ブッポウソウ総合情報センター速報(No. 26)

令和3年(2021)7月8日(木)

もっといい巣箱が見つかったから。

ブッポウソウは,毎年同じペアが同じ巣箱に来て産卵と子育てをするケースが多い。しかし,何かの理由で巣箱を移動することはないのだろうか?野鳥の研究では大事なことだと思うが,思い込みの方が先に立つ方々が多いせいか,巣箱の移動に関しては報告がないようだ。

図1.妙本寺の境内にある巣箱(吉備中央町・北) 。7月6日。
わずか3コしか卵が生まれなかったのは,この巣箱での産卵が
遅れたため。まだ両眼は,皮膚に覆われている。ペアは,E-16で
卵を3つ産んだのち,巣を放棄し,妙1に移った。結局このメスは,
計6つの卵を産んだことになる。

今年(2021)は,吉備中央町の北という地域に2つほど新しく巣箱を掛けた。ひとつは,妙本寺の境内(自立柱),もうひとつは妙音寺の近くのE-10である。妙本寺の境内には,少ない面積ではあるが,ここだけ自然林という感じを受けるところがある。おそらく,フクロウやコノハズクなども子育てをしているだろう。こういう感じの林は,ブッポウソウも好きなのかもしれない。妙音寺の境内は,林と言えるほど木の数は多くない。

ちなみに,ブッポウソウは,和名(カタカナ表記)。リンネの二命名法に基づく学名は,Eurystomus orientalis。いくつか亜種があるが,各亜種でどの程度の遺伝的違いがあるか不明である。日本に飛来するブッポウソウは,中国語(Chinese)だと佛法僧(Fofaseng)ではなく,三宝鳥(Sanbaoniao)と表記する。三宝とは佛・法・僧のことであるが,中国語では藍胸佛法僧や棕胸佛法僧と紛らわしくなるので,「佛法僧」と書くのを避けたのではないか。

図2.E-16で生まれた卵3つ。いつ見ても同じ形で卵が置かれ,親が温めている形跡がない。また,卵殻は汚れ,胚発生も止まっている(つまり,死んでいる)可能性は高い。7月6日。

ブッポウソウの仲間はアフリカ・ヨーロッパに1種,インド・ベンガル湾・マレーシアに1種,およびユーラシア大陸東部・熱帯域の島々に1種,世界に計3種類が生息している。ヨーロッパとアフリカにいるのがEuropian Roller(Coracias garrulus)。中国語では藍胸佛法僧(Lanxiong fofaseng)。インド・バングラディッシュ・マレーシアにいるのがIndian Roller(Coracias benghalensis)。中国語では棕胸佛法僧(Zongxiong fofaseng)である。3つ目が私たちの見ているブッポウソウである。学名(国際的に通用する)はEurystomus orientalis。英語ではDollarbird,和名(domestic name)はブッポウソウとカタカナ表記が基本,さらに中国語(漢字)では佛法僧ではなく,三宝鳥と表記される。

もう1,200年前のことになるが,弘法大師様は,高野山にあるお寺の境内で,夜にブッ・ポウ・ソウと鳴く鳥の声をお聞きになった。弘法大師様は,中国の経典の精通し,経典の中に「佛法僧」という鳥がいることを知っていたであろう。中国の経典の多くは,インドで書かれた原本(サンスクリット語?)を翻訳したものだろうから,そこに出てくる佛法僧はDollarbird(Eurystomus orientalis)ではなく,Indian Roller(Coracias benghalensis)の方だったかもしれない。いずれにせよ,大昔のことであれば,ブッポウソウが何種類いるかなど記録されている可能性はない。

弘法大師様の言われた佛法僧は,昭和10年(1935)になり,その正体はコノハズクであることが明らかになった。昭和10年というと,日本列島に分布する野鳥の研究(分類学)が盛んになった時期だろう。その過程で私たちが今見ているブッポウソウが日本にいることがわかり,おそらく黑田長禮(くろだながみち)博士によって「ブッポウソウ」という「和名」がつけられたのではなかろうか。なお,和名については命名者を併記するというルールはない。

日本では,生物として佛法僧を指し示すのであれば,カタカナ(ブッポウソウ)を用いるのが一般的だ。一方,文学として本種を登場させたいのであれば,「仏法僧」もしくは「佛法僧」と漢字で書けばよい。もうひとつ,日本では佛法僧(仏法僧)と漢字で書くと,コノハズクのイメージが強くなる。弘法大師様が声をお聞きになった幻の鳥は,ブッポウソウではなく,コノハズクだったからである。この点,誤解なきようお願いしたい。

