令和4年(2022)ブッポウソウ情報 No 34:ヒシの生えるため池とチョウトンボ

令和4年(2022)8月22日(月)

 吉備中央町の案田(あんだ)は,国道429号を挟んで湯武(ゆぶ)の向かい側にある。案田も湯武ほどではないが,ブッポウソウの繁殖成績が悪かった。原因は,A-20の巣箱の近くの家の人が,ブッポウソウが入れない巣箱を設置したことである。そのペアが近くの巣箱で卵を持ち出して繁殖できなくした可能性がある。

 8月19日には,上田東から松尾神社の横の道を抜けて,湯武と案田の状況を見て回った。今年(2022)ブッポウソウは,巣立ちが終わってから早いうちに渡りに入ったようだ。8月19日ともなると,ブッポウソウの姿はおろか,鳴き声さえも聞くことができなかった。しかし,まだ渡りが済んだという確証がないため,1日おきに上田東から案田,下土井方面の調査を継続している。

図1.ヒシの生える溜池(15m四方)。吉備中央町案田(あんだ)にある。8月19日。トンボは6種類確認した。

 E-05の巣箱周辺を見るために,案田の集落に入ったところに小さなため池があった(図1)。大きさは15m四方(15m×15m)程度。池の水は上から流れ込んだ泥のために濁っていた。濁りの程度は,外観で判断すると,里山にある大小さまざまなため池でよく似ていた。

 このため池(図1)の周囲にはヨシが生え,水面にはヒシが群生していた。池の右側は雑木林,左側の斜面はクズが生い茂っていた。どちら側も手入れをしていないので,荒れ放題という状態であった。図1の左側(写っていない)には,農家が1軒あり,ため池とその周囲の土地の管理は,この農家が行ってきたのかと思う。この農家はすでに空き家になっている。

 このため池(図1)では,チョウトンボの姿が目立っていた。池全体を見渡すと10匹ぐらいは飛んでいたように思う。ヒシや水面の上を飛び,2匹が出会うと急に速度を上げくるくると絡まって上昇する。しばらくするとまた降りてきて飛行する行動を繰り返していた。

 ブッポウソウが飛んでいるときには,背景は空(sky)になることが多いので,連写機能を持ったカメラを使えば,飛んでいる姿を撮影するのは割と容易である。ただし,高速でシャッターを切る必要がある。一方,トンボの飛翔を撮影する場合には,トンボの下にあるヒシとか水面にピントが持って行かれるので,トンボ本体には合いにくい。フォーカス・エリアを広域(wide)にして,ヒシのあたりにフォーカスを合わせ,あらかじめシャッターを半押しする。トンボが来たらシャッタボタンを押せば,少しばかり躍動的な写真が撮れる(図2)。

図2.ヒシの上を飛ぶチョウトンボ。撮影はSONY RX10Ⅲ。飛んでいるトンボは撮影しにくいが,どこか1か所(特に頭部)にピントが合えば,他の部分はボケても躍動感(vigorous action)は出る。シャッター・スピードをさらに上げれば(例えば500分の一秒)静止画に近い写真が撮れるが,1秒間に3~5シーンの連写ができる機材が必要。

図3.ヨシの茎にとまるチョウトンボ。止まっているトンボは楽に撮影できるが,背景がいまいちだ。SONY RX10Ⅲ。

図4.産卵するショウジョウトンボのメス。ウスバキトンボではないと思う。撮影はSONY RX10Ⅲ。

 図2の飛翔中のトンボにはまだ躍動感が不足している。ピントも頭部には合っておらず,写真を見ていてちょっとイライラする。一方,図3ではピントは胴体にあっているが,焦点深度(focal depth)が浅く,できばえはいまいちである。しかも,背景にある植物の緑の主張が強すぎて,トンボの存在感を減少させている。

 図4は,ショウジョウトンボのメスの産卵シーン。なぜショウジョウトンボかと言うと,オスが同じ池(図1)にいたからである(図5)。しかし,オスの方は完全にピンボケ。カメラのフォーカスが,トンボの方ではなくヒシの方を拾ってしまった。

 8月19日には,トンボは全部で6種類確認できた。チョウトンボが一番多く(図2と図3),次いでシオカラトンボ(図なし),ショウジョウトンボのメス(図4)とオス(図5),イトトンボ2種(キイトンボとセスジイトトンボ),それにギンヤンマ(図6)である。なお,セスジイトトンボについては種名はわからない。

