令和4年(2022)のブッポウソウ情報 No 30. おいバカヤロ,来るんじゃない。

令和4年(2022)8月7日(日)

 吉備中央町の上田西には50m四方(50m ×50m)の池がある。池に名前がついているかは知らない。池の水は茶色だが,これは上にある畑や田んぼ(休耕田)から泥が大量に流れ込んだせいだろう。泥はさらに堆積し,50年もしないうちに池は湿地帯に変わるだろう。

 この池は,畑や田んぼにまく肥料が流れ込んで,富栄養化が進んでいる(eutrophicated)と思われる。池の生物量(biomass)は半端なく多そうである。池の中には,多くの魚がいる。カメもいる。水面には数多くのアメンボと,これほどかというほど多くのコシアキトンボが飛んでいる。水面にはツバメやコシアカツバメが矢の如く飛び交っており,雨が降らない日が続くと,ブッポウソウが頻繁に吸水にやってくる。泥さらいを兼ねて,一度池の水抜きをしたらとんでもない代物(多分外来種)がとれる可能性がある。大きなスッポンも生息していると思う。

図1.上田西にある池。中央のやや右上にある茶色い部分は畑(黒豆か何かを栽培)。畑の右に見える白い屋根の家の前には電柱があり,巣箱(B-08)が架けてある。畑と池の間は休耕田(ススキが生えている)。8月3日。

 この池(図1)の付近にはたくさん巣箱がある。写真(図1)右側の白い屋根の家にはB-08,左側の林の奥にはδ-08がある。直線距離にして100mぐらいだろうか。 また,写真(図1)の後ろ側200mにはUW-01があり,今年オスが落鳥した。UW-01の奥にはA-27 (木柱)やP-08 (粟島神社),さらに他団体の巣箱がいくつかある。個人が設置した巣箱もある。なお,B-08とδ-08のペアはケンカをしていないようだ。B-08のペアが警戒飛しょうをすると,δ-08のオス(?)も出てきて一番奥のヒノキの上で鳴いている。援護射撃をしているように思える。

図2。キジのオス。カメラのすぐ近くまで歩いてきた。キジは里山を代表する野鳥だろう。撮影:SONY RX10Ⅲ。

 この池(図1)には,ツバメやキジバトだけでなく,ブッポウソウもよく水を飲みに来る。8月2日に池の縁の木陰で池に水を飲みに来る野鳥の観察をしていた時,池の脇の小道にキジのオスが歩いてくるのが見えた(図2)。普通キジは40~50mぐらいの距離だと逃げてしまうが,このオスは怖がりもせず,私の方に向かってどんどん近づいてきた(図3)。10mぐらいまで近づくと,600mmレンズをつけたカメラ(EOS7D)では,体が全部入りきらなくなった(図3~4)。すぐにSONY RX10Ⅲを取り出して,4mほどの距離でシャッターを押した(図2)。

図3.10m以内に来たキジ。8月2日。背中はスズメバチの巣に模様が似ている。鶏冠(とさか)はグロテスク。

図4.こちらに向かってどんどん歩いてくるキジのオス。私がいることは認識できているはずだが・・・。あまり近くまで来たので,600mmレンズでは体の3分の2しか写らなかった。

 図5の写真も600mmレンズを使って撮影した。キジの顔は半分しか写っておらず(「千と千尋の神隠し」のカオナシを連想する。),首から胸部背面が見える写真になった。最初は全然予想していなかったが,キジのオスの首の羽毛の色は大変美しい。また,胸部背面の羽毛の並び方(模様)は,キイロスズメバチの巣の表面の模様に似た感じである。鳥のオスの羽毛の色や鶏冠の面積は,メスのご機嫌を取るために重要な役割を演じていると思われる。人間にはグロテスクに見える方が,野鳥の世界では以外とメスにモテるのかもしれない。

図5.キジのオスの首。クジャクやタマムシのように,赤と青,青緑,緑色は,東洋熱帯の森林にすむ動物(昆虫と鳥類)のクチクラや羽毛に多く発現するかもしれない。キジのオスも,背中を含めて体表は,カラフルな羽毛で覆われている。ブッポウソウよりはるかに綺麗である。でも,なぜかキジは人気がない。SONY RX10Ⅲで撮影。

