令和3年(2021)9月8日(水)
ブッポウソウの方は,美誠ちゃんを含めて8月20日過ぎまでには,南方に向けて渡りに入ったと思う。私の記憶では,7月に入ると中国山地の方に飛んでゆくペアを見かけるようになる。初めに帰ってゆくのは,子育てに失敗したか,巣箱を見つけられなかったペアなのであろう。中国山地まで北上し,それから山地沿いに西に移動し,中国大陸に入るのだろう。
渡り(migration)は,7月中旬から8月下旬くらいに行われると思われる。春と違って,一刻も早く繁殖地に到着して巣箱を確保するという競争はないので,帰るタイミングは散発的になっている気がする。大きな群れではなく,リーダーを中心に比較的小さな群れを作って南下してゆくのではなかろうか?方向感覚のすぐれた親がいれば,家族単位で渡ることができるだろう。そうでなければ,数家族でグループを作って渡りをすると思われる。今年生まれた美誠ちゃんは,(渡りの)最後に近いグループに加わったのではないかと思う。
ブッポウソウについては,これからも「ブッポウソウ子育てニュース」として,不定期に発信させていただく。今年度(2021)に得られた新しい知見がまだたくさん残っている。
ブッポウソウの一家が去った峰ピョン谷では,現在草刈りが行われている。基地の中や周囲が草ぼうぼうだと,どうも繁殖行動の観察に元気が出ない。マムシの暗躍も抑制したい。草刈りが終われば,一番大事な原著論文の作成に入るが,今年中に原稿は完成するかどうか・・・。来年(2022)の春には,もう一度草刈りが待っている。巣箱掃除もしなくてはならない。いろいろな作業が全部終わらないうちにブッポウソウはやってくる。ブッポウソウの鳴き声にせかされながら,毎年準備は中途半端なままで観察に入ることが常態化している。
今年は,ブッポウソウが終わったら「サンゴ礁とサンゴ礁原」の本を完成させることに決めている。この本の舞台は琉球列島の西表島である。西表島では過去何十回も調査を行った。
西表島は,標高300mから400m以上の山々が連なり,島全体が原生林に覆われている。山々から流れ下る多くの川の出口には,ヒルギ林(マングローブ)が発達し,干潟には多くの種類の生物が見られる。マングローブを含めた河口域(estuary)の自然に魅せられて西表島を調査地に選んだ。・・・なんて言えば,聞こえはいいが,実際にはそうではない。西表島の上原には,琉球大学熱帯生物圏研究センター・西表研究施設があり,長期の宿泊が可能だ。かつ朝食と夕食のまかないがあることが一番の理由である。毎日海からくたくたになって帰るので,シャワーを浴び,洗濯物を干し,それから食事を作るなど,自分には不可能である。
図1.石垣島の東海岸に広がるサンゴ礁。サンゴ礁縁の内側を「サンゴ礁原(reef flat)」と呼ぶ。写真は,旧石垣空港を離陸してから1分ぐらいして,新石垣空港(まだできていない)の先端から西側に500m離れたところを上昇中の機内(那覇空港行き)から撮影。手前に見えるのは,新石垣空港の造成地ではなく,ゴルフ場の造成地。写真左端には野底岳,上部中央には伊原間(いばるま),一番奥には平久保方面がうっすらと写る。野底岳(標高280m)を見下ろす角度から,飛行機の高度は400m前後と推定される。2007年5月22日撮影。飛行中は黄砂で視界が悪いことが多く,こんなにきれいな写真が撮れることはめったにない。
岡山から西表島までは,交通の利便性はよい(図1)。岡山空港(岡山桃太郎空港と改称)を朝8時半前に出発する那覇行きがある。那覇空港には10時40分ごろ到着する。11時の新石垣空港行きに乗れば,12時過ぎに空港着。新石垣空港から離島桟橋まではバスで45分。うまく行けば,13:00発の大原行きの高速船に乗れるが,石垣空港への飛行機の到着が10分遅れると,13時までに離島桟橋にはたどり着けない。船は14:30まで待たねばならない。
高速船は40分ほどで大原港に着く。レンタカーを借りて琉大の熱研に向かう。西表島に行くのは,いつも海は大潮(spring tide)の時である。15時あたりだと,まだ潮は引いている。途中で1時間ほど海岸に下りて観察すれば,上原にある熱研に着くのは17時前になる。