令和4年(2022)ブッポウソウ情報 No 36:ブッポウソウの古い写真と新しい写真

令和4年(2022)10月13日(木)

 ブッポウソウの行動に関する原著論文を書いているときに,今までに集めた膨大な資料の中から古いブッポウソウの写真が出てきた(図1)。このシーン(図1)は平成25年(2013)5月13日に吉備中央町の福沢で撮影された。4匹のブッポウソウが巣箱を取り合っているところである。写真には,そのうちの3匹が入っている。(4匹目は写真の外にいる。)巣箱のすぐ近くにいるのがペアで,右にいるのがもう一つのペアのメスだろう。

図1.ブッポウソウの古い写真(その1)。平成25年(2013)5月13日,吉備中央町の福沢にて撮影。被写体から50mぐらいの距離はあったと思う。シャープネスは60%上げ,明るさは20%落とした。

 私は,この写真を撮った時のことはよく覚えている。2013年と言えば,NPO法人・多様性プロジェクトが発足する1年前で,ブッポウソウの研究は迷走を極めている時期だった。

 生態学的研究は,確かに事実に基づいてものを言っているのであろうが,統計学的な相関を基礎にしていることが多く,因果関係については想像の世界を出ないことが多い。例えば,野鳥の世界では産卵数におけるseasonal clutch-size declineという現象が普遍的にみられる。この現象を説明するために,どのぐらい食物を摂取できるか(food availability)が重要と考え,実験と称してエサの多く与えるグループと少量しか与えないグループを作った。そして,前者のグループ方が後者のグループより産卵数が多かったから,clutch sizeを決定するのはfood availabilityではないか,みたいな議論が幅を利かせている。あるいは,食物の量の季節的変化との相関関係を求める。そして,少しでも正の相関があれば,food availabilityの季節的変動がseasonal clutch-size declineと密接な関係にあると結論できる,というような議論が国際誌にさえもよく出てくる。これでは現代生物科学の世界から取り残されてしまうだろう。

 動物はたくさん食べれば,それだけ産卵数が増加する。そんなことは常識だよという人は多いだろうが,本当にそうなのだろうか?食物がたくさんあれば,早くから生殖活動に入り,その結果産卵数が増加した可能性もある。要するに,鳥類の産卵の(生理学的)メカニズムについて関心が薄いので,結果として起きる生態学的現象の相関だけで研究を進めようとする。そうすると,風吹けば桶屋が儲かる式の説得力の乏しい説明になる。私はこういう思考をお持ちの方々の世界には入ってゆけない。大変苦しい道の入り口に置かれていた。

図2.ブッポウソウの古い写真(その2)。平成27年(2015)5月11日吉備中央町にて。シャープネスは30%上げたが,resolutionの良い写真を見慣れた方には,およそ見苦しく映るかもしれない。(ピントの甘い写真は,見ているとすごくイライラする。)ブッポウソウがくわえているのは甲虫であることはわかるが,種名まではわからない。この時期だと昆虫の大きさからいってコアオハナムグリ(Oxycetonia jucunda)だろう。

 平成25年(2013)5月13日に福沢で撮影した時には,使用したカメラはPENTAX–Kr。レンズはPENTAX 75–300(望遠ズーム)。これに2×TELEPLUS MC 7(KENKO)をつけた。シャッター速度は,500分の1秒から1,000分の1秒。車のボンネットに肘を固定して撮影した。それでも被写体は大きくぶれている。しかも,鳥の背景にある多くの木の葉の主張が強すぎて,鳥の動きが消えている。羽(wing)の色も鮮やかすぎてなんだか変だ。もちろんそういうの(図1)が良いという人はいるだろうが,私はいい写真だとは思わない。

 次は,やはり古いブッポウソウの写真(図2)。平成27年(2015)5月11日に吉備中央町のどこかで撮影した。カメラは図1と同じPENTAX–Kr。望遠レンズ(PENTAX 75–300)に2×TELEPLUS MC 7をつけて,シャッター速度は,500分の1秒ぐらいだったと思う。ブッポウソウの表情は全然わからず,なんと素晴らしい(?)ボケ写真を撮ってしまったのかと思う。でも当時はこれが自分のベストであった。平成27年(2015)は,生物多様性研究・教育プロジェクトが本格的に動き出した年である。それでもブッポウソウの研究は軌道に乗り出したとは言えない状況で,やはり苦しい道のりの半ばにあることは変わりなかった。

