ブッポウソウ総合情報センター速報(No. 41)

令和3年(2021)7月31日(土)

何でこんな時期に5匹もヒナがいるんだ!

この速報の内容についてご理解いただくには,鳥類の産卵機構に関する多少の専門的知識(生態学的知識ではなく,内分泌学・発生学的知識)が必要になります。

結論としては,ブッポウソウを保護してやれば,産卵は徐々にニワトリのようになって行くかと・・・。

Key words(キーワード): Seasonal clutch size decline, Endocrine level, 大平山

吉備中央町から広域農道(奥吉備街道)を越えて上有漢に出ると,道路右側に王子権現神社がある。ここにも巣箱(I-10)があるが,少し手前を右折して150m入ったところにI-01の巣箱がある(図1)。I-01はI-10と紛らわしいが,たまたまそうなってしまった。

I-01は毎年ブッポウソウが子育てをしており,繁殖成績も全体の中ではよい方であろう。ところが,今年は産卵が遅れた。6月13日に見たときには卵2つだったので,最初の卵は6月10日前後に生まれたのであろう。初めて来たペアが最初の年からこんなに多くの卵を産むとは考えられないので,何かトラブルがあったのだろう。

ブッポウソウは,最初の卵が産まれるのは,早い巣箱では5月15日であり,5月25日から5月30日ぐらいがピークになる(最初の産卵であることに注意)。5月31日から6月5日あたりに最初の産卵をするメスの数は急激に減少し,6月10日ともなれば,95%以上のメスで最初の産卵が終えている。I-01のメスは,残り5%の中に入る。

もちろん,産卵が遅れたからといって,鳥に異常がある訳ではない。何らかの事情で産卵のタイミングが遅れたということである。

5月中旬から下旬にかけて最初の産卵が見られる巣箱と,6月に入ってから産卵のみられる巣箱の違いは,産卵数である。5月中旬から下旬に産卵の始まる巣箱では,だいたい4つか5つの卵が産まれる。一方,6月に入ると卵数は少し低下し,4つあるいは3つのところが多くなる。6月10日を過ぎれば,2つか多くても3つに減少する(seasonal clutch size decline)。

I-01で6月10日に最初の産卵があったとすれば,卵の数(clutch size)は2つか,多くても3つまでだろう。5つというのは,この時期にしては異常な数の多さだ。I-01は大平山の西山麓にあり,吉備中央町に来るブッポウソウよりもほんのわずかに産卵数は多い。それにしてもclutch sizeが5というのはunusualな数値である。

図1.上有漢(高梁市)の巣箱にいる5匹のヒナ(7月25日)。いつものように,1匹発育遅れのヒナがいる。

なぜ,こんな時期に5つも卵が産まれたかを説明できる仮説は少ない。というよりも,今までこんなことは誰の目にも止まらなかった。みんなclutch size declineの位置や傾きは,種によって固定していると考えてきた。

しかし,clutch size の季節的減少は,今まで考えられてきたように固定的ではなく,環境に応じて上下に変動するかdeclineの傾きが変化する(水平に近づく)と考えれば,こんな時期に5つもヒナがいることを説明できるのではなかろうか。

これ以上詳しいことは,得られたデータを図や表にまとめ,この仕事を面白いと思ってくれそうなジャーナルにパブリッシュするのがいいと思う。ここで自分の立場を主張しても,そういうことがいいと思わない方々もたくさんいる。

ブッポウソウを保護すれば,やがて自分たち(ブッポウソウ)では世話しきれない数の卵を産むようになるかもしれない。もともと生物とはそういう性質を持っていて,ニワトリは人がその性質をうまく利用して毎日たくさんの卵を産むように改変された。

ブッポウソウの場合には,自然に近い巣箱をという主張もあるだろうが,それでは衛生状態が悪くなる。巣箱の環境が悪ければ,鳥の心もすさむ。鳥の心が荒めば人と共存することも難しくなる。どのように調整したらよいか,いずれ議論が交わされる時が来る。(人の)利害関係が入り込まないように解決を図りたい。

I-01では,7月29日に巣箱を見たときには,親2匹は激しい警戒飛翔を行った。巣箱の上空を旋回しながら激しく警戒音を発している。2匹ともやる気満々で,5匹のヒナは4~5日内にすべて巣立つことは間違いない。

ブッポウソウは,巣箱にいるうちは兄弟でも,巣立ちをした瞬間から互いにライバルの関係に変わる。しかし,ブッポウソウといえどもミラクルを起こす力を持っている訳ではない。(人間には,自分はそういう力を持っていると思っている人もいるようだが。)

巣立ちをしてからは,自分一人で自分の未来を切り開いてゆかねばならない。祖先が与えてくれた生きる力を信じて・・・。

<参考文献>
今井清(2003)ニワトリにおける卵生産過程とそのしくみ.日本鳥学会誌52:1‐12.

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です