生物多様性研究・教育プロジェクト Research Reports Ⅲ. 四季折々の自然の風景と野鳥 2024‒No. 7: カンムリワシ,池で泳ぐ

2024年9月8日(日)

何を見てもらいたいのか?
 生物多様性研究・教育プロジェクトがHPに出している記事は,6種類のジャンルに分れる。そのうち「四季折々の自然の風景と野鳥」は,近澤峰男さん(故人)が撮影された写真を中心に,野山で見られる野鳥の生態を紹介している。近澤さんは,幼少のころにかすみ網(現在は禁止)を使って野鳥を捕獲し,鳥かごに入れて育てていた。私は,かすみ網は使ったことがない。

 私は,夏には昆虫採集をし,冬には竹籠を使ったワナを田んぼに仕掛けて,ホオジロを捕獲しようとしたことがある。もちろん成功したことは一度もなかった。首を挟むワナも使ってみたが,やはり失敗した。鳥もちは,木の枝にかける前に自分の衣服について,これも失敗。竹籠を使ったワナや首を挟むワナは,作る過程が楽しいが,鳥もちは全然面白くなかった。

 子供のころは,野生動物に対して子供なりの残酷・残忍なかわいがり方をしてきたと思う。カエルやヘビなどは,最大の被害者である。しかし残酷なかわいがり方をした結果として,野生生物が好きになったことも事実である。私は,現代科学により生まれた最新の技術を,いわゆる実験動物に対して適用するのではなく,野生生物に対して適用する道を選んだ。大変な道だが,自己の幼稚さから起こした過ちに対して,せめてもの罪滅ぼしと思っている。野生生物と自然環境の研究は一生続けて行かねばならないだろう。

 近澤さんが撮影した野鳥の写真は大変面白い。何か私と共通の感覚があるのだろうか?近澤さんの写真を見ていると,面白い話題が次々と頭に浮かんでくる。私は文字(letters)に対する愛着は深い。ただ,文字だけで話題を記述するのは面白くない。文字だけでは頭の中にできごとのイメージが浮かばないせいだろう。

 野生生物の面白さを表現する手段として,私が得意とするのは文字写真の両方である。割合は,記事の内容によって異なるが,「四季折々の自然の風景と野鳥」の記事は,近澤さんの志を受け継ぎ,写真優先の記事を作ってみようと思う。写真は横長のレイアウトがよい。逆に文字は縦長の方が読みやすい。写真を優先するならば,ページは横長の仕様にした方が良い。

 今年(2024)は,6月21日から6月30日まで西表島の泥干潟で調査を行った。満潮時には干潟に出られないので,生物の写真を撮影した。島の西側にある美田良(みたら)にある小さい池(砂防ダム)でトンボの写真を撮っていたら,水辺にカンムリワシが浮いていた。最初は池に落ちたかと思ったが,そうではなく水浴びをしていたのであろう。15メートルも離れていない距離だったが,私を気にする風もなく,浅瀬に上がってしばらく羽を乾かしてから森の方に飛んで行った。

図1.西表島の地形図。
 西表島における研究拠点は,琉球大学熱帯生物圏研究センター西表研究施設である。もとは農学部付属の実験所だった。全学共同利用施設に改組されてから,私も利用できるようになった。
 研究施設は,船浦から少し山の方に入ったところにある。農学部の付属施設だったということもあって,昆虫やマングローブの植物を研究する人たちが多く利用している。常時海水を利用する研究ならば,沖縄本島の瀬底島にある研究施設(瀬底研究施設)を利用する方が良いが,私のように海産動物(十脚甲殻類)を採集してアルコールで固定し,岡山に持って帰って研究に使うという場合には,研究施設が海岸から少し離れていても全く問題はない。
 利用者は,当然ながら琉球大学の職員と学生が多い。学生は長期滞在者がいるが,教員は数日宿泊して帰る。私は常連の仲間に入る。2024年は,琉大の学生以外に,大阪公立大と東京農大の学生が来ていた。他大学の臨海実験所に比べ,西表研究施設の利用頻度は,非常に高い。

