多様性プロジェクト・リサーチレポート 攻撃と防御の十脚甲殻類 No. 3:中古軍団パワー(わが身は中古,周辺機器もほぼ中古)

令和4年(2022)11月24日(木)

 近澤峰男さん(図1)にお会いしてから,私の研究・教育活動は大きな転換期を迎えた。転換したというのは,研究対象をエビ類・カニ類(十脚甲殻類)からブッポウソウにシフトしたことではなく,今まで行ってきた研究・教育活動を新しい視点で再現したい気持ちになったことである。しかし,再現しようとする私自身は,十分に中古であり,使用する周辺機器も中古である。しかし,中古軍団でもできることはある。

 私は今までの研究・教育活動にカメラを多用してきたが,画像の質までは十分に考慮しなかった。野鳥の方も,よく見ればブッポウソウであることがわかるという程度の自己流の写真や,resolutionの悪い写真を撮っては,自己満足を繰り返していた。自己満足は良いところもあるが,傲慢な心を生みやすいという欠点がある。私は近澤さんと近澤さんが撮影された数多くの写真に接して,自分の傲慢な考え方を改める必要があると強く感じた。

図1.段ヶ峰山頂(35º19’N; 134º72’E)に立つ近澤峰男さん。段が峰は,兵庫県の中央に位置する生野高原にある。なだらかな山で,頂上付近は草原や低木の林になっている。頂上(標高1103.4m)からは360度の展望が得られるとのこと。なお,段ヶ峰の呼び方は「だるがみね」「だんがみね」のどちらでも構わないようである。撮影:平成19年(2007)7月22日。この写真が撮影されたころは,私は近澤さんを全く知らなかった。

 私が近澤さんに初めてお会いしたのは,平成29年(2017)の夏だったと思う。平成30年(2018)には,ブッポウソウや他の野鳥,それにクワガタムシやカブトムシの木彫りも作っていただいた。平成30年(2018)の11月か12月ごろに,野鳥や風景の入った多くのファイルをハードディスクに入れて私の家に送ってくださった。そして,近澤さんは翌年(2019)5月にお亡くなりになった。病気が重いことはご自分で十分に察しがついていたのだと思う。お亡くなりになる直前の令和1年(2019)4月に吉備中央町の賀陽道の駅まで来られ「これを使っていい写真を撮ってくれ。」と言われ,SONY RX10Ⅲを置いて行かれた。近澤さんにお会いした時には,片手に酸素ボンベを持ち,両方の肺から出血が止まらない状況だと仰っていた。

 近澤さんは,吉備中央町の竹荘にあるE-03の巣箱がお気に入りのようで,そこに案内してほしいと言われていたが,私の方はE-03がどこにあるかを思い出せず,案内することができなかった。ご病気があれほど重篤であることをよく理解していれば,もう少しよく考えてご案内できたかと思う。今でも大変後悔をしている。

 E-03(竹荘)はカラスの大変多いところに設置されている。カラスの干渉で,毎年ブッポウソウの産卵数は2コか3コになっている。数年前だったか,巣箱の掃除をしているときに,カラスの片方の翼がそっくり巣箱に入っていたことがあった。おそらくブッポウソウが頻繁に巣箱を覗くカラスに業を煮やして,カラスの片翼の付け根をつついて,肩から分離した翼を巣箱に引き込んだものと思われる。

図2.雪の積もった小枝にとまるアトリ。平成29年(2017)1月29日。アトリがとまる枝の樹種は,シデのような気がするが,図3に示したマユミ(あるいはコマユミ)にもよく似ている。撮影場所は不明だが,千種高原スキー場ではなかろうか。近澤さんは,自然と動物の行動の機微をうまく切り取ることでは,素晴らしい能力をお持ちの方だったと思う。撮影機材は,撮影の時期からいってCanon EOS 7DとCanon 600mmレンズをお使いになっていただろう。

