄村で引き返すかは,当日の天気予報による。強引に突破すると,帰り道がなくなる。大雪が降ってきて,帰りを心配しながら峠を越す時のスリルは何とも言えず楽しい。(時々失敗してひどい目に合う。)
図2.境港にある水産物直売センター。今年(2022)リニューアルしたばかりで,3月11日(金)には,お客さんの姿もまばらだった。
境港は美保関のある島根半島の向かい側に位置する。岡山からは,下道を行けば150kmぐらいだろうか。令和3年(2021)の12月中旬に行った時には,四十曲峠には雪が降っていたが,令和4年(2022)の3月11日に行った時には,四十曲峠は快晴で,容易に通過できた。平地では気温が18℃もあった。
境港の水産物直売センターは,今年(2022)にリニューアルオープンした。中央に広いスペースが設けられ,混雑時でも往来が楽にできるようになった(図2)。入り口手前(この写真では見えていない。)にあるお菓子屋さんも健在である。
図3.水産物直売センターで販売しているボイルしたベニズワイのオス個体。一匹2,000円は,私にはちょっと高すぎる。
図4.別の店で売っていたボイルしたベニズワイのオス。こちらは5匹5,500円だった。
水産物直売センターでは,ズワイガニはボイルした個体と水槽に入れた生きた個体と,両方が販売されている。生きた個体の方は鋏脚にタグが付いて,一匹1万円以上するが,ボイルした個体になるとかなり安く買うことができる。
日本海で採集されたベニズワイのオスは,まず指で甲羅(carapace)を押して硬さを確かめるのだろう。甲羅の硬い個体は,最終脱皮してから年数がたっていると思われる。それらの個体は,歩脚(pleopod)が5対全部そろっていれば,生かして持って帰り水槽に入れるのだろう。甲羅の硬い個体は,いわゆる「カニみそ」(専門用語では,中腸腺(midgut gland))がたくさん入っているので,一匹1万円以上で売れる。料亭とかホテルからのニーズは高いだろう。なお,中腸腺は,分泌腺ではなく外骨格の形成に使われる栄養分の貯蔵器官と思われる。
一方,甲羅の多少柔らかい個体や,歩脚がいくつか取れた個体は,採集後速やかに冷凍保存されると思われる。水産物直売センターでは,冷凍した個体をゆでてから販売所に並べている(図3と図4)。ゆでた個体はすぐに販売所(図2)に持ってゆくのではなく,一度冷凍して,販売できそうな数を毎日取り出して販売所に並べるのだろう。当日売れ残りがあれば,また冷凍して,次の朝に販売所に並べると思われる。
図5.販売所の棚に置いてあったカニ類のアクセサリー。売り物ではない。
ボイルした個体の甲羅を指で押すと,どの個体も程度の差はあるが,甲羅が柔らかい。これらはすべて昨年(2021)の夏から秋に脱皮したのだろう。あるいは一昨年(2020)の夏に脱皮した個体も含まれるかもしれない。ベニズワイは,完全な深海性の十脚甲殻類であり,生息密度の高い海底は,1,000mから2,000mの深さである。海底の水温は,2~3℃ぐらいだろうから,酵素反応がストップする寸前の水温の中で生活している。脱皮した後に外骨格(甲羅)が硬くなるまで1年以上かかってもおかしくはない。
ボイルしたベニズワイの値段は,甲羅の硬さで決められているようだ。安い個体を見ると,店員の方々は皆,あれは「カニみそ」が入っていないと言う。「カニみそ」の入っていない個体の甲羅を指で押してみると確かに柔らかいことに気づく。
一方,カニの味覚でいちばん大事な筋肉の方はどうか?「カニみそ」のいっぱい詰まった個体は買ったことがないので比較の仕様がないが,私には甲羅の柔らかい個体でも,筋肉の味は硬い個体と比べてそん色はないように思える。
という訳で,私が水産物直売センターで買うボイルしたベニズワイは,いつも1匹400円から800円程度の安い個体である。図3に示した個体は,1匹2,000円なので遠慮したが,図4に示したカニは,サイズは大きく5匹で5,500円だった。ちょっとおまけして・・・と言って,もう一匹加えて5,500で購入した。さらに,5匹2,000円のカニもあったので(サイズは5匹5,000円のカニとほぼ同じ)それも購入した。どちらも「カニみそ」は少なかったが,胸部や歩脚の筋肉は(当たり前だが)しっかりしていて,とてもおいしかった。
図6.水産物直売センターで販売している魚介類のひとつ。バトウという名前の魚。
ボイルしたベニズワイは,再び冷凍してから解凍しても,味や鮮度は変わらない。つまり深海の十脚甲殻類は,冷凍と解凍を何度か繰り返しても味には大きな影響がない。だから,ボイルした個体を買ってきて冷凍庫に入れておき,必要な時には解凍すればいつもおいしく食べられる。冷凍しておけば,1か月ぐらいは持つだろう。ただし,冷凍するときにはビニール袋に包んでおき,水分の蒸発を避ける必要がある。
水産物直売センターでは,ベニズワイ以外にも様々な魚介類が販売されている。図5はカニ類のアクセサリーを示しているが,これらは売り物ではない。どこかのお土産店で購入したのだろう。
図6に示した魚はバトウ。初めて見る魚なので,どんな味かは不明。一匹1,500円ならそんなに高くない。売り場でさばいてもらい,家に持って帰り,刺身で食べたらおいしそうだ。アラは煮るかみそ汁にしたら結構いけそうである。家族で食べたら,一人当たりの値段はすごく安くなるだろう。
図7.水産物直売センターの建物の隣にある海陽亭(レストラン)の食事のメニュー。
図7は 水産物直売センターの建物の隣にある海陽亭(レストラン)の食事のメニュー 私は一人の時には立ち寄ることはない。お腹いっぱい食べると,車の運転の際に集中力が低下する。昼食は,いつもおにぎりとかパンとか軽いものを食べている。
皆さんは,深海ガニに関する生物学的な知識よりも,食べておいしいとかまずいとか,そんなニュース(メニュー)の方に大きな関心を持つと思う。
図8.西側から見た伯耆大山。雪のない夏季においても縦走はできないと思う。
さて,水産物直売センターでベニズワイを買ったら,すぐに帰りの行程に入る。遅くとも境港は15時ごろに出ないと,県境を通過するときには気温が下がって,路面が凍結する可能性も出てくる。3月11日は14時半ごろに境港を出発したと思う。
境港からは431号を通って米子に行き,米子から国道181号に入る。米子から岸本まではバイパスができたのでかなりの時間短縮になった。図8は,バイパスの途中で道路の脇に車を止め,そこから撮影した伯耆大山を示している。
岸本からは,昔ながらの181号を通り,根雨(ねう)を越えたあたりから上り坂にかかる。道は広く,交通量も少ない。20分も走れば,四十曲峠に入る。峠の長いトンネル(これは道幅は狭い)を出ると岡山県である。新庄村,美甘を経て中国勝山,久世に出て,美作落合まで下り,そこから旭川沿いか県道86号を使って吉備中央町に出るのが一番早い。
吉備中央町から岡山市街までは,1時間足らずで戻ってこられる。
岡山市街から鳥取県境港までは,丸1日の行程で往復できる。途中の風景もよい。