令和3年(2021)8月14日(土)
このパズルを解くのには時間がかかる。
時期は春にさかのぼる。吉備中央町「北」(地名)にある妙本寺周辺には,たくさんのブッポウソウの巣箱が掛けてある(図1)。多様性プロジェクトの分だけでも,13コある。ただし,この地域には,巣箱の数の割にはブッポウソウの数は少ない。令和3年(2021)は,13コのうち,産卵や子育てに使われたのは9コ(69 %)であった。7割近い利用率は,吉備中央町の中では低い方に属する。
妙本寺周辺の巣箱の中で,W-037とE-16は以前からひとつのペアによって使われてきた。最初の頃はW-037だったが,県道57号を挟んで林の北側にあるE-16が使われるようになった。ここ2~3年はE-16が使われてきた。
一方,今年(2021)は,4月20日に妙本寺の境内に新しい巣箱(妙1)が掛けられた。
E-16と妙1について,その後の展開を以下に記した。
5月29日には,E-16で卵がひとつ産まれていた。妙1の方はスズメによってワラが持ち込まれた。
6月10日に見ると,E-16の巣箱の中ではブッポウソウの親(性別不明)が卵を温めていた。妙1の方は,卵がひとつ置いてあった。
6月18日には,妙1では卵が4つになっていた。E-16の中では,相変わらず親が卵を温めていた。6月10日と同じ親と思われる。
6月21日には,やはりE-16には同じ親が卵を温めていた。おそらく6月1日ごろから卵を温めていただろうから,もう20日間温めているが依然としてふ化していない。
6月23日。妙1では親(性別不明)が卵を温めていた。一方,E-16でも親が依然として卵を温め続けていた。産卵後25日間が経過(卵の温めは23日間)。
6月29日。妙1で卵(4つ)温め。まだふ化せず。一方,E-16には卵が3コ残っていて,もう親はいなかった。E-16では,産卵後31日間が経過し,ふ化する可能性が消えた。見るからに危険な感じがした。親は完全に巣箱を放棄したと思われる。
7月6日,妙1の方はふ化(4匹)。E-16は依然として卵3つ置いてある。もう親はいない。
7月18日。妙1では,羽軸ヒナ4匹。
7月27日。妙1では,巣立ち直前のヒナ4匹。親(オス)から威かく攻撃を受ける。
7月29日。妙1では,巣立ち。ヒナ1残る。親(オス)うるさく鳴きながら警戒飛翔。巣立ちは7月28日からと思う。
7月31日。妙1では,残るヒナ1の顔出し。
8月2日。妙1は空になっていた。巣立ち完了は,おそらく7月31の午後か,8月1日。
<E-16についての考察>
E-16で巣箱が放棄されたのは,6月27日から28日ごろかと思われる。時期的に見て,他の巣箱に移って再び産卵をすることはないだろう。この親は,どこかに飛び去って行ったに違いない。
気になるのは,もう一方の親の存在。E-16にはいつ行っても,もう片方の親が巣箱を見張っている気配がなかった。E-16はおかしいと気づいたのは,放棄寸前になってからだった。
E-16の巣箱にはいくつか疑問がある。
・どうして卵は3つともふ化しなかったのか? メス親が,一人でずっと温め続けていた場合には,すべての卵がふ化しないということはなさそうに思える。
・巣箱の親が卵を温めている間,片方の親はどこにいたのだろうか?
いままで妙1(図2)にしてもE-16(図3)にしても,卵を温めているのはメス親だと思っていたが,実際には両方ともオスだったのではないだろうか。妙1の場合には,昼はオスが温めていたけれど,夜にはメスが入って卵を温めていたのだろう。
問題は,E-16の方である。今まで,卵が3つともふ化しなかったことはなかったように思う。よほど途中で卵を温められない時間が長かった可能性がある。例えば,産卵後にメスがひと晩ずっと巣箱に戻らなかったとか・・・。となると,図3(E-16)に示した巣箱で卵を温めていたのは,メスではなく,オスだった可能性が浮上する。今までの観察だと,オスは夜間には巣箱の外にいて卵を温めることはしない。オスだけで抱卵すると,卵(胚)がふ化することはない。(何年か前に江与味にあるM-01で似たようなケースが発生した。)
E-16ではメス親が落鳥した可能性が浮上する。もしそうならば,妙1の方は,どこからか移ってきたペアなのか,あるいは新しく入ったペアなのだろうか・・・。
このパズルを解くのには時間がかかる。最後まで文字に目がついて行かなかった読者の方々も多いのではないかと思う。すみません,これが動物学者としての私の仕事なのです。