 吉備中央町にはキジは割と普通に見られる。ただ,写真となると,出現は神出鬼没に加えて,すぐに逃げてしまうので,良いシャッター・チャンスはなかなかめぐってこない。この個体(図2~4)は,5mぐらいのところまできて,道の脇にある草むらに隠れてしばらくじっとしていた。多分3mぐらいのところで撮影できたと思う。ブッポウソウも同様に,人をそんなに怖がらない個体が混じっているが,人慣れした個体やペアを見つけるには相当に時間がかかる。つまり,ブッポウソウの良い写真を撮ろうと思ったら,まずは,何度も吉備中央町を訪れて撮影に適する巣箱を見つけること。次に,鳥の邪魔をしない木陰や建物の軒下を探すこと(場合によっては住人の許可が必要)。さらに同じ場所で粘り強く撮影することだろう。

 この池(図1)を生活に利用している生物は多い。池の水面と池の脇の道(一応舗装はしてある)には,入れ替わり立ち代わり多くの生物が現れては去って行く。また,池の周囲にある疎林では, 8月2日だと,昼間はニイニイゼミやアブラゼミが鳴いている。日がかげるとヒグラシが鳴く。8月5日あたりからヒグラシに代わってツクツクボウシが鳴き始める。クマゼミは海岸沿いに多く,吉備中央町では非常に少ない。ブッポウソウのヒナは巣立ち寸前になっても,クマゼミは大きすぎて食べられないだろう。アブラゼミが限界の大きさと思う。

 この池(図1)は,確かに水は茶色に濁っているが,周囲の風景は素晴らしい。また,池の脇の木陰は涼しく,何時間でもいられる。だからと言って,多くの人達に撮影に来いというメッセージを出したら,狭い道路に車を止めて,カメラマンが並んでいる光景を見れば地元の人は怒るだろう。池の生物を撮影しようとして池に落ちて溺れる人も絶対出ると思う。すると,誰がこんな危険なところ(整備されていない場所)に何にも知らないじいさんやおばちゃんを連れてきたのかという責任問題が浮上する。

 撮影に適する場所ほど都会から来る人たちには勧められない。都会から来る人たちは,日常自分たちが経験している範囲でしか危険を認識できていない。そういう人たちは池田動物園や後楽園に行って写真を撮ればよい。キジぐらい飼っているだろう。小鳥の森(と言うのがあるかは知らないが・・・),バラ園,各種庭園などにお邪魔して撮影するという手もある。

 ただし,動物園では動物はかわいいものとしか教えてくれない。野生動物の本当の姿を知ろうと思ったら,自分で里山に分け入るしかない。そのガイドブックは,数少ない。(盗掘のための秘密情報はインターネットで行きかっているかもしれない。)里山の良さは,危険と隣り合わせである。特に道幅が狭いところが多い。山の中の道は路上にコケが生えていて滑りやすい。都会の道路と同じ気分で走ると脱輪や道路から転げ落ちることもある。結論から言えば,動物園とか庭園,公園に行く気分で里山に来ると痛い目に合う。里山で写真を撮ろうと思う人は,この点を十分に理解していただきたい。

図6.雑木林の中からひときわ高く成長したアカマツの枯れ木と,枝にとまるブッポウソウ(3匹)。カメラから枯れ木まで200mの距離がある。枯れ木(snag)の幹を丹念に見てゆくと,コゲラ,アカゲラ,オオアカゲラの開けた巣穴が見つかることがある。さすがに200mの距離になると,ブッポウソウの鮮明な画像は期待できない。

 図1の池の後側には広々とした田んぼがあり,さらにその後方には雑木林がある。雑木林には,ひときわ背の高いアカマツの枯れ木4~5本出ていて,枝にはよくブッポウソウがとまっている(図6)。別に自慢する話ではないが,私は200m先の枝にとまるブッポウソウを肉眼(裸眼)で判別することができる。もちろん枯れ木の背景は雑木林なんかではなく,空(sky)であることが条件である。

 私の視力はそんなに優れていない。日によって大きく違うが,視力検査では,左右とも0.9から1.2の範囲である。視野はほぼ180°で,動体視力はいいと思う。フィリッピンとか南方の国々の人は素晴らしい視力をお持ちと聞く。留学生のウバルド・ジョナサンという人は,5.0ぐらいの視力はあると言っていた。多分日本と検査方法が違うのだろう。日本は,馬の足の蹄鉄みたいなマークで視力を判定するが,フィリッピンなど南の国は,動物の大雑把な形で判定しているのではなかろうか。ブッポウソウの大雑把な形(シルエット)で判断するならば,私の視力も5.0ぐらいにはなりそうである。