 近澤さんは,お亡くなりになる1年前にこれ(600mmレンズのついたCanon EOS 7D)も使うかと仰っていた(図2と図3)。あまりに高価な撮影機材をお借りするのは申し訳ないので,いったんはお断りした。令和1年(2019)と2年(2020)は,SONY RX10Ⅲを使ってブッポウソウを撮影した。しかし,このカメラは昆虫や30m以内の野鳥に関しては威力を発揮するが,30m以上先にいる野鳥については,もう少し良好なresolutionを持つカメラがあるといいと思った。近澤さんはお亡くなりになる前に,野鳥を撮影している人に600mmレンズとEOS 7Dを譲ってしまわれたと思った。状況確認のためご自宅に連絡したところ,奥様からまだ家にあるから使っても構わない旨のご返事をいただいた。早速ご自宅のある明石市魚住町にお伺いし,カメラとレンズ一式をお借りして岡山に戻った。令和2年の秋の終わりごろだったと思う。

図3.マユミの枝にとまって実を食べるヤマガラ。平成26年(2014)11月6日。千種高原スキー場にて。

 今まで「ブッポウソウ総合情報センター・ニュース」で何度も紹介したように,600mmレンズをつけたEOS 7Dでは,素晴らしい野鳥の写真が撮影できる。この機材を使ってブッポウソウ以外の野鳥も撮影できるといいのだが,私にはその時間が取れない。一方,近澤さんは数多くの野鳥と風景の写真ファイルを残してくださった。それらをインターネットに挙げて行けば,お亡くなりになった近澤さんの供養になるように思えた。ハードディスクには,誰の目にも触れず,このままうずもれさせるには,あまりにも貴重な写真がいっぱい保存されている。できるだけ多くの写真を公開して行きたい。

 近澤さんの撮影された野鳥と風景の写真を公開するにあたっては,写真を羅列するのではなく,いくらかのコメントを加えることにした。写真だけでは,自然のありのままの姿や近澤さんの遺志が伝わりにくい。幸いなことに,私と近澤さんは,自然に対する見方や動物の行動に対する感覚が大変良く似ている。だから,近澤さんの写真を見ると,近澤さんはこういうことが言いたかっただろうということがよくわかる。私は,記事を公開するにあたっては,写真・図・表と共に文章による説明をつけることが不可欠であると思う。

 さて,話題は次に移る。近澤さんのお使いになったEOS 7Dは,すでに製造は打ち切りになっている。現在CanonではEOS系列のカメラがどのように進化しているか,私にはよくわからない。どうなっているにせよ,新しい機種は高価でとても手が出ない。一方,EOS 7Dは中古品が多数出回っており,カメラのキタムラだと1つ27,000円から28,500円ぐらいである。これなら私も購入できる。

 私がEOS 7Dの中古にこだわっているのには理由がある。私は海洋生物も研究対象にしているが,海洋生物は野鳥と違って,体の小さな種類が多く,観察には顕微鏡が不可欠である。図4は,海岸の桟橋に取り付けたライトの下に集まってきた動物プランクトンを示している。採集したサンプルは,シャーレにごく少量のエタノールを入れて,体の動きが止まったところで撮影した。使った顕微鏡はオリンパスSZX。露出時間は覚えていないが,2秒から5秒近くかかっただろう。撮影した画像はSDカードに入れたように記憶しているが,ひょっとしたらまだポジフィルムを使っていたかもしれない。

図4.瀬戸内海(瀬戸内市牛窓)で採集された動物プランクトン。体の大きい方から,アキアミ(十脚目),稚魚,ヨコエビ,クーマ3-4種類,カニのゾエア幼生,ハルパクチクス,ケンミジンコなどが見える。オリンパスSZX 12にカメラ(機種不明)をつけて撮影。平成9年(1997)7月。露出時間が長くなるために,撮影には相当な忍耐力が必要になる。また,カメラのファインダーを覗いてシャッターを切るのでは,良い画像が得られるまでに長い時間がかかる。

