ブッポウソウ総合情報センター・ニュース: ブッポウソウは巣箱を決めてからすぐに交尾に入る

 中山良二さんの家の近く(家から100mほど離れている)の田んぼの畔に設置した電柱(自立柱)に巣箱がひとつかけてある。巣箱の入り口と内側には,ビデオカメラが取り付けられていて,24時間にわたり,ブッポウソウの子育ての様子を観察することができる。

図1.令和3年(2021)7月2日に初めて観察され,天気が回復する1日前(7月7日まで)で毎晩続いた。ビデオカメラ(外カメラ)の映像を写真に収めた。このメスは,これから毎年同じ行動を繰り返すだろう。

 一方,中山さんちの巣箱とは別に,中山さんの家から500~600m上に上がったところにお堂「横山様」があり,近くには自立柱にかけられた巣箱がある。横山様の方は,毎年その時期になるとブッポウソウの観察者でにぎわっている。

 中山さんが横山様においたブッポウソウのメモ帳に,交尾した時刻を記入してくださった方がいた。黒瀬歯科医院の黒瀬邦彦氏である。平成29年(2017)に5月初めから毎朝早い時間から(おそらく夜明けとともに)横山様でブッポウソウの写真撮影をはじめた。撮影は,歯科医院の開業時刻に近いころまで続いた。

表1.お堂「横山様」におけるブッポウソウの交尾の記録。(中山良二氏 作成)

 ブッポウソウを撮影に来る人たちは大概,きれいな写真が撮れれば,あとは駐車場の入り口にある賽銭箱にお金を入れて,はい・・さいなら,というケースが多い。しかし,黒瀬先生はご自分が観察したブッポウソウの交尾の時刻を毎日記入してくださった。表1は,ブッポウソウの産卵のタイミングが,なぜ個体群の中で,また季節の中で極めてよく同調している(synchronize)のかを知るための本当に貴重な資料である。

 表1を見るとわかるように,ブッポウソウのペアは産卵する巣箱を決定すると,すぐに交尾を始める。観察はほとんど午前中に集中しているが,午後もたくさん交尾していると考えてよいだろう。メスの排卵が近づくと交尾頻度は高まる感じがする。ちなみに,ブッポウソウの交尾行動は,奥島史朗–おおじいさんがよく撮影していた。私は, 交尾行動はあまり趣味ではないので,写真ファイルは持っていない。悪しからず・・・。

 個体間でなぜ同調性が高いのか?先日,吉備中央町の協働推進課で,来年開催予定の「ブッポウソウ子育てフォーラム」のことを相談していた時に,事務の女性の方から「それって人間と同じじゃん・・・。」と言われ,しばらく考え込んでしまった。確かにその通りだ。

 産卵(egg-laying)や放卵(spawning)のタイミングが同調することは,多くの生物で知られている。メダカの産卵もそうだし。アカテガニの抱卵(egg-laying)や幼生の放出larval release)もそうである。ブッポウソウは,産卵(egg-laying)のタイミングが個体群の中で高い同調性を示す。産卵時刻は午後が多いようだが,同調性が著しく高いとは言えない。

 これらの動物のメスの体内には,産卵のタイミングを制御する体内時計がある。ブッポウソウは産卵に関する概年時計(circannual clock)を持っていて,日長(day length)の変化を認識して,季節のサイクルに体内時計を同調(synchronize)させている。ブッポウソウの持つ概年時計の精度は高いのであろう。毎年最初の卵が産まれる時期は,5月20日から6月4日までの2週間に集中する。越冬地である赤道の付近の日長の微妙な変化を感じ取り,渡り(migration)を始める。そして日本に来てからは,繁殖地の日長(day length)を感じ取り,絶妙なタイミングで産卵を同調させている。

 ヒトの出産には,個体間での同調性はないと思う。月の満ち欠けに同調した月周リズムがあるとか,満潮がどうとか言われているが,根拠は希薄である。ちなみに,瀬戸内海と太平洋側では,満潮と干潮の時刻(リズムの位相という)は,ほぼ逆転している。アカテガニの産卵は,それぞれの地域の満潮時刻に正確に同調しているが,ヒトが同じようであったら,例えば,高知県と岡山県では,産婦人科医の活動する時刻が全く異なることになるだろう。

<参考文献>

  • 今井清2003. ニワトリにおける卵生産過程とそのしくみ(総説)。日本鳥類学会誌52: 1-12.
  • (キーワード:卵形成,卵胞成長,排卵,産卵)
  • Saigusa, M. 1982. Larval release rhythm coinciding with solar day and tidal cyels in the terrestrial crab Sesarma –harmony with the semilunar timing and its adaptive significance. Biological Bulletin. 162: 371-386.

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です