ブッポウソウ総合情報センター速報(No. 27)

令和3年(2021)7月12日(月)

巣立ちが始まった。

7月に入り,巣箱の中は成長したヒナの体表は黒色の羽軸から羽毛に変わって,灰色やくすんだ青緑色を帯びてきた。巣箱の中を見ると,巣立ちが近づいたのはわかるが,7月6日までは,巣箱から顔を出しているヒナ(ここまでは「ヒナ」と呼び,巣箱を離れたら「幼鳥」と呼ぶ)はいなかった。

7月7日から数日間は大雨で巣箱を見回ることはできなかったが,7月10日(土)から雨量が減り,見回りを再開した。

まずは,峰ピョン谷に設置した巣箱から・・・。

図1.7月11日の峰ピョン谷。親がエサを持ってくる回数が減り,ヒナは頻繁に巣箱の外に顔を出すようになる。じっと待っていると,たまに巣箱にエサを運んでくる。写真は,メス親が運んできたアオカナブンを丸ごと呑み込むヒナ。カナブン,うまくゲット・・・と思わないでいただきたい。次の2枚の写真を見るとその顛末がわかる。峰ピョン谷にいると,こういう写真はたくさん撮れるが,巣箱を見回る方が優先されるので,峰ピョン谷で写真を撮るのは短い時間に限られる。
図2.なんかすごく怒っている感じの巣立ち前のヒナ。

峰ピョン谷では,ヒナはずっと巣箱から顔を出していたが,親はどちらも「巣立ちコール」は発していなかった(図1)。

巣立ちが近づくと,親はたまにしかエサを運んでこなくなる。図1は,そのたまたまエサ(アオカナブン)を運んできたときに運よく撮れた4~5枚の写真のひとつである。親からアオカナブンを受け取って丸呑みしようとするシーンである。一方,親(多分メス)の方は巣箱から離れようとしている。

で,次はヒナの怒ったシーンが写っていた(図2)。「こっちを向いて怒るなよ・・・」と言いたい。(実際は怒っているように見えただけだろうけれど・・・。)

図1と図2の間には,実はもう一枚ヒナの写真がある。それが図3である。ヒナは,親から受け取ったアオカナブンを丸呑みしようとして,くわえ直した。その瞬間,アオカナブンはヒナの口から飛び出して(翅を広げて飛んだ訳ではない。うまく捕まえきれなかっただけのこと。)下に落ちていった。図2の示したシーンは,「うるせーな,失敗して何が悪いんだよー」みたいなことを言っているのかもしれない。

図3.カナブンを見上げるヒナ。いったんは口の中に入れたアオカナブンをくわえ直すときに,ちょっと勢い余って,カナブンすっ飛んじゃった。カナブンは飛んでいるのではなく,放り投げられた状態。このカナブンを追って巣箱を出れば,即巣立ちということになったのだが・・・。

結局,図の配列(時系列)は図1→図2→図3ではなく,図1→図3→図2の順番でした。こっちを向いて怒っても(図2),私のせいじゃないんです。

一方,顔出しをしているヒナに対して,親はどこにいるのか?普通はすぐ近くの林の中で枝につかまり,「ケッ・・・ケッ・・・」と巣立ちコールを発しているのだが,峰ピョン谷では巣箱の正面20mの距離に立てた「鹿の角」(クリの枯れ木で作った)に2匹が止まり,ジーと巣立ちを待っていた(図4)。

巣立ちコールは発していなかったので,7月10日はまだ巣立ちはないだろう。

峰ピョン谷は,面積は小さく,斜面の傾斜(slope)はかなり大きい。カラスも4~5匹いるが,私がいるときには巣箱の近くには降りてこられない。マムシは巣箱の真下に出るが,巣箱を襲うことはない。シマヘビ(この地域では黒化型が多い)はたくさんいるが,これも巣箱は襲わない。残るはアオダイショウだが,峰ピョン谷では数が少ないらしく,ほとんど見かけない。(と言っても,油断しているとビデオカメラの配線を登る可能性はある。)時々上空に猛禽の姿も見られるが,ブッポウソウはそんなに警戒しているようには見えない。

図4.「鹿の角」に待機してヒナ(図1~図3)の巣立ちを待つ親。
侵入者がほとんどいないので,のんびりした巣立ち誘導の風景になって
いる。足の色とくちばしの色から判断して,左がオス,右がメスだろう。

ブッポウソウの親(図4)が一番緊張したのは,7月5日(月)に谷をブッポウソウの集団が通りがかったときである。9時20分ごろだったか,谷の中で多数のブッポウソウの鳴き声がした。数は不明だが,10匹前後はいたような感じだった。谷の斜面に生えている木々の枝につかまっては,あちこちでゲチョゲチョ大声で鳴いている。ゲチョ・ゲチョ・ゲチョ,ゲーゲゲ・ゲ・ゲ・ゲ・ゲ,グー・グルグルグーみたいな鳴き声がいっぱい聞こえてくる。