 20年前は,画像をSDカードに取り込めるようになっても,顕微鏡撮影は大変だった。Focusも露出時間もすべて手動。きれいな画像が得られるまでには大変な忍耐が必要だった。図5は,アカテガニ(Sesarma haematocheir)のメスがふ化直後のゾエア幼生を水中に放出しているシーンである。

図5.アカテガニのゾエア幼生放出シーン。これは普通のコンパクトカメラでフラッシュを使えば誰でも撮影できる。問題は,幼生の放出は夜間の満潮時(high tide)に同調しているために,それまで川岸で辛抱できるかである。

図6.水中に放出された直後のゾエア幼生。カクベンケイ(Sesarma pictum)の1例ゾエアだったかもしれない。スケールがないが,頭胸部の幅がだいたい1mmほどなので,顕微鏡下でないと形がわからない。

 図5と図6に示した写真は,いつ撮影したか覚えていないが, 20年以上前のことは確かである。ともにポジフィルムが使われた気がする。幼生放出のシーンは,普通のカメラ(いわゆるコンパクトカメラ)で,フラッシュを使えば誰でも撮影できる。図6のふ化したゾエア幼生は,顕微鏡(機種は覚えていない)を使って撮影した。

 顕微鏡撮影は,望遠レンズを使った野鳥の撮影とは大きく異なる。望遠レンズはファインダーを覗くか,手元のレリースのボタンを押して連写をすればよい写真が撮れる。しかし,顕微鏡写真の場合にはファインダーを覗いてシャッターを押し,何枚か撮影してから,パソコンでうまく映っているかを確認しなければならない。ピントが微妙にずれていれば始めからやり直しである。この作業は,カメラ(機種は問わない)に50mmマクロレンズをつけて,動きの速いハンミョウ(図7)とか,アオタテハモドキを接写しようとするときの苦労とよく似ている。

図7.タイワンヤツボシハンミョウ(Cosmodela batesi)。令和1年(2019)年5月22日,西表島舟浮(ふなうき)の小道で撮影。本種は平成14年(2002)に誰かが台湾から持ってきて西表島に放したらしい。2019年に西表島に行ったときには,あちこちで見られた。動きが素早いので50mmマクロレンズを使うと,撮影するのに大変な苦労をする。その時の写真は,残念ながら画面全体に黄色が強く出ており,苦労した割には失敗作である。(撮影に使用したPENTAX K–r自体の露出調整機能が壊れている。)SONY RX10だと,2mぐらいの距離から撮影できる。ただし,RX10はズームレンズ(ボディ・レンズ一体型)がついており,顕微鏡撮影には使えない。

 海産動物の幼生,いわゆる動物プランクトン(図7)を撮影するには,カメラの画像をリアルタイムでモニターに映し出して,モニターに現れるシャッターボタンをクリックできる撮影システムが必要である。露出時間は手動で(というか勘で)決める。

 顕微鏡撮影システムや画像をリアルタイムでモニターに映し出すシステムは,大学や研究所を含めて,医療関係の部署で多用されているだろう。しかし,システムの新品(Olympusの独壇場か?)は相当高価で,私には手が出ない。中古も売ってはいないだろう。コンパクトなシステムはインターネットで購入できるが,性能が自分の要求するレベルをクリアできるか不明である。失礼ながら,何かおもちゃのようにも見えなくもない。業者に相談しても,とにかく高価なものを導入するように話を持って行かれる。結局,顕微鏡撮影システムについては,満足行くレベルにするには,自分自身で開発するしか道はないだろうという結論になった。

 ある日,近澤峰男さんがお使いになっていたEOS 7Dを顕微鏡撮影システムに組み込んだらどうかという邪念がふっと頭をよぎった。EOS 7D ならば中古を安く購入できる。しかも,撮影システムのプログラムはWindows 7や10に対応している。試しにEOS 7Dの中古を1台購入して,今まで使っていたSIGMA 50mm マクロレンズ(1:2.8)をつけて,標本のカミキリムシを撮影してみた(図8)。 