図2.西表島西部の自然環境。図1の祖納(そない)から白浜までを拡大。
 研究施設から美田良までは,車で20分もあれば行けるが,途中で頻繁に車を降りて写真を撮るので実際にはずいぶん時間がかかる。特に祖納鉄塔に行くときには,1時間半ほど余計にかかる。かつては白浜まで行くには,美田良(みたら)から尾根を越える道が使われた。1971年(春)と1972年(夏)は,干立(ほしだて)の公民館に宿泊し,徒歩で祖納から美田良,そして尾根を越えて白浜まで往復した。若いころは,干立から白浜まで歩いて往復してもそんなに苦痛ではなかった。また,舗装もされていない道を歩いた記憶もよく残っている。1972年には尾根越えの道でツマベニチョウを何匹か採集した。道の上を飛ぶので,50mから100mも走って追いかけた。その時の個体は今でも標本箱の中に,昆虫針に突き刺されて眠っている。また,祖納から白浜にかけての道路沿いの伐採枝では,たくさんのサビカミキリを採集することができた。祖納鉄塔に行くには,診療所の前の道を延々と登って行けばよいが,途中はリュウキュウマツの林になっていて,昆虫は少ない。道路脇にはアカメガシワの(地味な)花が咲き,チョウではタイワンクロボシシジミやルリウラナミシジミが蜜を吸いに来ている。カミキリムシは,ニッポンモモブトコバネとかイリオモテトラカミキリがいる。イリオモテトラカミキリは,夏に出るヨツスジトラカミキリの春型の可能性がある。形態に少しでも違いがあれば,新種や別種とみて採集に奔走する人たちとは付き合いたくない。2024年は,白浜に行く旧道沿いで撮影した。田んぼの奥に小さな池があり,池にはカンムリワシが落ちていた。

図3.白浜に至る旧道沿いで出会った生物。近澤峰男さんにお借りしたSONY RX10Ⅲで撮影した。このカメラのレンズはZeissの製品。 発色は美しく,resolutionもよく,昆虫類の撮影には適している。問題は,昆虫や花の写真では物語ができないこと。写真家を自称する人たちは,一般に文字(漢字とひらがな)を嫌う。 しかし,画像だけでは何を伝えたいのかよくわからない。最小限の解説は必要だろう。・・・という訳で,写真の中にいたずら書きが増える。それでも図3のどの写真も物語性が低い。静止画が多いせいだろう。なお,クモは節足動物門,鋏角亜門,蛛形(ちゅけい)綱に属する。昆虫綱ではない。2024年6月29日。

図4.西表島における干潟生物の採集場所。場所は,干立の浜を海岸に沿って200~300メートルあるいたところ。橙の破線で示したところに砂岩(?)の層が露出しており(満潮時は海の中),そこで外洋と内湾が分かれる。イシアナジャコは,内湾の泥干潟で採集される。スナモグリは,内湾(inlet)と外洋(Pacific Ocean)の両方の海岸で採集される。外洋に面する海岸は崖になっており,海岸には石や岩がいっぱい落ちている。崖の上にはいつ落ちてもおかしくない石や岩が,落下を待っている。外洋に面する海岸と内湾沿いの海岸は,どちらもサンゴ礁原(reef flat)である。この辺りのサンゴ礁原には,泥は少なく,陸上から流れ込む淡水の影響で死滅したサンゴ塊の上に波によってはこばれた砂の層が堆積している。死んだサンゴ塊には隙間がたくさんあり,その中に驚くほど多くの海産無脊椎動物が入り込んで生活している。サンゴ塊の中にすむアナエビは,ノミとトンカチを使ってサンゴ塊を割れば採集できるが,効率は極端に悪い。泥岩にはアナジャコがいる。

図 5.白浜への旧道。

図6.ウラジロガシ(?)の枝にとまるカンムリワシ。成鳥だろう。すぐ近くの林の中で何匹かカラスが盛んに鳴いていた。カンムリワシの食べ残したエサを漁っていたのだろうか?カンムリワシ自体は,近くにいるカラスに見向きもせず,じっと枝にとまっていたが,私が真下に行ったら飛んで逃げた。もう一匹のカンムリワシを見た池は,ここから300メートルほど行ったところにある。林内の景色は,50年間ずっと変わっていないように思われるが,私の錯覚だろうか?・・・ところで,カンムリワシは20年から30年ぐらいは生きそうな気がする。ひょっとしたらこの個体には過去に何度か会っているかもしれない。

図7.田んぼの一番奥にある池(砂防ダム)。水深は深いところで50cmほど。水面には数種類のトンボが待っていた。物語満載の生態系がある。特に夜に来たら面白いだろう。サキシマハブには絶対会えると思う。イリオモテヤマネコは警戒心が強いので,夜ですらめったに人前に姿を現すことはない。(西表島には20回やそこらは行ったと思うが,イリオモテヤマネコは1~2回しか見ていない。)リュウキュウヨシゴイやゴイサギも見られるだろう。少ないがホタルも飛んでいる。陸上にはツチボタルが,お尻を光らせながらあちこち歩きまわっているはずである。水の中には,オオヒライソガニがいる。オオヒライソガニは稚ガニで孵化するのだろうか?

