令和5年(2023)5月29日(月)
1.はじめに
私は,商売柄,長い間生物の撮影に関わってきた。研究に使用した機材は走査型電子顕微鏡や光学顕微鏡であり,カメラの方は趣味として動物の接写(close-up shot)に使っていた。接写レンズは,SIGMA 50mm 1:2.8 DG MACROを使った。
一方,ブッポウソウの研究を始めてからは,望遠レンズ(telephoto lens)が必要になり,PENTAX K-rにTAMRON製の18-200mmや28-300mmのズームレンズをつけて使っていた。私の場合には, CANONやNIKONの高価なカメラや600mmレンズを校費で購入しても疑われることはなかっただろう。しかし,他の必要な物品を考えると,どこかの大学の学長だった人と違い,高価なカメラやレンズを購入する意欲は沸いて来なかった。
写真に対する私の評価は,近澤峰男さんから,SONY RX10ⅢとCANON EOS 7D Mark II(600mm レンズ)をお借りしてから,全く変わってしまった。つまり,良い写真が撮れるかどうかは,ひとえにカメラとレンズの性能(performance)にかかっていることを知った。それからというもの,写真家が集う場所は避けて通るようになった。
写真家の集う場所から遠ざかるようになって,逆にいろいろなカメラやレンズを使って,ブッポウソウを含めた里山の自然の豊かさを表現してみたいという思いが強まってきた。先だって私は顕微鏡の鏡筒につけるカメラとして,CANON EOS 7D(残念ながらMark IIではない。Mark IIはまだ高い。)の中古を3台(ランクはAB)カメラのキタムラで購入した。1台が28,500円。加えて,TAMRON 28-300mm F3.5-6.3 Di VC PZD for CANON (Model A010)(これも中古でランクはAB)も購入してしまった。これが57,600円。両方合わせて結構な値段になるが,購入した以上ブッポウソウの撮影に利用しない訳には行かない。
撮影結果を自分なりに評価(検証)してみると,このシステムで撮影した写真は,十分に人前に出せる。少し編集すれば,5月下旬の里山の風景をうまく描写できると思う。
2.被写体と撮影に関する基礎情報
<撮影者と所属> 三枝誠行・近澤峰男(生物多様性研究・教育プロジェクト)。
<撮影場所> 和中,上田東,大木(おおぎ)(ともに吉備中央町)。 <撮影日時> 令和5年(2023)5月28日(日)。
<Key words> EOS 7D, TAMRON 28-300mm lens。 <記録機材> Canon EOS 7D (used) with Tamron 28-300mm ズームレンズ (used)。
<参考文献> 三枝誠行・近澤峰男(2022)自然のふところ:近澤峰男さんと共に歩んだ自然哲学の道。生物多様性研究・教育プロジェクト出版会。在庫なし。吉備中央町図書館(加茂川および賀陽)で見ることができる。
図1.巣箱のすぐ近くの電線にとまるブッポウソウ。個の個体は多分オスで,メスが巣箱に入るのを待っていると思う。
図2.宇甘川沿いにあるR-20(手前)とWA-03(奥)の巣箱。手前の巣箱はスズメが使っている,奥の巣箱ではブッポウソウが卵を4つ産んだ。
図3.警戒飛翔をするブッポウソウのオス。TAMRONのレンズは焦点が合いやすく,楽にシャッターボタンを押すことができる。
図4.4~5匹のカラスを追い払ってヒノキにとまるブッポウソウのペア(A-05)。2匹いるのがお分かりいただけるだろうか?
図5.ヒノキのてっぺんで待機するブッポウソウのペア。このペアが使うのは15m下にある巣箱H-32だが,5月28日の時点ではまだ卵は生まれていない。このペアは一体何をしているのだろうか?このような問題の解決のためには,戦前に確立したお手本教育は役立たない。現在急速に発展しているAI(artificial intelligence:人工知能)を活用した検証型(分析型)の思考がずっと有効だ。問題は,検証型教育というのは,基礎学力がないと良い効果が期待できないことである。一方,初等教育や中等教育の段階では,人間による(オカルトの入らない)お手本教育をしないと,子供たちの人間形成がうまくできないだろう。ある程度の基礎学力があればAIを活用して課題を解決できる。早い話,大学では教員のニーズが今後ますます低下するが,基礎学力が十分身についていない年令では,お手本教育のできる先生のニーズは逆に高まる。基礎学力が十分なレベルに達すれば,あとは自分の努力でAIに学べばよい。変な指導者の教えを乞うことなく,質の高い課題解決ができるようになる。
図6.ハコネウツギの花。EOS 7Dがよいのか,TAMRONのレンズがよいのか,いずれにしても見事な色が出ている。
図7.ユウゲショウの可憐な花。花弁の筋(支脈)は,動物の血管みたいだ。小道の真ん中でアスファルトの裂け目に咲いていた。
図8.ユズの花粉を食べるコアオハナムグリ。コアオハナムグリはこの時期のブッポウソウの重要な食料源になる。
図9.私が来たのに驚いて逃げて行くダイサギの群れ。ブッポウソウも50m以内に近づけば逃げてしまうことは知っておく必要がある。
図10.林(サワグルミとヤマザクラ?)の上を飛ぶアオサギ。撮影できる動物や植物は多い。しかもきれいに撮れる。
図11.幹線道路(県道371号)の脇に車を止めて撮影するのは厳禁。幹線道路はいろいろな人が通る。そんな所で高級車を止め,我が物顔で大口径レンズを振りかざせば,自然と金持ちをひけらかす態度が出る。そんな者を見るのは私も嫌だし,地元の人も嫌だろう。しかも林の脇で用を足そうものなら,即座に協働推進課に苦情が入る。そういう場所については,情報提供しなければ写真家は来ないことを知っておくとよい。
図12.向きを変えられた巣箱(他の団体の巣箱)。地元の人の苦情で180°向きを変えてから,撮影者はいなくなった。よい解決法である。
図13.巣箱R-09。多くのカメラマン(写真家)は,どこに行けばブッポウソウの良い写真を撮れるかの情報を欲しがっている。そこで彼らが何をするか知らないで紹介すると,やりたい放題やった結果,地元とのトラブルが勃発する。珍しい昆虫や植物も同じである。私たち(生物多様性教育・研究プロジェクト)は,人々の生活も含め環境に配慮できる人たちには情報提供をするが,配慮できない人たち(何人かは特定している)に対してはお引き取りいただくことを決めている。多くの写真家の特徴として,思考や行動が非常に自己中心的で,人の注意を受け入れようとしない。写真家を誘致する人たちは,この点をよく承知して,誘致にあたって教育をしていただきたい。来てくれれば嬉しいではまずい。
図14.道路に沿って飛ぶトビ。適当にレンズを被写体に向け,適当にシャッターボタンを押すときれいに写る。優れものの撮影機材である。
図15.巣箱ミカサ。5月28日に見たところ卵がひとつあった。ここは監視しないと,撮影者が近づきすぎて鳥を長時間にわたり巣箱から遠ざけてしまうだろう。結果として,ふ化率を極端に低下させるということも起こる。ここは遠くから観察できる人にしか紹介できない。この場所は500mm以上のレンズを使わないと撮影が難しい。近くで撮影している人を見かけたら注意し,お引き取りいただくことになる。もっとも,図15のように変則的な巣箱の付け方は,写真家は嫌がる。そういう風にして自己中心的な写真家を追い払うという手もある。色々な試みをしたい。