生物多様性研究・教育プロジェクト(研究と教育の原点を考える) VI. 進化生物学博物館 2024‒No. 4: 西表島マングローブのヨコヤアナジャコ               

2024年7月29日(月)

1.はじめに
 日本列島の河口域にできる泥干潟には,何種類かの「アナジャコ」と呼ばれる十脚甲殻類(decapods)が住んでいる。「じゃこ」はもともと漁師言葉で,里山とか里海のように,印象から発せられた単語(word)である。印象起源の言葉は,文学や芸術の世界では使い勝手が良いかもしれないが,数字(number)とか記号(symbol)起源の自然科学にはなじまない。初めから用語(term)にバイアスがかかるためである。例えばアナジャコだと,干潟の泥の中にごちゃごちゃいる二束三文の魚介類という印象が付きまとう。分類学(taxonomy)の分野では(日本語として)全く抵抗なしに使われている。

 私は,「あなじゃこ」と言う固有名詞の醸し出す違和感を強く感じていた。もっと適当な単語を使う方がよい,と日ごろから思っている。しかし,生物の呼び名は面白おかしい方がよいと思う人も多く,私の想いに同調する人はいない。

 アナジャコは,shrimp(コエビ類)でもなければprawn(クルマエビ類)でもない。またlobster(イセエビやウチワエビ)でもない。学名では「何とかgebia」と表記される。Gebiaはギリシャ語の神話に出てくるGeb(大地の神)から由来しているだろう。Upoはタガログ語(フィリッピン)の「ひょうたん」から由来するのではないか。なぜ「ひょうたん」かは,頭胸部の背面にある溝(前半がditch,後半がgroove)の形状を見ればわかる。幸いなことにUpoとgebiaのどちらも「じゃこ」ほどには,意味にバイアスがかかっていない。だから,Upogebiaは学術名称(分類学的には属(genus)の名称)としてふさわしいと思う。英語ではgebiidean decapodという表現がよいかもしれない。少なくとも私は,この呼び方を使って論文を書いて行きたい。この名称ならば分類学者に拒否されることはない。もともと19世紀の分類学者がつけた名前だから・・・。

 アナジャコ類の中に,和名がヨコヤアナジャコとついている種類がいる。ヨコヤアナジャコは,生息場所によって妙に体の大きさが違う。どうして2つの個体群の間でこんなに体の大きさが異なるのか,生活史の解析をすればその違いを明らかにできるのではないか?体長の小さい個体群の代表として,高知県春野町にある甲殿川(こうどのがわ)の河口を,体長の大きな個体群の代表として,広島県廿日市市(はつかいちし)を流れる佐方川(さかたがわ)の河口を選び,1年間にわたって両個体群の生活史を調べた。結果として両個体群の間には大きな違いがあることが分かり,体長の違いはそれぞれの河川の富栄養化の程度と関係すると予想された。

 一方,そのころ(多分2009年ごろ)大学院博士後期課程を修了し,就職を待っていた姜 奉廷さんは,佐方川と甲殿川の個体群の遺伝的違いに注目し,遺伝子解析の研究を開始した。私たちも姜さんの研究を推進すべく,琉球弧を含む日本列島の河口に生息するヨコヤアナジャコを採集した。

 本州の日本海側,瀬戸内海,四国は,私が中心となって採集を行い,九州は南里敬弘氏が中心なって採集した。なお,南里氏は博士号(理学博士)は取得したが,いまどこでどんな研究をしているか不明である。平野優理子さんと同じく音信不通である。都立工専の時に行った環境汚染物質のモニタリングを継続している感じがする。奄美大島を含む琉球列島については,2008年だったかと思うが,私と南里氏が共同で採集を行った。この時は春と夏の2回行った。

 姜さんは,国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産技術研究所(廿日市市)の所員であった浜口昌巳氏の研究室で,ヨコヤアナジャコの遺伝子解析を行った。確か2009年ではなかったかと思う。この年からブッポウソウの研究が始まったことと,基礎学力が著しく不足した学生の教育(マッチングプログラム・コース)で,マジで疲労困憊に陥った。平野さんと同じく,姜さんの方も十分に面倒を見られない期間が長く続き,両人には半端ない迷惑をかけたと思う。今ごろ謝っても,どうしようもないか・・・。