図8.池から突き出た枝にとまるショウジョウトンボ。頭部から腹部まで真っ赤な色をしている(種名は不明)。2匹とまっている。水面には緑藻(アオミドロ?)が浮いている。ところで,アオミドロは真核生物なのはわかるが,単細胞生物なのか,それとも多細胞生物なのだろうか?顕微鏡で観察したことはないが,細胞が一列につながって「ひも状」になっていると想像される。形態からすると「ひも状ボルボックス」と言っていいかもしれない。もちろん維管束や根はないが,生殖細胞の分化(differentiation)はあるだろう。結論を言えば,どちらでもいいのだが,細胞が常時くっついているメリットがあるのだろうか?
池の水は見かけはきれいだが,日照りが続いた後には病原性のバクテリア(細菌)が爆発的に増えていることが多いので,泳がない方が良い。泳ぐとどうしても水を飲んでしまう。今年(2024)は,熊本県の滝つぼでノロウィルスが原因で多くの人たちが症状を訴えた。西表島ではレプトスピラ症という急性熱性疾患が発生する。

図9.美田良(みたら)から池(砂防ダム)までの間に見た昆虫類。西表島ではトンボが(他の種の?)トンボを捕えて食べている現場をよく見る。だいぶ前の話にはなるが,祖納鉄塔から車で20分ほど登ったところにあるNHKの電波中継所の敷地内で,雨の晩にサキシマハブがヘビ(同種か異種か不明)を飲み込んでいるところを目撃した。梅雨明けで暑い日が続き,チョウは翅を閉じている個体が多かった。今年はチョウの種類数,個体数は非常に少なかった。2024年6月29日撮影。

図10.池ポチャをしたカンムリワシ。幼鳥ではなく親だと思われる。池の岸でトンボを撮影していて,後ろを振り返ると水に浮いていた。水に落ちた音は聞こえなかったので,私が池に行ったときには,すでに草むらの近くに浮いていたのだろう。私は10メートルほど離れた川岸にいたのだが,全然逃げる様子もなく平然と水に浮かんでいた。西表島のカンムリワシは全然人を恐れていない。目はどこかにフォーカスがあっているのだろうか?それとも,目はちょっとうつろに 「ウム,いい感じの冷たさだ・・・」と思っているのだろうか?池の水は淀んでいるところでは,少し濁っているように見える。泥(シルトやクレイ)が混じっているのだろう。西表島ではレプトスピラ症(病原性細菌)が発生するが,野鳥は大丈夫なのだろうか?多分水はいっぱい飲んでいるはずである。消化管内で細菌の増殖を防ぐ機構が備わっているのだろう。梅雨明け(6月15日ごろ)から2週間ほど日照りが続いているので,池の中にはレプトスピラやノロウィルスが増えていると思われる。

図11.池の中をクロールで泳ぐカンムリワシ。…と言いたいところだが,翼を広げたままパタパタやっている感じである。足で水をかいているのだろう。鳥の後方に波が立っているので,泳いでいることがわかる。撮影する角度にもよるが,池の水は結構濁っている。濁っているということは,水中にシルトとかクレイという粒度の細かい泥がたくさん含まれていることを意味する。なお,クレイ(clay)の粒径は0.04 mm(40 µm)以下,シルト(silt)の粒径は0.04 mm(40 µm)から0.62 mm(620 µm)までの範囲。クレイとシルトを合わせて泥(mud)と呼ぶ。(ちなみに,粒径が0.62 mmから2 mmまでを砂(sand),2 mm以上を砂利(gravel)と呼んでいる。)泥の粒子には(相対的に)多くの有機物がくっつく性質がある(aggregation)。有機物の濃度が高ければ,それだけ多くのバクテリア(細菌)が増殖するだろう。雨が降らない日が続けば,滝の水たまり場では病原性バクテリアの濃度が一気に上昇する。その水を飲めば,西表島ではレプトスピラ症に罹る可能性が高まる。

図12.砂防ダムの上を歩くカンムリワシ。 西表島では,過去にどれぐらいレプトスピラ症が発生したのか,記録はないだろう。砂防ダムの下には水田が広がっている。ダムの周辺が整備されたのは戦後であるが,北側にある水田は戦前からあっただろう。美田良の水田は,西表島では最も機械化が進んでいると思う。田んぼは,古くは祖納や干立の周辺にもあったが,現在ではすべて耕作放棄地になっている。熱帯から亜熱帯の地域では,田んぼの畔は草抜きを怠ると草茫々のジャングルに変化する。古い時代には,ごく小規模の水田を各家で持ち,手作業で耕作を行ってきたのだろう。田んぼの周囲の水たまりでは,レプトスピラやノロウィルスの発生はあっただろう。しかし,何よりも恐ろしいのは,マラリアを媒介するハマダラカの大量発生だった。戦後衛生管理が行き届くようになり,ハマダラカの急激な減少とともにマラリアも根絶された。レプトスピラやノロウィルスの根絶は不可能なので,せめてもの防衛策は,日照りが続いた時には滝つぼで泳がないことだろう。