どこに峰ピョン谷の親がいるのか,皆目見当がつかないが,2匹で必死になってブッポウソウの集団を追い払おうとしていることは間違いない。フィールドにたまに現れては「ヘルパーが来た」などと根拠のない説明をする人たちがいるが,集団が来ているときの状況を見れば,とてもヘルパーなどと吞気なことを言っていられないことがすぐにわかる。

集団で林を移動してゆくブッポウソウの群れは,毎年同じ時期(7月10日前後)に発生する。

カラスでも同じことが起きる。今年カラス(ハシブトガラス)が自宅(岡山市北区)の目の前にある大きなセンダンの木に巣を作って産卵した。(下からしか見えないので,断定はできない。)ある時,カラスの集団(10以上は確実にいた)が通りかかり,目の前の巣は完全に壊されてしまった。しばらくして,150mほど離れたケヤキにもう一度巣を作って(おそらく)産卵まで行ったと思う。またカラスの集団が現れて,とうとうこのペアは巣を放棄してしまった。

ブッポウソウにしてもカラスにしても,集団で移動する群れについての報告はないかもしれない。相当バイオレントな個体の集まりという印象を受ける。どういう集団かは,これからよく研究する必要がある。

峰ピョン谷は,ブッポウソウの行動観察のために最初から計画して,子育て環境をレイアウトした。だから,写真撮影にしても,巣箱から10m以上離れれば,どの位置からも空は写らない。つまりブッポウソウの背景はすべて林かハウスになる。巣箱の横のビニール袋は,写っても一向に差し支えない。子育てを邪魔する要素は,可能な限り取り除かれている。

図5.巣箱から顔を出しているヒナ。小型カメラのスイッチを入れようと
して下を向いた瞬間に巣箱から飛び出して,前方30mにある林の中に飛び
込んだ。7月10日11時ごろ。

7月10日には,ヒナが顔を出している巣箱がかなりたくさんあった(図6)。

以前は私が巣箱に接近すると,親鳥が鳴き,巣箱の中のヒナの「エサくれコール」はピタッと止まっていた。また,巣箱から顔を出していたヒナもすぐに引っ込んでしまうことが多かった。しかし,最近は「ケッ・ケッ」という声(巣立ちコールのつもり)を出しながら近づいてゆくと,ヒナはなかなか引っ込まず,巣箱の真下に来てもまだ外を見ているところが増えてきた気がする。

図6.巣箱から顔出ししているヒナ。E-05(7月10日)。ヒナは周囲に対する警戒心が低い。近くにカラスがいれば,親から強い信号(まだうまく分析できていない)が送られ,ヒナはすぐに巣箱に引っ込む。私が巣箱の真下まで容易に接近できるということは,親鳥の方が私を警戒していないということだろう。

もしカラスがこれをやってら,親鳥(特にオス)は最高レベルのの激しさで攻撃してくることは間違いない。(近くを通るときには全く反応しないが,巣箱をめざしているとわかると,猛然と攻撃行動に移る。この激しさは,見た者でないとわからない。カラスはちょっと油断すると大変な被害をもたらすことを学習した上で発現する行動かもしれない。

私が「ケッ・ケッ」という声を出しながら近づいてゆくと,巣箱の真下に来てもヒナはまだ外を見ているというのは,ヒナが鈍感ということもあるが,親鳥が警戒していないのだろう。もっとも自分の真上にいるヒナの写真を撮っても,できばえ点は低いですぞ・・・(図5)。

図7は,7月10日に上田東にあるA-08の巣箱で撮影されたオスの威かく攻撃である。

威かく攻撃の撮影については,相変わらず挑戦し続けている。威かく攻撃のできる個体(オス)のいる巣箱は子育てがうまいと思う。昼間なら,電柱や木の幹を登るアオダイショウも撃退できる可能性が高い。だから,威かく攻撃を発動させる訓練はやったらおもしろいと思う。ただし,敵もさる者,お前を挑発しているんだよとわかると,威かく攻撃をすぐにやめてしまう個体もいる。

多くの個体は遠回しに巣箱の周囲を飛んでいるが,これだと巣箱を襲う捕食者からヒナを守ることはできない。

図3.黒いぼろ布かオオコウモリが飛んできた感じ。左足に黒い足環(私がつけた)があるのでオス。A-08(上田東?)の巣箱。 もう6年間も同じ個体が来ている。パフォーマンスはなかなかいい感じで,自分ではかなり気に入っている写真だが,やはりできばえ点は低い。よく見るとピントも合っていない。できばえ点は10点でも,私はこういう写真(動物が一所懸命生きている感じが強く出ている写真)を精力的に公開してゆくだろう。

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