 DNAのシークエンスの結果,日本列島に分布するヨコヤアナジャコには,6つの遺伝子型があることが分かった。すなわち,ヨコヤアナジャコ地域個体群の中に種(species)レベルの違いに対応する6つのクレードがあることが示された。しかし,形態学的に見たときにも果たして種レベルの違いがあるかどうしても確かめてみたくなった。

 本州や四国の場合(A, E, F)には生活史のパターンの違いから種レベルの相違があるとみなせる。(Fについては調べていない。)一方,琉球列に分布する3つのクレード(B, C, D)の生活史を調べるのは難しい。しかし,遺伝子解析では大きな違いが見出されているのだから,それが形態の違いに反映されている可能性は高いだろう。

<顕微鏡撮影装置>
 生物を形態で見たときに,種レベルの違いがあるか判断するのは,分類学者の描くスケッチでは難しい。分類学者の考え方は宗教色が強く,「正しい」ヨコヤアナジャコがいると思っているのではなかろうか?だから自然科学の常とう手段である「比較」(comparison)をしようとしない。検証(verification)とは,所定の手続きに従って「正しい」ヨコヤアナジャコのスケッチをパブリッシュすることと思っている気がする。分類学者からすれば,私は生物学的に「正しい」人間ではないから当然スケッチの対象にはならない。

 私はスケッチよりも写真(photograph)に慣れ親しんできた。写真はアナジャコ類の種を判定するために重要な武器になるが,マクロレンズ程度だと役立たない。もう少し倍率の高い顕微鏡下で頭胸部の構造(structure)を比較する必要がある。そのために顕微鏡撮影システム(microscope imaging system)を導入した。

 顕微鏡が使われ始めたのは古いが,モニターで生物を見ながら撮影し,データ(画像)をパソコンに取り込めるようになったのは最近のことだろう。顕微鏡で生物を見ながらスケッチしたり,カメラのファインダーを覗いてフォーカスを合わせるのは,すごく根気のいる作業である。モニターを見ながらピント合わせができると,驚くほど撮影がスムーズにできる。

 大学や研究所に出入りする業者が推薦するシステムは,windowsやwordのバージョンがアップするとすぐにシステムが利用できなくなるというデメリットがある。しかも顕微鏡撮影システムは,研究機関に出入りする業者を通じて購入すると,150万円を割ることはないだろう。それが5年もすれば廃棄処分では,如何にももったいない。

 現在は,研究機器類を自作するというのは難しい時代だが,顕微鏡撮影システムは可能である。双眼実体顕微鏡は,ZEISSのStemi 2000という機種。どこかでもらってきた。(今では 5万円ぐらいで割と性能の良い機種をインターネットで購入できそう。)撮影鏡筒はCマウント。カメラはEOS 7D(CANON)を使った。カメラのキタムラで中古を購入(2.8万円)。EOS 7DのメリットはCanon Utilityというプログラムがwindows 7, 8, 10, 11のいずれのバージョンでも使えることである。パソコンもモニターもただでもらった。撮影鏡筒とEOS 7Dをつなぐ複数のアダプターを見つけるのに時間がかかったが,インターネットで検索し,1万円以内で買えたと思う。真ん中のアダプターは,家に置いてあった。以前に誰かが購入したのだろう。家には多種類のアダプターがあるので,パズルを解く要領で組み合せられる。照明装置(リングライト)は,ネット販売で3,500円ぐらい。

 自作すれば全部で10万円もしないで,半永久的に使用できるシステムを構築できる。自分で言うのも何だが,使い勝手は非常に良い。

 自然科学の研究には,常に技術開発が付きまとう。遺伝子解析,分子系統解析,顕微鏡撮影装置を使ってデータを出し,集団遺伝学の概念を導入して論文を書けば,そこそこのレベル国際誌には拾ってもらえそうな気がする。ただ,私の研究に強い難色を示す頭の固い人たちはたくさんいる。何回かのリジェクトは覚悟している。