図13.ダム(高さ1 m)の上を歩くカンムリワシ。野生動物もレストスピラやノロウィルスに感染することは多いだろう。実際に病原性の細菌や寄生虫(原生生物や扁形動物が多い)に感染し,命を落とす個体がどれだけいるのか不明である。感染症が疑われる場合には抗生物質の投与が必要になる。外傷の場合には,表面の傷は浅くても,骨折していることがある。野鳥の骨は細くて軽く,少しの衝撃でも折れやすい。骨折した場合には,元通りにはならないように思われる。野生生物の場合には,病気になったり傷を受けたりするとすぐに捕食者の餌食になる。人間のようにしばらく安静に・・・ということができない。だから修復機能は低いに違いない。

図 14.ダムの上で体を乾かすカンムリワシ。

図15.やっと私の方を向いてくれたカンムリワシ。私の予想では,この個体はこの池を頻繁に訪れて水浴びをしていると思う。こんなにたくさんの羽があったのでは,夏は暑くてかなわないだろう。今年(2024)は,西表島には6月21日から7月1日の午前中まで滞在した(6月30日は鳩間島に行った)。梅雨明けの後で,快晴の日が続いた。日中は,直射日光の当たる場所では気温は35°を越えていたに違いない。多くの野生生物は,日陰の林内に退避していた。チョウは,普通は翅(はね)を開いて止まる種類でも,林内に入り,翅を閉じて吸蜜している個体が多かった。ヒヨドリも,多くは林内で活動していた。カンムリワシも,酷暑の日には林内の枝にとまっているのだろう。野鳥は,もともと水浴びが好きな種類が多そうだ。自分の部屋に居候しているブッポウソウの「ぴよ吉」も,水鉄砲を打ったり,霧吹きをかけたりすると,大喜びして(?)ゲコゲコと首を強く振って鳴く。水鉄砲で水を飛ばして遊んでやると,私にまとわりついて挑戦を仕掛けてくる。

図16.池の土手から飛び立つ寸前のカンムリワシ。ダムの上に上がってから5分ほどじっとしていた。羽がだいぶ乾いたところで,ペアの片方(図6)がいる方向に飛んで行った。変な言い方になるが,美田良ぐらい水田の開発が進むと,亜熱帯の自然がよく観察できる。原生林やジャングルもいいが,歩くのが必死になって落ち着いて生物を観察できない。ジャングル状態の林内では,危険な生物を見つけるのに時間がかかる。いずれにしても,長袖・長ズボン・長靴は必需品。

図17. 池の近くにあった植物。肌色の部分は花弁(花びら)の名残なのか?緑色の提灯は「がく」なのだろうか?道路脇にあるハスノハギリ(広葉樹)の実にも似たような構造が見られる。実が硬くなるまで提灯に入れて保護するということだろうか? 植物の場合には種類を調べて見ると,よく知られた種類の近縁種だったりする。私にとっては謎だらけの植物であるだけに,物語性は高い。美田良の田んぼは,雑草が比較的少ないので,水生植物と水生動物の観察には適したところだと思う。耕作放棄地になると動植物の観察よりも自分の身の安全を確保する方が優先される。

図18. ヒナイ大橋。大きな面積のヒナイ湾の中央にかけられた橋。全長1 km。橋の中央から,西側を撮影した。道なりに行けば5分で船浦に着く。三叉路を左折して300mも行けば熱研に着く。写真では電柱間の距離が短く見えているが,実際には結構間が開いている。ズームレンズを使うと,ドップラー効果(こちらは音)と似た感じの画像が得られる。向かって右側は海岸,左側は内湾(ヒナイ湾)になっている。内湾の方はヘドロ(軟泥層)が堆積し,湾の中央部では50 cmほどの厚さに達している。ヒナイ湾には大小6つほどの川が流れ込んでいる。大きいのはヒナイ川と西田川。どちらも上流には滝がある。滝を落ちる水量は,短期間に大きく変動する。川の水量が非常に少ないときに滝つぼで遊び,その際に水を飲んだのだろう。細菌が消化管に入ってレストスピラ症が発生したのではないだろうか?