 話を元に戻す。野鳥の綺麗な写真が撮れるかには,2つのステップがあることを理解していただきたい。まずは,カメラと望遠レンズの性能の問題。常識的なことではあるが, resolution(解像度)の良い望遠レンズほど透過光の光量を維持するために,口径が大きくなる。口径が大きくなるほど,望遠レンズは高価になる。一方,カメラの方は,望遠レンズを使って撮影する際の連写機能とか,動く被写体を捕捉する機能とか,暗いところでも高速でシャッターが切れるとか,感度(ISO)を大きく上げる機能とか,高価なカメラほど高度な機能を持っている。ただし,撮影者が多くの機能を十分活用できているかはまた別の話である。

 次に,望遠レンズの口径や大きさと野鳥の習性(habits)の関係。野鳥のような野生生物は,環境の変化に敏感である。大きなレンズを携えて迂闊に野鳥に近づく,とすぐ逃げてしまうことが多い。これも常識だが,守れない人がいる。
野鳥を撮影する際には,上記の2つの問題をクリアしなければならない。となると,野外で野鳥の撮影をする際にはどういうことに気をつけなければならないかわかってくる。

 まずは,使っているカメラやレンズの特性(property)をよく知ること。風景写真なら,市販のコンパクトカメラでも十分良い写真が撮れる(図7)。最近のコンパクトカメラは接写機能も付いている。

 一方,野鳥となると,コンパクトカメラでよい写真が撮れるのは,動物園で飼育されている種類ぐらいだろう。野外で生きている種類となると,望遠機能を持つカメラが必要になる。私の手元にあるSONY RX10Ⅲ(レンズはZeiss製)は,昆虫類では大きな威力を発揮する。野鳥の場合には,30m以内にいれば,割ときれいな写真が撮れる。しかし,30mを越えると種類ぐらいはわかるが,とても自慢できる写真は撮れない。300mm~400mmあるいはそれを越える大きさの望遠レンズと連写機能を持つカメラ,それにカメラを支える三脚が必要になる。このレベルになると,例えば, PENTAX K-rやPENTAX K10では,PENTAX 75-300mmにエックステンダー(2×)をかませても実戦では使えない。

 NIKONのFiled Scopeは出始めの頃はすごい威力を発揮したと思う。Tマウントのアダプターを付け,さらにアタッチメントに装着すれば,コンパクトカメラでも撮影できるかもしれない。これは30年前の最新設備であるが,ここ15年のカメラの性能とレンズのresolutionのレベルの進歩の前には,なすすべもなくなってしまった。でも,野生生物に対する鋭い勘があれば,優れた写真は撮れるはずである。高級カメラと高級レンズに酔ってしまったじじいども(度々言葉が悪くて申し訳ない。)が見向きもしなくなっているというだけの話である。

 私は,Zeissの双眼実体顕微鏡(Stemi 2000)にアダプターを付け,PENTAX K-rを使っている。またオリンパスの双眼実体顕微鏡(SZX-12)にアダプターを付けてPENTAX K10を使っている。実は顕微鏡でも望遠鏡でも,カメラとの間につけるアダプターが高価である。Zeissの場合には,Cマウントしかつかないが,オリンパスの場合には,Tマウントのアダプターが半額の5万で買えることがわかり,購入して実戦配備している。ニコンのフィールドスコープも,アタッチメント(Nikon コンパクトデジタルカメラブラケット FSB-U1)を使って実戦に使用できる撮影システムの構築を目指している。私はこういうパズルみたいな作業が好きである。

 野生生物の撮影には,野生生物に対する勘(英語ではintuitionかperception)が不可欠である。近澤峰男さんは,この勘が発達していた。私と気が合ったのは,近澤さんの野生生物に対する勘の良さだと思う。里山を含む自然環境の中で仕事をする場合,危険を察知する能力が欠如していると,とんでもない災難に見舞われることがある。里山において野生生物を撮影することは,大げさに言えば,自然の厳しさとの闘いである。戦うためには(例えば登山),忍耐も含めて実戦で戦える能力を身につけなければならない。

 つまり,実戦的教育を受ける必要がある。実践的教育は,私の言う「主観的教育」(subjective education)に入る。戦前の行き過ぎた主観的教育への反省から,戦後の学校教育,特に中等教育や高等教育においては,主観的教育は毛嫌いされるようになってしまった。結果として,多くの学部における課題研究(いわゆる卒業研究)などは,ままごとの世界のできごとになった感がある。(「ままごと」というと激怒する教員は多いが,世間からの批判を恐れるあまり,自分たちがそうしてしまったのではないか?)