 私の論文は,系統学の分野のjournalに投稿できるが,分類学の分野は難しいだろう。分類学のジャーナルは,新種の記載という側面が強く,記載するための伝統的な手法(形態のスケッチ)が取られる。私の論文は必要な手続きを満たすことができない。

<種の認定>
遺伝子解析で種レベルに対応する違いがあれば,違いは形態(morphology)にも表れるだろう。ただ,私の場合には,形態が大きく異なるから「新種」という仮説は立てられるが,新種として登録すること(カルタ取り)には参加しない方が身のためかと思う。

 新種かどうかは,分類学者が標本をよく調べてご自身で判断されればよい。分類学者にとっても,遺伝子解析のデータがあった方が,研究を進めやすいと思う。その意味で,今後は分類学者とうまくやってゆけるのか,それとも亀裂はさらに深くなるのか,先は読めない。どちらにしても神がかった判断を下す古い専門家に話を持ち掛けると,研究は台無しにされる。それは私としても困る。

2.採集,撮影,原稿執筆の基本情報
<採集> 三枝誠行(NPO法人 生物多様性研究・教育プロジェクト,常任理事)<撮影機材> 顕微鏡撮影装置。<撮影者> 三枝誠行。<執筆> 三枝誠行・増成伸文(NPO法人 生物多様性研究・教育プロジェクト)。

3.参考文献

・Amati L., R.M., Feldmann, and J.-P. Zonneveld (2004) A new family of Triassic lobsters (Decapoda: Astacidea) from British Columbia and its phylogenetic context. Journal of Paleontology 78: 150-168. DOI:10.1666/0022-3360(2004)078<0150:ANFOTL>2.0.CO;2
・Castro, P., and M.E. Huber (2005) Marine Biology, Fifth Edition. McGrowHill Higher Education, Boston.
・藤本 潔・三浦正史・春山成子(2015)西表島仲間川低地におけるマングローブ林の立地形成過程と地盤運動。Mangrove Science 9: 3‒15.
・広島大学生物学会(編)1971. 日本動物解剖図説。森北出版。
・小竹信宏・三浦正史・奈良正和(2013)沖縄県西表島の中部中新統西表層最上部の地質年代と堆積環境。地質学雑誌 119: 701‒713. 
・山田真弓・西田誠・丸山工作(1981)進化系統学。裳華房

図 1.石垣港に停泊する海上保安庁の巡視船。手前に 3 隻,その後ろに 2 隻見える。一番手前の船にはヘリコプターの発着スペースはないが,後ろにいる大型の船にはついているようだ。大型巡視船の総トン数は 3,000 t から 3,500 t ぐらいだろうか。あと 5 年もすれば 30,000 トン型が就航すると書かれていた。この排水量は,太平洋戦争中の戦艦(金剛とか榛名)に匹敵する。すごい軍艦(ではまずいので,弩級巡視船と呼ぶ?)が現れるかもしれない。

図 2.石垣港に向かう汽船「農協やえやま」。船全体の構造は平成丸と同じだが,「農協やえやま」には,旅客は乗ることができないようだ。船の真ん中(艦橋と言うらしい)の付近はガードがない。航海中に甲板に溜った海水を自然に排出するためだろうか?(太平洋戦争中の駆逐艦にも似た構造がある。)波の荒い日に甲板を歩いたら,波を被ってすぐにずぶぬれになる。もしこんな船に乗せてもらえたら楽しい旅ができるだろう。・・・が,西表島に行くときには研究施設に 17 時までにつかなければならず,乗るのはいつも高速船である(大原港まで 45 分)。後ろに見えるのは小浜島。

図 3.大原港に向かう高速船から見た西表島。東の海岸に面する山々が見えている。海は少し波があるが,うねりというほどではない。

図 4.後良川(しいら川)の河口にあるヒルギ林(マングローブ)。マングローブは,厳密には熱帯や亜熱帯の河口の汽水域に生育している植物(総称)のことを言うらしい。一方,植物(主にはヒルギ林)は,河口に堆積した軟泥層(ヘドロ)の上に成長する。つまり基質(底質)特異性がある。両者は常に一体となって特有の景観を構成しているので,マングローブと言う場合にはヒルギ林と泥干潟の合わさった環境を指すと考えてもよいだろう。