図19.ヒナイ大橋の海側の海岸。ここは,私が「船浦海岸」と名付けた研究場所である。 大潮の干潮時には,割と広い範囲にわたって泥岩(mudstone)が露出する。泥岩の中には,何種類かのイシアナジャコの巣穴がある。岸の近くでは採集は容易だが,ちょっと離れると途端に難しくなる。泥岩の硬さが異なるせいだろう。アナジャコ類の分類で一番大きな問題は,熱帯の島々で生じた種内変異(intraspecific variation)のクレードが,黒潮に乗って琉球列島に流れ着いていることにある。ちょっとした形態の違いで,すぐに新種とか別種と言い出す人たちがいる。ヒトで言えば,黒人,黄色人,白人は種レベルの違いと思う人たちがいる。つまり,現代人には,黒人,黄色人,白人という別種が存在するという主張だが,私はそうは思わない。分子系統解析や比較系統学的解析を行うと,種レベルの違いはなく,いくつかの遺伝子型が混じった個体群(クレード)の可能性が強く示唆される。クレード間には生殖隔離はないだろう。黒人,黄色人,白人というのは,肌の色の発現に関する遺伝子をどれだけ多く持つかで決まる形態的変異(morphogenetic variation)だと思う。肌を黒くする遺伝子を多く持っていれば黒人になる可能性が高いが,肌の黒さの程度は地域によっても大きく異なる。肌色の違う黄色人や白人との生殖隔離はなく,普通に混血の人が誕生する。肌の色は,メラニン合成が高い人から合成量の少ない人まで大きなバリエーションが見られるだろう。オーストラリアに住むアポリジニや大陸の先住民族ももちろん新人(Homo sapiens)である。

図20.上原にある食堂「たまご」の花壇で見かけたカバマダラ。西表島ではスジグロカバマダラは普通に見かけるが,カバマダラは非常に少ない。とっくに絶滅していると思っていたが,身近なところ(上原)で見られてびっくりした。カバマダラでは,いくらか物語を作れる感じがするが,話題性には乏しいだろう。

図21.宿泊棟で行われた小規模の灯火採集。 熱研の宿泊棟が作られてからもう30年は経つだろう。宿泊棟は,小山を削って平らな地面の上に建てられた。同時に裏山の木も伐採された。宿泊棟の周囲には,電灯がともり,しとしと雨の降る晩には灯火に多数の昆虫が誘引された。ヒラタクワガタやイシガキコガネなどは,一晩に何十匹と飛来した。そのころの標本をまだ持っている。廃棄処分にならないうちに,灯火に飛来する昆虫類に関しても記事を作りたい。2024年6月29日。

<原稿作成の基礎情報>
・使用したカメラ:SONY RX10Ⅲ(一部の写真はCANON EOS7Dで撮影)。
・撮影者と記事の執筆者:三枝誠行(生物多様性研究・教育プロジェクト,常任理事)。
・調査の協力者:近澤峰男。(SONY RX10Ⅲは近澤さんがお使いになっていたカメラ。2019年春には,病気が進行してフィールドには出られないと判断されたのだろう。2019年4月にご家族の運転する車きで吉備中央町に来られ,これを使えと貸してくださった。その時には片手に酸素ボンベを持っておられた。)
・利用した研究施設:琉球大学熱帯生物圏研究センター西表研究施設。略して琉大熱研。

<参考文献>
・東清二・堀繁久(1996)沖縄昆虫野外観察図鑑。沖縄出版。ISBN-10: ‎4900668621.
・京浜昆虫同好会(編)(1973)新しい昆虫採集案内(Ⅲ)‒離島・沖縄採集地案内編‒。内田老鶴圃新社。
・小島圭三・林匡夫(1969)原色日本昆虫生態図鑑Ⅰカミキリ編。保育社。
・周文一(2008)台灣天牛圖鑑。貓頭鷹出版。
・菊池俊英(1982)人間の生物学。理工学社。
・コルバート, E.H. (田隅本生訳)1978. 新版脊椎動物の進化(上巻と下巻)築地書館。
・池田嘉平・稲葉明彦(1971)日本動物解剖図説。森北出版。
・厚生労働省関西空港検疫所: レプトスピラ症(ワイル病)(https://www.forth.go.jp/keneki/kanku/disease/dis09_06lep.html)
Patterson, C. (1999) Evolution; 2nd edition. Comstock Pub. Assoc. ISBN-10: ‎ 0801485940.
・Whittaker, R.J. (1998) Island Biogeography: Ecology, Evolution, and Conservation. Oxford University Press. Oxford.

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