 里山は,人気のあるスイーツ店やハンバーガー店などとは基本的に異なる。つまり,そこにおいしいものがあって,お金を持ってゆけば誰でもそこで美味しいものが食べられる世界とは基本的に異なる。主観的な教育を受けていない人たちは,自然の怖さを知らない。楽しいことの情報しかお持ちになっていない。野鳥の会はそこのところをうまくコントロールしてバードウォッチングを実施しているが,ブッポウソウを利用してもうけをたくらむ業者は,そんなことは一切考慮していない。横山様に来る多くの人々も,野鳥が好きだから来るのではなく,ブッポウソウという珍しい「見世物」がいることを聞いてやってくるのだろう。そういう人々が,怪しげな情報をもとに,整備の行き届かない里山に分け入れば,里山にすむ人たちに大きな迷惑をかけるだけでなく,自分たちも大変痛い目に合うことは必至である。写真家はそういうことは注意してくれない。

 巷にあふれているガイドブックやパンフレットには,里山に来ればどんな美味しいものが食べられるか,珍しい鳥や動物がいるから是非おいで,ということしか書いていない。里山に分け入って自然の生物の写真を撮ろうと思ったら,自分や家族の身の安全も考えないといけない。里山の自然に関する一通りの教育は受けておいて損はないだろう。里山に分け入らないお客さんに対しても,里山の自然に関して何か啓もう活動を行う必要があるのではないか?

 里山に来たい,あるいは里山に関心を持っている方々に対する啓もう活動として,例えば,里山という自然環境の写真展などを企画したらどうだろうか?野鳥の種類をハンバーガーに例えるなら,写真家のようにハンバーガー自体の写真(要するにメニュー)を提示するのではなく(こういう写真展はどこでもやっている),ハンバーガー店の外観や店員の接客しているところとか,あるいは向かい側にはラーメン店とコンビニがあって,でも,車で行くにはここをこう曲がる必要があるとか,を記した冊子や写真展などは,里山の自然を楽しむ上で効果が期待できるのではなかろうか?

 そんな冊子を読む人,そんな写真展を見に来るお客さんは,ほとんどいないかもしれない。しかしそれは,また別の問題である。里山の知識がある程度たまったら,関心がある人は,少しずつ里山に分け入る訓練をしたらよい。

 繰り返すが,都会に比べて里山は十分に整備された環境ではない。里山を楽しもうと思えば,観光バス・ツアーやインターネットに出ている情報だけに頼らない方がよい。数集めが目的の情報をうのみにすると,里山の本当の姿はわからないどころか,里山の自然にから手痛いしっぺ返しを食らうかもしれない。

図7.雲行きが怪しくなった里山の空(吉備中央町吉川)。正面の奥は雷雨になっている。8月5日。左の電柱には巣箱(E-06)がある。右側には公会堂があり,巣箱までの距離は40m。この巣箱(E-06)のブッポウソウは警戒心が強く,私が軒下に隠れていることがわかると,それから1時間待ってもエサやりには来てくれなかった。

 里山には多くの種類の昆虫や鳥がいる。吉備中央町は,ヘビ,トカゲ,ヘビなどのハ虫類も多い。ある大学の課題研究(いわゆる卒業研究)でヘビを研究した学生がいたと聞く。ヘビの中では,シマヘビの黒化型の割合が他の地域に比べて半端なく高い。アオダイショウは,捕まえようと尻尾を思いきり引っ張ると鼻が曲がるほどの悪臭を発することや,マムシも割と普通に見られること。でっかいスッポンが田んぼの畔で寝ていて最初に踏んづけたときには,全く動かなかったことなど,吉備中央町の里山の生物多様性には目を見張るものがある。

<参考文献>

  • 京浜昆虫同好会(編集)1971.新しい昆虫採集案内 Ⅱ.(西日本採集地案内)内田老鶴圃新社。
  • 京浜昆虫同好会(編集)1973.新しい昆虫採集案内 Ⅲ.(離島・沖縄採集地案内)内田老鶴圃新社。
  • 琉球大学ワンダーフォーゲル部 OB会(編集)1972.南海の秘境:西表島(web復刻版)。

(採集計画は自分で立てる方が楽しい。自然環境を知るためには,古い文献が役立つだろう。最新の案内は,盗掘のための秘密情報になっているので,お薦めできない。)

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