令和4年(2022)のブッポウソウ情報 No 31:警戒飛翔や威かく攻撃は慣れた動物に

令和4年(2022)8月10日(水)

 ブッポウソウの産卵は,早い個体では5月20日ごろから始まる。産卵は,樹木の「うろ」や木製の電柱に掘られた穴(どちらもcavityという単語が使える)を使っていた時には,巣箱よりも1~2週間は遅かったと思われる。野鳥の産卵システムの特性(clutch size decline)から考えて,平均3コ前後ではなかったかと思われる。巣箱が利用されるようになって,利便性の良さが鳥に認識され,産卵の時期は早まった。産卵数は吉備中央町では,2022年では平均4.3コぐらいではなかろうか。5つ産んである巣箱も普通に見られるようになった。一方,有漢町や巨瀬町(ともに高梁市)では,数は少ないが,6つ産まれる巣箱がある。1例だけだが,7つ産んでいる巣箱もあった。今後,有漢町や巨瀬町では,6つ産まれる巣箱の数が増加すると予想されるが,エサの条件がやや劣る吉備中央町では,5つが最大値かもしれない。野鳥にとって卵(egg)は完全なる消耗品である。

 巣箱の中でメスが産卵しているとき,また卵を温めているときは,オスの方は何をしているかよくわかっていない。今の段階で示唆できるのは,オスの行動は個体によって大きく異なるということである。非常に早い段階から巣箱の防衛をしている個体もあるし,一体どこに行ってしまったのかと疑いたくなる個体もいる。

図1.ゲーゲー鳴いて警戒飛しょうをするブッポウソウのペア。7月23日。吉備中央町上竹荘。巣箱(H-20)の防衛は,ブッポウソウの警戒飛しょうと威かく攻撃の写真を撮っているのは,私しかいないみたいだ。SONY RX10Ⅲ。

図2.威かく行動に入る前の警戒飛翔。上竹荘H-20の巣箱。背景が空でも黒いブッポウソウにならないこともある。背景に大空があってブッポウソウの本当の姿を知ることができるだろう。

 多くの巣箱では,中にヒナがいるときには親は周囲を見張っている。見張りの仕方はペアによってさまざまで,初めて来て周囲をあまり警戒しないペアの場合には,知らないブッポウソウが入って,卵を割って中身を食べてしまったたり,くちばしでくわえて外に捨てるケースが後を絶たない。知らないブッポウソウ(ほかによい表現が見つからない)は,卵を割って,胚発生が進行しているヒナでさえも食べてしまう。さすがに,ふ化してからは知らないブッポウソウに殺されることはないようだ。(それをやり出したら,種(species)自体の存続が危うくなる。)ふ化後のヒナの場合には,巣箱に侵入したアオダイショウに呑まれてしまう事例が毎年10例近く発生している。

 巣箱にヒナがいると,親は巣箱に近づく不審者(私のこと)を認識すると,警戒飛翔に移る(図1)。巣箱の近くで自分が目立つように飛び,大きな鳴き声を発する。ゲッ・ゲーとかゲー・ゲゲゲゲゲとか。あるいはケッ・ケッ・ケーケケと聞こえることもある。飛行中は,大空を上昇したり下降したりと激しく動き回る。自分が目立つ行動をして侵入者の注意をそらすのであろう。

 警戒飛翔は,しかしながら,どこの巣箱でも見られる訳ではない。割とよく見る不審者(例えば農作業のじいちゃんやばあちゃん)が現れたときには警戒飛翔が見られることが多い。一方,車で巣箱の下に乗り付けて,カメラを構えても,多くのブッポウソウは巣箱から遠くに逃げてしまう。野鳥の持つ習性として,カラス,トビ,スズメのように慣れた侵入者に対しては,警戒飛翔を行って相手を追い払う。しかし,車から降りて,カメラを持って巣箱に近づいてくる見知らぬ侵入者に対しては,警戒(警告)よりも恐怖の方が先に立ってしまい,ブッポウソウは巣箱から遠くに逃げてしまう。よく考えると人間でも同じ行動が発現している。