ブッポウソウをめぐっては,日本と同じことが中国でも起きたと思われる。中国でも1,000年以上にわたり,佛法僧という鳥がいることは,仏教の経典から認識されていたが,誰もどんな鳥か知らなかった。経典では,佛法僧と言えば,棕胸佛法僧のことを指すのだろうが,本種の分布域は中国にはかかっていない。つい最近,おそらくは1960年前後になって,中国大陸でも野鳥の分類学が進んだ。その結果,藍胸佛法僧や棕胸佛法僧に似た鳥がいることがわかったのだろう。その鳥に対して,中国では鳥に詳しい中国人の研究者(氏名はわからない)が,「三宝鳥」と命名したのではないだろうか。

日本で言うブッポウソウ(Eurystomus orientalis)は,中国でも寺院と境内の立派な林でよく見られるのであろう。中国のお寺は,木造で歴史も古い(浙江省で実際に見てきた)。ブッポウソウが子育てをするような縦穴は,建物や大木に結構あるのだろう。日本でも木造で歴史の古いお寺,さらに境内や裏山に立派な自然林があるところは,ブッポウソウ,フクロウ・アオバズクなどの第2次樹洞営巣性鳥類(secondary cavity-nesting birdsという)が特に好む環境なのかもしれない。

野鳥は学習能力が高い。歴史のある寺院があれば,境内や裏山に子育てのできる木の「うろ」(樹洞)が見つかる可能性が高いことも,学習している可能性がある。

図3.W-037の巣箱の中。おがくずとコケが入っているだけで,ブッポウソウが産卵した気配はなかった。

話をもとに戻すと,E-16(その前はW-037)で子育てをしていたブッポウソウのペアは,今年(2021)新設した妙1に入ってしまった(図1)。

最近ではブッポウソウが子育てをする巣箱を移動したかどうか,直感ですぐにわかるようになった。このブッポウソウのペアは何年も前からE-16とW-037を行き来していた。E-16にいないときにはW-037に行けば,卵やヒナが見られた。逆に,W-037に気配がないときには,E-16を覗くとブッポウソウが巣箱の中に鎮座していた。

今年は,ある時期からE-16とW-037のどちらにもいなくなった(図2と図3)。そうなると考えられる可能性は,E-16で産卵した後に卵を置いたまま巣箱を放棄し,妙1に移ってしまったというシナリオである。野鳥にとって卵(受精卵)は「消耗品」である。ここは仏教思想と違うところである。もっと子育てに良い環境があれば,自分が生んだ卵でもさっさと捨てて,オスといっしょにそちらに移ることなど,ありふれたことなのであろう。

実は,気軽に巣箱の移動ができる繁殖システムが,ブッポウソウ社会を揺るがすとんでもない事件を引き起こしている。この件については後に述べることにしよう。

さて,今年の「北」地域におけるブッポウソウの子育て状況は,7月6日現在で下記のようになっている。「北」の周辺にはブッポウソウは少ない。その割に巣箱はたくさんあるので,ブッポウソウは自由にあちこち移動できるのだろう(図4)。

図4.吉備中央町「北」地域に設置された多くの巣箱。

妙1(赤ヒナ3):E-16から移動(300~400mぐらい?)。なお,W-037は巣箱の方向を変えたら,以後入らなくなった。
D-14(赤黒ヒナ2):たぶん新しく来ただろう。
E-11(巣立ち近づいたヒナ4):7月15日ごろ巣立ち予定。
E-08(羽軸ヒナ4):何年かかけてやっとスズメに勝った巣箱。
E-10(羽軸ヒナ2):E-15(妙音寺の近く)から移動。E-15は今年は入らず。E-10ではヒナは2匹だけしか育たなかったので,ブッポウソウの巣箱移動作戦は成功したとは言えない。
E-09(ふ化進行中):昨年(2020)は,オスが落鳥してメスだけで巣立ちまでやった。何度か電柱に登り,エサ(鳥のささ身やゆでたエビなど)をやった(自分では助けたつもり)記憶がある。
E-13(巣立ち近づいたヒナ3):ここは巣箱の設置以来ずっと使われている。
E-14(羽軸ヒナ4):ここはハルゼミが遅くまで鳴く。
(なお,上記の8つの巣箱におけるヒナの状況は,7月6日に確認した。
北地域に設置された巣箱のうち,上記8巣箱以外では,2021年度は子育てが行われていない。
北の周辺では,ブッポウソウの個体数は,大平山周辺と比べ,明らかに少ない。にもかかわらず,巣箱での毎年の巣立ち数から考えて,10年もすれば,ブッポウソウの個体数は爆発的に増加すると予想される。

なお,多様性プロジェクトでは,どの地域で何匹巣立ったかの集計は行っていない。生残率がよくわからない状態でそのようなデータを取ることは,あまりにもどんぶり勘定すぎて,ブッポウソウの繁殖について世間に誤解をもたらす結果になるのではないか。

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