 トンボの他には,コシアカツバメが時々やってきて水を摂取していた。水生昆虫の成虫は発生しているようには見えなかったので,エサ取りではないと思われた。

 ブッポウソウのエサになりそうなのはギンヤンマとシオカラトンボのみだろう。

図5.ショウジョウトンボのオス。ピントはトンボではなく,ヒシの方に合っている。

 ため池の昆虫類を撮影するには,SONY RX10Ⅲは適している。近澤さんは,お亡くなりになった年(2019)の4月に,賀陽道の駅まで持ってきていただき,これを使えとおっしゃった。SONY RX10Ⅲは,2mから30mの距離にいる動物ならば,非常にきれいな写真が撮れる。連写機能もあるので,自分に向かって威かく攻撃を仕掛けてくるブッポウソウの撮影には向いているカメラだと思う。ただし,SONY RX10Ⅲは中古でもかなりの値段になる。最近は,ソニー Cyber Shot DSC-RX100の中古が多く出回っている。値段は3万円前後で,飛翔するトンボの撮影に使えるかもしれない。(実際に試したことはないので,本当に使えるかは不明。)

 その他に,Canon EOS7Dの初期の機種は,中古が2万5千円から3万円で購入できる。これにTamronやSigmaのズームレンズ(値段いろいろ)を付けても(要アダプター;2, 000円程度)飛翔生物に対応できるかもしれない(これも本当に使えるか試していない。)今手元にあるCanon Power Shot S-95は,連写機能が1秒間に2回程度で,しかもピント合わせが難しいので,飛翔体の撮影には向かない。ビデオカメラとして動画を撮影するには,使えるだろう。

 飛翔体や運動体を撮影するのは,ブッポウソウの撮影に一喜一憂しているじいさん達の趣味ではないらしい。ブッポウソウの威かく飛翔は,近澤さん以外撮影した人は見たことがない。

 じいさんたちは,自由に動いている物体を撮影することにはおよそ興味がなさそうである。自称優れた写真家と,自称高度な専門性を有する人たちには,共通した特徴がある。いろんなことに著しく造詣が深いような話をするが,実際には自分がやっていること以外には興味がない点である。そういう方々に気軽に教えを乞うと,思考する神経回路の数がうんと減ってしまい,目まぐるしく変化する現代科学の世界に対応できなくなる。よくよく注意されたい。今はインターネットが発達しているので,高校までに学んだ知識をフルに活用して,自分の頭で考えて,動物の特性に合う撮影システムや録画システムを構築することが大事だろう。

図6.池の上を飛ぶギンヤンマ。これ以上よい写真を撮ることは,当日の状況からして不可能であった。 

 このため池(図7)の底には,いわゆる「ヘドロ」が堆積しているだろう。「ヘドロ」は英語ではsludgeが対応すると思われるが,教科書に出てくる用語ではない。教科書では,軟泥層(soft substrateとかmuddy layerという方が多いように思う。いずれにせよ,ヘドロはいわゆる還元層(reduction layer)ではなく,(還元化が進行すると生成する硫化物のために色が黒くなって,すごい匂いがする)酸素濃度がゼロの状態になった土壌ということのようだ。田んぼのぬたぬたした泥を想像すればよい。

 こういう環境には,破傷風菌のような嫌気性細菌(anaerobic bacteria)が生息しており,酸素の行き届く層には好気性の細菌(aerobic bacteria)がいる。食中毒を起こす腸管出血性大腸菌のO157は,好気性のバクテリアだろう(厚生労働省「腸管出血性大腸菌Q&A」インターネット)。ため池にはいないが,草むらに動物の死骸などがあれば増殖する可能性はある。

 ため池と言っても,上の方から絶えず新鮮な淡水が流入しているので,換水は十分できていると思う。ため池で泳いでも,感染症にかかる可能性は低いが,ヘドロがどの程度堆積しているか不明である。底なし沼という可能性もある。

 池の水が茶色く濁るのは,水中を浮遊する泥の微粒子のせいである。泥の微粒子には水中を漂っている有機物(動物プランクトンや植物プランクトンの死骸の分解途中の産物,それに陸上から流入する動植物の死骸の分解途中の産物)が付着しやすい。そのため,泥が流れ込んでいるため池では,富栄養化が進んでいる。泥の流入と富栄養化の産物がヘドロとして堆積する。