図3.ブッポウソウの古い写真(その3)。平成27年(2015)5月15日。カメラの中のゴミがいっぱい映り込んだので,まずペイント3Dを使って消去した。A–06は,今どこにあるか不明。撤去したかもしれない。

 図3も古いブッポウソウの写真である。平成27年(2015)の春(ブッポウソウが来る前)には,吉備中央町から高梁市有漢町,中井町,新見市北房町にかけて,多様性プロジェクトの巣箱が広範囲に設置された。A–06は,上田東から湯武(ゆぶ)のあたりに設置されたと思うが,湯武から案田にかけての一帯は,毎年ブッポウソウの巣立ち率が極端に悪く,改善のため頻繁に巣箱を付け替えてきた。A–06が現在(2022)どこに移っているか記憶がない。撤去されたか,ナンバーを変えて他の場所に転用したかもしれない。

 古いブッポウソウの写真(図3)は,resolution(解像度)が悪く,拡大すれば焦点も合っていない(out of focus)ことがわかるだろう。多少修正したところで,写真を見慣れた方々にお見せできる代物ではない。この写真(図3)をWordに入っている「図ツール」から「ホーム」の下の「アート効果」をクリックし,「水彩スポンジ」でアレンジしてみた。

 これならいくらか見られる画像になる。ブッポウソウの姿にもピントが合っているように見える。しかし,画像を改変してゆくと,写真とは違う世界に入ってゆく。画像を改変することに著しい抵抗を示す人がいるが,図4のような作品でも,楽しい物語を作ることができるならば,物語と合わせて世に出せば,面白いと思って下さる方もいるだろう。

図4.ブッポウソウの古い写真(その4)。こうなると写真の範疇から離れてアートになるが,resolutionの低い写真を世に出そうと思えば,現代的技術を利用してアート作品にすることが生き残るひとつの道である。 

 先日,手元にあったNikonフィールドスコープに,動画撮影用のCanon Power-Shot S95をつけてみた。望遠鏡とカメラをつなぐアタッチメント(1万円ぐらいするが,インターネットで購入できるか不明)が必要だが,なぜか自宅にあった。以前に誰かがそろえて下さったかと思う。しかしこのシステムでは,自分が思い描く写真はとても撮影できないことが分かった。フィールドスコープは望遠鏡として使い,カメラは動画撮影用として単独で使用する方がいい成果が得られるだろう。20年前はフィールドスコープにコンパクトカメラをつけて野鳥を撮影していたようだが,被写体のresolutionは図2のレベルよりもさらに低くなるだろう。インターネットには,フィールドスコープにコンパクトカメラをつけて撮影する方法は初心者向きと出ていたが,肉眼で見るよりは鳥が大きく見える程度で,得られる情報量は少ない。

 最近は,フィールドスコープとスマホをつなぐアタッチメントが販売されている(3,000円から1万円ぐらいだろうか?)。結果はコンパクトカメラと同じで,形や色は少しわかるが,ただそれだけの話である。失礼だが,遊びにしか利用できないと思う。私は,このような方法で撮影した写真が悪いというつもりは全くない。遊びでやるならば,遊び心を強調したアートを作り,それを世に出してゆけばよい。

「カメラはカメラなのだから,どんなカメラでも同じ写真が撮れる。」と思っている方々は多いのではなかろうか?戦時中にもそういう発想は強かったようである。「戦車は戦車だから,同じ数があれば敵と同じ戦い方ができる。戦いに負けるのは,兵隊の精神力が足りないせいだ。」・・・と,自分勝手な論理(屁理屈)を平然と押し付けてくるエリートの方々をたまに見かける。そんな人が上司になったら,どんな戦も勝利を収めることは不可能である。

 そういう方々は,脳神経系の情報処理機能(information processing)に関する神経回路(neural circuits)が,正常な人たち比べてかなり少ないのであろう。フィードバック機能も低下している。