 ブッポウソウを撮影しようとする人たちの中には,ブッポウソウの習性を全然理解せず,自分勝手な行動をする者がいる。例えば,ブッポウソウを近くで写真に撮りたいために,巣箱の下でエサを運んでくるまで長時間待っている姿を実際に見ている。身勝手な行動が,ブッポウソウの子育てに大変な悪影響をおよぼすことがある。世の中には,目的のためには手段を選ばない人たちが混じっている。野生動物の研究(環境研究)をしていると,そういう者たちによって自然破壊がもたらされることがよくわかる。そういう人たちは,自然破壊という意味も理解していないのだろう。そんな人たちに対抗する手段は,今のところ良心(conscience)という実務家には理解できない概念(concept)である。しかし,笠岡湾の干拓を見ればわかるように,良心だけでは自然保護は難しい。

 生物を研究すれば,その成果が得られる。問題は,その成果を,自然破壊(つまり利益)に利用することではなく,自然を守る方に使いたいという意志の醸成(発酵でもいいが,腐敗は困る)は,意義のあることかと思う。
少し脱線した。話をもとに戻す。ブッポウソウの「警戒飛翔」や,次に述べる「威かく攻撃」は,写真家の撮影対象になっていない。中山良二さんから「美原集落センターでブッポウソウを撮影すると背景に空が入るので,きれいな写真はできない。だから,お客さんは美原集落センターには行くな・・・」と何度も聞かされた。

 問い詰めると,いつも写真家が言ったという言い訳が返ってきた。確かに図1に写っているブッポウソウは黒っぽい。しかし,色は黒くても警戒飛翔の雰囲気はよく出ているのではないか?図2のブッポウソウについては,大空の色だけでなく,ブッポウソウ自体の青緑色もそれなりに出ていると思う。これらの写真は,大空が主要な舞台なので,ブッポウソウをこれ以上拡大することはできない。

 写真家と中山さんは,多分大空が入ることは嫌いなのだろう。一方,警戒飛翔や威かく攻撃は大空を背景にして観察することができる。だから,写真家がブッポウソウの警戒飛翔や威かく攻撃を撮影することはない。写真がなければ,巷に出回ることはない。

 写真家が大空を嫌うからブッポウソウの警戒飛翔や威かく行動の写真がない,という指摘は部分的には正しい。本当は,写真家がブッポウソウの巣箱に近づくと,多くのブッポウソウは遠くに逃げてしまい,警戒飛翔や威かく攻撃は撮影できないという方が正しい。これはある意味,ブッポウソウにとっては幸運なことだろう。付きまとわれると子育てに影響が及ぶ。

 次は威かく攻撃について。不肖私が巣箱に近づくと,警戒飛翔を演じてくれるブッポウソウは多い(図2)。そして,一部の巣箱では,警戒飛翔に続いて,ブッポウソウがこちらに向きを変え,すごい勢いで突進してくる(図3)。だが,こっちに向かってブッポウソウが突っ込んでくる威かく攻撃は,写真に収めるのが難しい。Focus areaが広く,連写機能を持ったカメラ(例えば,SONY RX10Ⅲ。いつも同じカメラですみません)なら,いくらかそれらしい写真が撮れる(図4)。

 ブッポウソウは,自分の3mぐらい前まで突進してから急速反転を行う。最初は黒い点で,形が見えるようになってから,反転して遠ざかるまですべての過程(図2~図4)をピントが合った状態で撮影するのは不可能である。なお,ピント合わせは,あらかじめ近くの草とか木に焦点を合わせて,まずシャッターを半押しする。その状態で突進するブッポウソウの方にカメラを向け,近くに来たらシャッターを押し続ける。多少ピントの合った写真の割合は3分の1ぐらいである。写真家さんお気に入りの写真は1枚も撮れないでござんす。でも,多少ピンボケでも,私は威かく攻撃の写真を撮ることが大事なのでありんす。威かく攻撃の全過程に焦点を合わせようと思えば,合成写真を作ればよいのだが,今一つ迫力に欠ける。

 ブッポウソウの威かく攻撃が頻繁に見られる巣箱は非常に少ない。毎年L-07(有漢町), B-08(吉備中央町の上田東), H-20(吉備中央町の上竹荘)では,見事な威かく攻撃が見られる。毎年同じオスが来ているのだろう(図5)。

図3.警戒飛翔から威かく攻撃に入ったブッポウソウのオス。威かく攻撃に入るときのブッポウソウの姿は黒い点かしみに見える。どこから来るかわからないので,威かく攻撃の全過程の撮影は難しい。