図 5.ユツン川の河口(泥干潟)。ユツン川沿いは傾斜が強いらしく,この場所(海岸から 500m 近く上流)では淡水が流れていると思われる。両側にはヒルギ林はなく,川底にはアナジャコの巣穴も見られない。シオマネキもいないようだ。もっとも,この場所は川に降りて行けないので,橋の上から見てそう判断した。塩分濃度(salinity)が淡水のそれに近くても,河口域では川の水位は潮の干満の影響を受ける。

図 6.ユツン川の河口から見る西表島の山々。中央のあるのが古見岳山頂(462m)と思われる。このあたりにはヒカゲヘゴ(シダ類)がたくさん見える。スダジイ,オキナワウラジロガシ等の常緑広葉樹(被子植物)の大木の上に葉を広げている。古見岳には,島の北側にあるユツン川の河口付近と,東側にある相良川(あいらがわ?)から登ることができる。道は一応整備されていると思われるが,西表の山は特に道に迷いやすい。おかしいと思ったらやみくもに斜面を下らずに,根気よく赤い(あるいはピンクの)リボンを探したらよい。すぐ近くに小道が見つかるはずである。西表島の北側斜面は断崖絶壁が続いている。ムシーとする原生林の中を歩くので,方向がわからない。地元の人たち(相当なお年)は,太平洋戦争中は子供の時から兵隊の道案内として,テドウ山とか古見岳とか,普通に登らされていたようだ。若いうちから山に慣れ親しむと,遭難しても落ち着いて行動できるだろう。

図 6.船浦マングローブと船浦海岸(西表島にあるアナジャコ類の採集場所)。船浦マングローブはヒナイ湾を横切る橋(船浦大橋)の内側にある。琉球大学熱帯生物圏研究センター・西表研究施設から車(レンタカー)で 10 分もあれば行ける。船浦マングローブは,熱研の教員が研究フィールドとして使っているようだが,教員との交流は全くないので,誰が何をしているか全く知らない。かつて唯一話ができた人(教員)は,他の教員と不仲になって施設を追い出されたと聞く。日本の臨海実験所は,アメリカの臨海実験所と比べてスタッフの間の人間関係が悪い。団ジーン先生がいたころのお茶の水女子大学の臨海実験所は,雰囲気は良かったと思う(今は知らない)。広島大学の臨海実験所は,発生学が専門の所長(名前は忘れた)がいた時は,(彼の)雰囲気だけは大変よかった。具体的なことはこれ以上書けないが,戦前の大学教員とよく似ている。改善する道はないだろうか?

図 7.船浦マングローブの干潟(干潮に向かっている)。干潮に向かって潮が引くと,川沿いには干潟(tidal flat)ができる。船浦マングローブの底質(substrate)は,この辺りは砂(sand)であるが,ヒナイ湾の中央部は広範囲に泥(軟泥層)が堆積している。

図 8.船浦マングローブにおけるヨコヤアナジャコのハビタット(生息場所)。潮が引いているときに,スコップで干潟の泥を掘ると採集できる。船浦マングローブでは,砂地を 30cm も掘ればアナジャコは容易に採集できる。しかし気温は 35 度近くになるので,休憩しながら掘らないと熱中症になる。

図 9.砂干潟に作られたヨコヤアナジャコの巣穴。巣穴の壁面は泥(おそらくアナジャコのうんち)でコーティングされているので,そう簡単に崩れることはない。深さ 30 ㎝と言っても,一代で完成するかわからない。同じ巣穴が何代にも渡って使い続けられている感じがする。写真左側の黒いところは,泥に付着した有機物が嫌気性細菌によって分解され,分解産物として硫化物ができている。この程度だと臭いはない。

図 10.船浦マングローブの土手。干潮時に向かって潮が引き始めている。泥は堆積していないので,地面に足を取られることはない。ヒナイ湾にはキバウミニナ(大きな巻貝)が多いが,この写真の中にはいない。こんなところで生物の観察や採集をするのはとても楽しい。