図7. ため池の近くにある枯れ木(クリかネム)。近くに巣箱が合ったらきっとブッポウソウがとまる枯れ木。2匹いっぺんに見られるかも。池の向こう岸は手入れがされていないので,雑草の繁殖がすごい。

 嫌気性細菌にしても好気性細菌にしても,大きさは10µm(ミクロン)以下なので,光学顕微鏡で観察することはできない。真核生物である原生生物界(Protista)であれば,小さい種類は20~30ミクロンぐらい,大きくなれば100ミクロンはあるだろう。このサイズになれば,光学顕微鏡でも観察できる。ゾウリムシだと100倍,ミドリムシだと400倍の対物レンズがあれば生きている姿を捉えることができる。

 池の中には多くの種類の原生生物(植物プランクトンや動物プランクトン)がいる。原生生物の持つ色と形の美しさには,目を見張るものがある。・・・が,私が何を言おうと,世間にはこんな生物(プランクトン)に関心を持つ人はまずいない。トンボですら関心を持つ人は少ないのだから,原生生物に興味を示す人はさらに少ないだろう。

 池や田んぼには,多くの水生昆虫がすむ。トンボも水生昆虫の仲間に入る。扁形動物のウズムシや吸虫類,ヒモムシの仲間,コケムシ,それに袋型動物門(Phylum Aschelminthes)に属するワムシの仲間(7つの綱(Class)に区分される)も見られるだろう。いずれも光学顕微鏡で観察できるが,写真を撮るには動きを止めなければならない。エタノールとかホルマリンとかの薬品が使われる(ごく微量でよい)が,動きが止まった途端に縮んでしまったなどということはよくある。撮影には難儀をすると思う。

 扁形動物,ヒモムシ,コケムシ,それに袋型動物は,無脊椎動物(invertebrate)に属する。無脊椎動物の進化の段階ということで言えば,比較的原始的な部類に入る。これらの動物の祖先は,先カンブリア紀に起源を持つだろう。先カンブリア紀には,袋型動物門は多くの綱があったかもしれない。古生代・中生代と年月を重ねるうちに多くが絶滅し,現在(新生代)は7つの綱だけが残った可能性がある。しかし今のところそれを実証する手段がない。

 現在地球上に反映している無脊椎動物は,軟体動物(イカやタコ)と節足動物(エビ・カニや昆虫類)である。それに,節足動物の起源になったかもしれない環形動物(ミミズやゴカイ)がいる。環形動物の起源はよくわかっていないと思うが,おそらく袋型動物に属する動物群(綱)のどれかから進化したと推察される。

 節足動物は,環形動物を経由して進化したか,あるいは環形動物に近い袋型動物のどれかから進化したか,まだ決着はついていないと思う。軟体動物は,前は環形動物から進化したと言われたが,現在では袋型動物群に起源を持つ(つまり体節を持つ方向に進化したグループと多少の接点を持つ袋型動物のグループがあったと考える)という見方になっていると思う。

 なお,袋型動物群は,系統関係が明確になっていない7つのグループの寄せ集めであることに注意されたい。これらのグループは遺伝的にも大きな違いがあり,しかも絶滅した多くのグループがあると予想される。系統関係を確立するまでにはまだ時間がかかるに違いない。

 ため池(図7)の話に戻る。ブッポウソウとため池は縁が深い。池の脇に巣箱があれば,ブッポウソウのペアは必ずといってよいほど枯れ木(図7)にとまるだろう。図7に示した場所も,多様性プロジェクト指定の「ため池研究フィールド」(Research field for farm ponds in the woodland)とか名前を付けて,近くの住人に認知してもらうのはどうだろうか?ブッポウソウを含めてため池の研究(里山の環境保全)をしたいと言えば,地元の人たちはきっと喜ぶ。

 しかし,ついでに草刈りをやってくれと言われるだろう。残念ながら,私にその余力はない。立派な計画も,いつもそんな所でとん挫する。

<参考文献>

  • 石原勝敏・庄野邦彦:他13名(2007)新版生物Ⅱ(新訂版)実教出版。
  • Nybakken, J.W. (2001) Marine Biology. Benjamin Cummings. San Francisco, CA.
  • Ferl, R.J.・Wallace, R.A・Sanders, G.P. (1996) Biology. Harper Collins College Publishers, New York.
  • 山田真弓・西田誠・丸山工作(1981)進化系統学。裳華房。

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