ブッポウソウ総合情報センター速報 (No. 51)

令和3年(2021)8月12日(木)

美誠ちゃん,今日は中山さん宅の近くの電線にとまっていた。

総合情報センター速報No. 48で,中山良二さん宅で保護していたブッポウソウの幼鳥(美誠ちゃん)が,逃亡したことを報告した。その後どうなるのか注目していた。

中山さんらの連絡によれば,家の近くに入るが,何百メートルか離れた巣箱(横山様)にいるオスと交信しているということだったので,横山様で育った幼鳥といっしょに旅立つ可能性が高いと予想したが,少し外れたようだ。

8月12日(木)に中山さんに電話してその後の状況を尋ねたところ,電線にとまっていて山の方に飛んでいったとのこと。中山さんの家の前の巣箱で育った個体も同じ方向に飛んで行くとのことで,中山さん一家の方になじんだのかもしれない。

8月12日に電線にとまっていたのは,ひょっとしてお別れのあいさつに来た可能性がある。

ブッポウソウの一家は,旅立つときには,巣箱やすぐ近くの人にあいさつに来る。去年(2020),ちょうど今頃だったか,調査から戻ってくるときに,偶然に峰ピョン谷の一家(全部で6匹)が,旅立ってゆくところに遭遇した。軽トラの近くをブッポウソウの集団が移動しているのが見えて,写真を撮ろうと窓を開けると,幼鳥が次から次へと私の顔を見に来た。(写真は撮れず。)幼鳥はすごくはしゃいでいて,まるで一家でどこかにピクニックに行くような光景だった。

ブッポウソウに関心のあるじいさんたちは,こんなシーンに遭遇したら涙するに違いない。

で,これ終わりと思いきや,次の日だったか,その次の日だったか,試しに「ケッ・・・ケッ・・・と叫んでみたら,なんと林間から同じ反応があるではないか。幼鳥全部ではないが,峰ピョン谷に戻ってきたのだろう。親も一匹ついてきて,完全に2匹がいなくなったのは,8月20日ごろだったと思う。今年(2021)も,8月13日現在,親と子が峰ピョン谷にいる。幼鳥は鳴いていないが,親は巣箱の上をトビが通りかかった時にゲッ・ゲッと強く鳴いた。

家の近くに巣箱がある方々は,ブッポウソウが南に去る前にあいさつに来ると口々に仰っている。自分の育った場所を覚えるために,何度も巣箱に戻っては確認しているのだろう。  人と巣箱は同じではないけれども,場所を記憶する対象として,巣箱とともに人も含まれるのではなかろうか(図1)。

図1.正真正銘のブッポウソウの親子。令和2年(2020)7月27日,峰ピョン谷にて。昨年(2020)は,近澤さんがお持ちのCanon 600mmレンズは,まだお借りしていなかった。この写真は,近澤峰男さんが亡くなる前に私にこれを使えと, 吉備中央町まで持ってきていただいたカメラ(SONY, RX 10Ⅲ)で撮影された。その時,近澤さんは片手に酸素ボンベを持っていた。もう肺からの出血が止まらない状態になっていると言われた。その後2か月して亡くなられた。自分では,近澤さんが私にfusionしたと思っている。写真は,上にいるのが幼鳥,下にいるのが親。くちばしの色から親はオスと思われる。

人とブッポウソウのコミュニケーションは,成り立つように思える。どの程度のコミュニケーションまで可能かは,今後明らかにされるだろう。ブッポウソウと同様,人とスズメ,人とカラス,人と鷹はコミュニケーションが可能である。一方.人とニワトリはちょっと難しい。最悪のコミュニケーションは,人と七面鳥だろうか。せっかく手間暇かけて育てたのに,繁殖期になれば手当たり次第につつかれ,ボコボコにされる(NHKの番組で見た)。

ブッポウソウが生きがいになっている地元のじいさん・ばあさんは多い。人とのコミュニケーションが可能なれば,毎年繁殖地に訪れるブッポウソウは,地元の人たちに数多くのドラマを残してくれるだろう(図2)。そのドラマを集めて研究と教育に大いに利用することができる。

人に愛される性質をうまく利用して個体数を増やしているブッポウソウの繁殖戦略は優れものである。でも,私はブッポウソウの見た目の美しさには騙されないようにしたい。

図2.林間の木の枝にとまるブッポウソウの幼鳥(中央)。
あまりきれいに写っていない。2021年7月21日。

昆虫類,特に甲虫類は季節が進むにつれて大型になってくる。4月下旬にはセンチコガネやシデムシ,ツチハンミョウなどが活動を始めるが,これは全部親のエサになるのだろう。

5月10日前後からコアオハナムグリやクロハナムグリが発生し,求愛給餌によく使われている。同じ時期にジョウカイやベニカミキリが発生し,オオデマリやピラカンサの花にたくさん来ているが,ブッポウソウはこれらの甲虫は食べない。6月に入れば,田んぼや畑の畔のイタドリの葉には,いっぱいマメコガネがついている。夕暮れには,ドウガネブイブイやクロコガネが飛んでいる。

6月中旬から大型の昆虫類が増える。よく目につくのがコオニヤンマで,これはブッポウソウのヒナの重要なエサになる。カミキリムシでは,ゴマフカミキリなど中型の種類が多くなる。6月中旬からは,コクワガタ,ヒラタクワガタ,アカアシクワガタ,ミヤマクワガタ,ノコギリクワガタが樹液に来るが,今年(2021)はミヤマクワガタを一匹も見ていない。

図3.近くにいる巣立った幼鳥にエサを運んできた親。こちらはメスのようだ。画像をさらに拡大してみたところ,運んできたエサはクワカミキリと思われた。カメラは三脚に固定して撮影していると思う。距離30mぐらい。2020年7月27日,峰ピョン谷で撮影。

7月に入ると,ブッポウソウの親はニイニイゼミ,ヒグラシ,カナブン,ノコギリカミキリ,ウバタマコメツキ,タマムシ,オニヤンマをよく捕まえてくるが,ヒナが成長する盛りにこうした大型昆虫を捕まえてくるとエサやりの効率性は高まるだろう(図3)。

8月は,アブラゼミや場所によってはクマゼミを捕まえてくるが,カタツムリと同様に,ヒナの口には入らず,巣箱の中でヒナが出したフンの上に転がっていることが多い。また,8月に入ると,腹部がなく,頭胸部のみ路上に転がっているクワガタムシやカブトムシをよく見かける。これはブッポウソウの仕業ではなく,アオバズクがやったことではなかろうか。ブッポウソウがいない地域でもよく見られる。

ブッポウソウの子育ての中で一番問題となることは,ヒナが小さいうち(まだ眼が開かない6月中旬のころ)は,大型の甲虫類は食べられず,親が巣内でコオニヤンマをちぎってかみつぶし,ヒナに与えている。小さなエサでも親がかみ砕いてから(恐らく唾液といっしょに)ヒナに与えているようだ。この時期に親がエサを運んできて,エサの大きさに関わらず,入り口からポンと中に放り投げても,ヒナは受け取れないだろう。つまり,ヒナが小さいうち(眼が開くまで)は,メス親のケアが必要不可欠である。ヒナが小さいうちは,小さいエサをやればよいという問題ではなさそうである。私は,今までここをだいぶ誤解していた。

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