 Resolutionは割と良好できれいな写真が撮れた。一番助かったのは,良い感じの写真が短時間(標本の並び替えとピントの調整が数分で済む)で撮れることであった。写真家からすれば,とんでもなく邪道な使い方になるのだろうが,とにかくこの方法でいい写真が撮れることがわかった。

図8.本部半島のカミキリムシ。上段左からハヤシサビカミキリ,ドウボソカミキリ,ホソガタヒメカミキリ,ワモンサビカミキリ;下段左からゴミムシ,サビアヤカミキリ,ハヤシサビカミキリ,ハムシ。カミキリムシはしばらく見ていないので,種名が間違っている可能性が高い。平成1年(1989)5月12日,沖縄県・本部半島の古嘉津宇(ふるがつう)付近で採集。なお,古嘉津宇の地名は変更になっている可能性あり。諸志や嘉津宇から伊豆味にかけての一帯は,いつかまた訪れてみたい。標本をうまく配列すれば,カミキリムシの図鑑に出ている標本と同じように見える。

 先日もう一台EOS 7Dの中古を購入した。これを今まで使っていたOlympus SZX 12につけてみた(図9)。ドライバーはインターネットではうまくインストールできなかったので,カメラを入れた箱の中にあったCD-ROMを使った。デスクトップパソコンとモニターはすべて人からのいただき物である。

 オリンパス顕微鏡の鏡筒はTマウントである。インターネットで調べると9万円と出ていたが,さすがにこれは高すぎる。Olympusの純正品はもっと高いだろう。さらに探すと,5万円のところが見つかった。一方,EOS 7DのレンズはEマウントである。EマウントをTマウントに変換するアダプターをVixenが製造しており,2,000円ほどで購入できた。なお,SZX 12も人からいただいた。

 一方,自分が使っていた2台のSZXは,人にあげた。SZXではないが,貸したつもりの高価な顕微鏡システムをインターネットで売り払ったと思われる事例があるので,もう人にはあげません。

 オリンパスSZXは走査電顕までは行かないが,走査光顕(scanning light microscope)として使えると思う。100 µm(1mmの10分の一)は十分行けるだろう。10 µmまで行けるとさらに良いのだが・・・。

 SZX 12にはずっとPENTAX K10をつけていたが,撮影にはものすごく時間がかかり,resolutionも満足行く画像は得られなかった。不要になったK10にはTamronの90mmマクロレンズ(1:2.8)をつけて復活させた。また,K–rは完全に壊れているので,これは早くお墓に入れてあげたい。

図9.Canon EOS 7Dを使って再構築した双眼実体顕微鏡撮影システム。ドライバーはWindows 7も10も対応。

 今,さらにもう一台EOS 7Dを注文しているところである。3台目(近澤さんがお持ちだった分を入れると4台目)は,長いこと使ってきたZeissの顕微鏡(Stemi 2000)につけてみようと思う。Stemi 2000は鏡筒がCマウントである。Cマウントの鏡筒をKマウントに変換し,さらにEマウントのEOS 7Dにつけるのは,結構なパズルになる。マウントのパーツは以前から私のところにあった。

 こういう訳で,今自分の手元にある望遠鏡・顕微鏡とその周辺機器は,ほぼ中古品で構成されている。私はこの中古軍団を駆使して,1970年代後半から2000年にかけて,25年間自分が行ってきた研究をもう一度再現してみたい。計画の達成までに15年を要する楽しい旅になるだろう。

<参考文献>

  • Castro, P., and M.E. Huber. 2005. Marine Biology. McGraw-Hill, New York.
  • Saigusa, M. 2001.Daily rhythms of emergence of small invertebrates inhabiting shallow subtidal zones: a comparative investigation at four locations in Japan. Ecol. Res. 16: 1-28.

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