 何という病気か知らないが,治療するためには,自分が苦労して,その過程で神経回路の数を少しずつ増やし,フィードバック機能を向上させる(つまりsimulationが数多くできるようすること)ことだろう。人格的欠格者と言われるよりも,脳神経系の異常と認定される方が,ちょっとはましな気がする。こういう病気をお持ちの方は,自分がこうだと思ったことを,他人を激しくしかりつけて自分の思い通りにさせようとする傾向がある。太平洋戦争中に辻正信というエリート軍人がいたが,この人もそんなタイプ(狂気を抱いている人物)だったのではないか?こういう性格の人は,軍の幹部にとっては便利なので,戦争遂行のために大いに利用されたに違いない。しかし,現場で戦う人たちには,やりきれない思いのまま命を落とした軍人も多かっただろう。

 辻正信氏とそっくりな性格の人は,学問の世界には普通にいる。こういう人のご機嫌を取ろうとすると,後で大変な目に合わされる。激高型の人たちにとりつかれたらどう逃げるか,日ごろからよく考えておく方がよい。関係が続くと精神病にされてしまう。私はそういう方々をたくさん見てきた。

図5.ブッポウソウの古い写真(その5)。「アート効果」の中から,「ラップフィルム」を使った。

 古い写真の話に戻る。結論として,古い写真はカメラが新しいうちは,そのままプリントすれば写真展などに投稿することができる。しかし,カメラの新しい機種が誕生すれば,そちらの方がresolutionは格段に上がっているだろうから,同じスタンダード(基準)で比較されたら,古い写真に勝ち目はない。そういう時には,古い写真をアート(図4と図5)にして世に出すのもよいだろう。アートにすると,好きと嫌いの区別が明確になる気がする。

図6.ブッポウソウの新しい写真(その1)。令和4年(2022)7月1日,江与味にて。「傾き巣箱」に餌を運んできたブッポウソウのメス。Resolutionもよく,物語性にも優れたよい写真が撮れた。

 さて,いよいよ新しい写真の話に移る。カメラはCanon EOS 7D。現在は製造していない。評判がよかったようで,たくさん売れたのだろう。中古が多く出回っている(2万5千円から3万円程度)。レンズはCanon 600mm Ⅱという機種で驚くほど高価(150万円以上)である。中古はまず出回らない。いずれも今は亡き近澤峰男さんからお借りした秀逸機材である。

 新しい技術がいかに役立つかは,図6をご覧いただけば一目瞭然である。図7も同じカメラとレンズを使って撮影された。撮影距離は40m(図6)と20m(図7)ぐらいである。この距離だと,車の中からレンズを出して撮影しないと,鳥は巣箱に近づかなくなる。

図7.ブッポウソウの新しい写真(その2)。古いカメラとレンズでは,とても表現できない世界があることがわかる。

 私がいま求めているのは,図6と図7のような画像である。何度も繰り返すが,古い写真はダメと言っている訳ではない。新しい写真は,画像の情報量が圧倒的に豊富で,それらをもとに多様な議論が可能になるというメリットがある。きれいかは2の次である。また,鳥だけに注目しないで背景や巣箱も見てほしい。

 私は,来年(2023)の春に里山の生物多様性(特に野鳥)に関する写真展を計画している。展示に協力していただける方々には,まず写真展の目的を理解していただきたい。ご理解いただける方々には,より具体的な内容について,近いうちに記事やメール等で連絡させていただくつもりである。その節はよろしく。

<参考文献>

  • Daan S., C. Dijkstra, R. Drent, and T. Meijer. 1989. Food supply and the annual timing of avian reproduction. In Acta 19th Congressus Internationalis Ornithologici, (ed. H. Quellet), pp. 392–407. University of Ottawa Press.
  • 杉森久英. 1982. 参謀・辻政信。河出書房新社〈河出文庫〉。(その他,辻正信氏の生涯に関しては,Wikipediaの記述も優れていると思う。)
  • Verhulst, S., and J.-Å. Nilsson. 2008. The timing of birds’ breeding seasons: a review of experiments that manipulated timing of breeding. Phil. Trans. R. Soc. B 363: 399–410.

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