図 11.写真左側には植林されたヤエヤマヒルギが見られる。干潟の上にある大量の砂団子は,ミナミコメツキガニが作っている。まだ水に浸かっている川底には,たくさんのヨコヤアナジャコの巣穴がある。ヒルギの葉が腐ってタンニンが溶けているため,河川水はこげ茶色になっている。

図 12.船浦マングローブの干潟。手前は植林されたヤエヤマヒルギ。西表島のマングローブは,いつごろできたのか不明。浦内川の一番古いところで8,000 年前という記事を読んだ。船浦マングローブも 5000 年前とか,そんなころに形成が始まったのかもしれない。ヨコヤアナジャコの幼生がフィリッピンとか台湾から流れてきて西表島に定着したのは,20 万年前とか 30 万年前のことのような気がするが,まだあてずっぽうの域を出ていない。

図 13.ヒナイ湾の砂干潟。この辺りは砂地だが,50m も下れば軟泥層に変わる。海岸沿いに見えるのはヤエヤマヒルギの群落。潮が引くとものすごい数のミナミコメツキガニが現れ,集団を作って砂を摂食しながら川沿いに移動する。同じ十脚甲殻類で,同じ食物(泥)を食べていても,全く違った生活様式(アナジャコ類は地面の下,ミナミコメツキガニは地面の上)で生きている。余計なことかもしれないが,アナジャコの祖先(アナエビだろう)とミナミコメツキガニの祖先(ヤドカリになる前の古ロブスター)が分かれたのは,中生代のジュラ紀だろう。1 億 5 千万年前ぐらいだろうか?

図 14.ヨコヤアナジャコ(石垣島の名蔵川河口の砂泥干潟で採集)。撮影に利用したのは 50mm マクロレンズ(Canon Compact-Macro Lens EF 50mm 1:2.5)。マクロレンズだと良い色は出るが,体の構造に関しては多くの情報が得られない。図鑑などはこれでよいかもしれないが,種類の同定(identification)には使えない。Upo の形がよく見えないので,属(genus)の分類さえも不可能だろう。科(family)レベル(アナジャコ科)になればやっと可能になる。要するにアナジャコであることはわかるが,Upogebia かは断定できない。なお,体色が分類基準として使えるかは不明。

図 15.自分で組み立てた顕微鏡撮影システム。双眼実体顕微鏡に C マウントアダプターをつけて,EOS 7D に接続した。撮影した画像は EOS utility という優れもののプログラムによってパソコンに取り込まれる。このシステムを使うときれいな画像を短時間にたくさん記録することができる。

図 16. 西表島の「船浦マングローブ」で採集されたヨコヤアナジャコ。遺伝子解析によるクレード D に対応する。遺伝子解析には,2008 年に西表島の裏内川と後良川のマングローブ干潟で採集された個体が用いられた。2024 年に船浦マングローブで採集された多くの個体も,環境条件が非常に似通っているのでクレード D と判定して間違いないと思う。なお,西表島では,大小さまざまな川の河口には,軟泥層(いわゆるヘドロ)に覆われた泥干潟が発達している。アナジャコやスナモグリの巣穴はいっぱいあるが,採集は極めて難しい。6 月 23 日に白浜にある小さな川で一匹だけ小さな個体を採集することができた。これがクレード C だろう。つまり西表島には C と D の両方が分布すると思う。

図 17.ヨコヤアナジャコ(2024 年 6 月 18 日に石垣島の名蔵川河口の砂泥干潟で採集)。2008 年に石垣島の川平で採集された個体は,遺伝子解析の結果,クレード B に分類された。図 17 の個体もクレード B で間違いないと思う。石垣島には今のところ B 以外のクレードは採集されていない。ここでは詳しいことは述べられないが,クレード B(図 17)とクレード D(図 16)の間には,遺伝子型だけでなく形態についても各所に明確な違いがみられる。ただし,新種として登録する場合には,分類学の伝統である形式的手法(スケッチ)を使って描かれた絵(picture)が必要になる。

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