令和4年(2022)5月15日(日)
巣箱ミカサを設置したのは,4月16日ごろだったと思う。吉備中央町ブッポウソウ会の会員4名のご協力により,吉備中央町の豊岡に電柱を立て,それに巣箱を設置した。巣箱の名前は,ミカサ。豊岡は平地の面積が広い。春には多くの種類の木や草の花が咲き,今は田植えの最盛期である。豊岡の春と初夏の田園風景は本当に美しい。
図1.ミカサの巣箱はすぐにブッポウソウに利用された。入り口から頭を出して外を伺っているのはメス。こういう格好は,「すでに私たちが巣箱を使っているよ。」というサインでもある。5月23日から24日から産卵が始まるだろう。この巣箱では,卵は5つ産まれることが予想される。下の巣箱(A-05)には,シジュウカラが卵を温めている。
ミカサを設置してからすぐにシジュウカラが入って産卵した。しかし,もうあちこちでブッポウソウの鳴き声が聞こえる。ミカサの前にある桐の木の枝にもブッポウソウが来ている(図1と図2)。シジュウカラのヒナはふ化しても,ブッポウソウは親をけ散らして巣箱に入り込む。そして自分の産卵床を整えるために,シジュウカラの巣を踏み荒らす。シジュウカラの卵があれば,つついて割るか,くちばしに挟んで巣箱の外に捨てる。ヒナがいれば,くちばしでつつき殺すか,くちばしでくわえて外に捨ててしまう。シジュウカラの親は,巣箱の外でシャカ・シャカ・シャカという警戒音を発しながらも,ブッポウソウの横暴ぶりを近くでじっと見ているだけで,ブッポウソウにつっかかって行くことさえできない。そんな光景がビデオカメラに記録されていると,やるせない気持ちになる。
シジュウカラの巣を何としても救えないか?・・・思案の結果,ミカサの下にもうひとつ巣箱をつけてその中にシジュウカラの巣を,ヒナや卵ごと移転することにした(図1)。親はすぐにミカサから下の巣箱(A-05)に移って子育てを継続した。
図2.キリの枝にとまるブッポウソウ。撮影者(私)が来たので,巣箱から出て近くの木の枝にとまっているメスと思われる。オスは森の中のどこかで,巣箱を見ていると思う。ミカサで子育てをするブッポウソウの姿は,周囲の景色に溶け込んで,すごくいい写真が撮れるだろう。写真家の方々はどうか知らないが,ブッポウソウの個体だけでなく,周囲の自然環境の「質」を重視する私にとっては,絵になる風景だと思う。撮影:SONY RX10Ⅲ。
巣の移動作戦の第1段階は,うまく行った。第2段階は,果たしてブッポウソウが空になった(と言っても,巣材は新しく追加した。)巣箱の方に入って産卵するかどうかだ。5月11日(水)にミカサを見に行って,巣箱の中から頭を出して外をのぞいているメスを発見したときに(図1),本作戦の第2段階もうまくクリアできたことを確信した。シジュウカラは巣箱の中で,抱卵(卵温め)を継続していた(図3)。次に下の巣箱(A-05)を見るときには,ふ化したヒナが口を開けてエサを待っているシーンが見られるはずだ。
図3.ミカサのすぐ下にある巣箱(A-05)の中で卵を温めるシジュウカラのメス。親は卵の温め中は,カメラが入るとしっぽの羽をパツと広げて「シャー・・・シャー・・・」という音を周期的に発する。シジュウカラのできる数少ない威嚇行動である。シャーというのは鳴き声ではなく,羽を広げるときに羽がこすれて出る音だろう。なお,写真の中の赤い色は巣材として運んできた綿で,ヒナの死骸ではない。
さてと・・・,峰ピョン谷のシジュウカラの方はどうなったか?こちらは一度現れたブッポウソウのオスがいなくなってしまったこともあって,子育てが進んでいた(図4)。和中の谷では,生まれた11コだったか12コだったかの卵は全部ふ化した。そして5月13日には全部巣立った。
和中の谷は,シジュウカラのエサになる昆虫がたくさん発生している。シジュウカラにとっては好適な子育て環境が整っているのだろう。
野鳥には,子育てに好適な環境を認識する(cognize)能力があるのではないか?好適な環境であればできるだけたくさんの卵を産んでも,エサ運びに関係する親のエフォート(effort)はそんなに高くならずに子育てができるはずだ。一方,あまり好適ではない環境だと,たくさん卵を産んでしまった場合にはエサの探索(foraging)に時間がかかり,親には過剰な負担がかかる。つまり親の方に多大なeffortが要求される。エサが少ない環境では,少ない数の卵を生産し,過剰なeffortにならぬように子育てをしているように思える。野鳥は,脊椎動物の中でも発達した大脳と小脳を持つ。野鳥には,エサの発生量を認識できる能力が備わっているように思えて仕方がない。
だが,渡り鳥であるブッポウソウの場合には大きな問題が立ちはだかっている。渡り先の繁殖地でよい営巣場所(巣箱)を確保しないと繁殖ができないことである。つまり,営巣場所をめぐる種内の強い競争があるのは間違いない。ブッポウソウはこの問題に対してどう対応しているのであろうか?
図4.巣立ち間近のシジュウカラのヒナ。11匹はいると思う。左上にいるのは親ではなく,巣からはみ出してうろうろしているヒナ。ビデオカメラの記録を見ると,このヒナはかなり前から巣外にいる。もし巣が箱の中ではなく,木の窪みにあったとしたら,とっくに落ちて野生動物の餌食になっていただろう。