 なお,私の書く記事に度々登場するのはSONY RX10Ⅲというカメラである。本機種の名称はSONYサイバーショットDSC-RX10MⅢというらしい。Zeiss製のレンズとボディの一体型のカメラである。新品で163,000円。中古でも8万から9万はする代物である。他社にも同様な機能を持ったカメラがあるかは知らない。例えばCanon EOS R7は,刻々と焦点距離が変化する生物の撮影に使えるカメラなのだろうか?どちらにしても,値段はボディだけで20万はする。とんでもなくお高い。しかし,あれだけ頻繁にモデルチェンジがなされるということは,Canon製のカメラはよほどよく売れるということだろう。

 L-07, B-08, H-20に比べて,基地にあるWA-01の巣箱では,私には警戒飛翔(warning flight)すらやってくれない。たまに飛んでは,ケッ・ケッ・ケッ・・・と鳴くだけ。威かく攻撃に至っては,私には一度も見せたことがない。私がケッ・ケッ・ケッ・・・と鳴いても,反応はほとんどない。昨年までは,巣箱の前面にあるヒノキ(略して前ヒ)や後ろ側にあるヒノキ(略して後ヒ)のてっぺんにとまって周囲を警戒していたが,今年は巣箱の近くの林の中に入り,オス・メスともに広葉樹の枝に体を潜めている。  

 基地の近くには,ハシボソガラスの家族が住み着いている。全部で7~8匹いるだろう。1家族のような気がする。私が基地に到着すると,ガーガー鳴いて家族に「エサやり男」(カラスの方にはそう見えるのだろう)が到着したことを知らせる。居候の猫の「華」のエサを横取りするぞという合図を送っている。華は呑気な上にすごく臆病である。カラスが下りてくるとすぐに車の下に避難する。犬は番犬になるが,猫は番猫にはならない。ちょっと重たいものでも背中に乗せられるとすごく嫌がる。

図4.ブッポウソウのオスの威かく攻撃。一番下の体を反転する直前のシーン(3mの距離)はピンボケの方がかえって迫力があるかもしれない(負け惜しみではない。)人間の眼(例えば太平洋戦争中の飛行機の搭乗員)も,遠くにいる敵機は目を凝らして見るが,目の前に迫る高速の敵機をまじまじとみるなんて余裕はないだろう。つまり,このカメラ(SONY RX10Ⅲ)の性能は,人間の視覚に近いかもしれない。7月23日, H-20にて。

図5.威かく攻撃の後に体を反転させて私から遠ざかるブッポウソウのオス。7月23日,B-08にて。

 WA-01のブッポウソウは,私が基地にいるときには,カラスがよほど巣箱に近づかない限り追うことはない。ある時,車で基地を離れてから忘れ物をしたことに気づき,基地に戻ったことがある。おそらくカラスどもが,すぐに華のエサを盗みに来たのであろう。ブッポウソウのオスは,矢の如く高速でカラスを追いかけていた。私に対する威かく攻撃の時には,どこのブッポウソウも出してくれない「パシッ」とか「カチッ」とかいう音も盛んに発していた。

 カラスに対する攻撃は,カラスが怖いからするのではない。カラスを攻撃すれば,カラスが逃げることを学習(learn)しているからこそ,攻撃行動が発現するのである。トビやアオサギは,巣を襲うことはないことも学習している。だから,これらの野鳥は,よほど巣箱の近くを通らない限り威かく攻撃は行わない。スズメはどうか?初めて来たブッポウソウは,スズメをキセキレイやヒヨドリと同様に敵として認識していない。だからスズメはブッポウソウのいない間にせっせとワらを運んで,ブッポウソウの産んだ卵を隠し,最終的に巣を乗っ取る。しかし,ブッポウソウの方もやられ放題ではない。スズメは敵であることを学習すると,その年からスズメを激しく追うようになる。

 結論として,ブッポウソウの警戒飛翔(warning flight)や威かく攻撃(threatening attack)は,農作業をしている地元の人たちにはよく見られるが,都会から珍しいもの見たさにやってくるお客さん方(写真家もこれに準ずる)が見る機会は非常に少ない。どうしてもこうした行動を見たければ,ブッポウソウという鳥について「学習する」ことである。私を毛嫌いするだけでは,決して見られませんぜ・・・。

<参考文献>
金沢秀利(2009)空母雷撃隊(艦攻搭乗員の太平洋海空戦記)。光人社NF文庫。

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