令和4年(2022)のブッポウソウ情報 No 28. 野鳥の音声分析(Birdsong analysis)

令和4年(2022)8月1日(月)

「音声」をインターネット(google)で調べると,voiceという単語が出てくる。しかし,voiceは一般的な「声」を意味する単語だろうから,鳥の鳴き声に関してはsongとかcallの方がより適切な表現ではなかろうか?

 動物の鳴き声はオノマトペ(onomatopoeia)で表現される。オノマトペは音声や鳴き声などを表した擬音語あるいは擬声語(例えばニワトリはコケコッコー,アヒルはガーガー,先生はガミガミ)のことを言い,日本の社会では深く浸透している。オノマトペは,しかしながら,表現の手段としては幼稚さが付きまとい,学術論文には使えない。(図鑑では使われている。)

 日本語(漢字)は象形文字が起源であろう。だから,日本人には,記号を組み合わせた抽象的な表現よりも,象形まではいかないにしても,実際の音声に即した表現が好まれるのだろう。

 またオノマトペは,情緒的な思考が強い方々は好んで使うだろう。情緒的な思考の強い人たちは,絵本,童話,漫画の世界に強い興味を示す。このような人たちにとって,言語は事実を説明する手段ではなく,自分の頭の中に浮かぶ,こうあるべきだというイメージを表現できればそれでよい。そういう人たちにとって,意味のない記号を並べて表現する単語や文は,途中に「思考する」という手間が入る。特に論理的な文章になると,考えることがお好きでない方々にとっては,およそ心の中にうまく収まらず,フラストレーションはたまるだろう。

 世の中にあるオノマトペを茶化すと,つまらない言葉遊びをするなと叱られる。・・・が,実は弘法大師もそのつまらない言葉遊びをした有名人の一人である。中国の古典に出ている「佛法僧(フォ・ファ・セン)」が,高野山のお寺の境内では,日本語で「ブッ・ポウ・ソウ」と鳴くなど,今から考えると「バカも休み休み言え」レベルの言葉遊びである。黑田長禮博士が,弘法大師が言い出した佛法僧は,コノハズクであることを証明した。しかし言葉遊びはさらに続き,最近では,弘法大師は「声のブッポウソウ」の発見者だ,みたいな記述まで現れた。そこまで行くと,言葉遊びも,もういい加減にしてくれと言いたくなる。言葉遊びは,大脳の機能レベルを向上させるので,言葉遊び自体は悪いことではなく,むしろ歓迎されることなのだが,行き過ぎると感情的な反発を食らう。

 オノマトペという言葉遊びの表現を日常的に抵抗なく使うかを見れば,その人がもの考えることが好きな人かわかる。(つまり性格のバイオアッセイができる。)言葉遊びが嫌いな人たちは,大脳にある神経細胞(neuron)が少ないのではなく,脳のどこかで抑制がかかって,日常使用する神経回路の数が少なくなっているのだろう。だから,多くの体育会系の人々を含めて情緒的思考の強い人たちは,多様な物の見方・考え方について行けないことが多い。

 もうすでに頭のヤカンがグツグツと煮えたぎっている方々がいるだろうから,オノマトペの話はこの辺でやめておく。

 さて,今回の記事は野鳥の音声記録である。図1をご覧いただきたい。奥吉備街道を通って大平山を迂回すると,安元(有漢町)に出る。図1には写っていないが,安元にはI-01の巣箱がある。巣箱の脇の小道には,撮影機器と録音装置が置かれている。写真左側からPanasonic HX-WA20, Canon PowerShot S95, 集音マイクとSONY リニアPCM recorder,さらにお決まりの600mmレンズとCanon EOS 7Dが並んでいる。

図1.路上に置かれた撮影機器と音声録音機器。 正面のアカマツの枯れ木(カメラから70~80mの距離)にとまっているブッポウソウのペアの観察に使われる。録音装置にはすぐ近くで鳴いている直翅目昆虫の声も同時に入る。

図2.追い払い合戦の後にアカマツの枯れ木に移ったペア。枯れ枝の背後にある樹木はアベマキ。7月20日。

 この場所に到着した直後には,巣箱に新しいペアがやってきていて(目的は不明),子育てをしているペアが追い払おうと,けたたましく鳴き叫んでいた。そのシーンを録画し,音声も記録したかった。しかし,装置を準備し終えるころには(5分未満だった),新しいペアは去り,子育てをしているペアは遠く(70~80m先の山腹にあるアカマツの枯れ枝に移っていた(図2)。

図3.アカマツの枯れ木の枝にとまるブッポウソウのオス(左)とメス(右)。Canon 600mm AFレンズを使うと,カメラと鳥がいる木との距離が70~80m離れても,これだけ鮮明な画像が得られる。

 アカマツの枯れ枝(図2)には,甲虫類が羽化し,脱出した跡(穴)が見られる。松枯れを間接的に誘導する犯人として,マツノマダラカミキリが知られているが,実際には個体数は少ない。大きさから言ってクロカミキリが妥当であろう。

 もう何十年も前だが,夜に宇甘川沿いにある貯木場(御津)に行って伐採木を見て回ったことがある。(現在も営業中。)アカマツの伐採木が積んであるところに行くと,木の中からガリガリと(これもオノマトペ)木部をかじる音が響いていた。何せあちこちの伐採木の中からガリガリ,ガシガシという音が聞こえるので,貯木場には不気味な雰囲気が漂う。音を発しているのは,クロカミキリの幼虫であろう。

 図2の中央部分を拡大したのが図3である。I-01で子育てするペアが大きく写っている。左がオスで,右側がメスだろう。メスの右足には,足環が装着されている。この足環は環境省リングで,私がつけているプラスチック・リング(カラー)とは別物である。このメス(図3)は生後10年ほど経っているだろう。

 環境省リングは山科鳥類研究所で訓練を積んだ者が野鳥を捕獲してつけることができるらしい。バンダーの監督官庁である山科鳥類研究所というのは,非常に無礼な組織とお見受けする。言いがかりではなく,そう断言できる証拠がある。研究所として懲罰傾向の強い法律を作る前に,たくさんいる研究員が社会とうまくやっていける教育をしたらよい。

図4.アカマツの枯れ枝にとまって周囲を警戒するブッポウソウのオス。枯れ木の後ろはスギ。周囲の構造物とのバランスを考えると,鳥の大きさはこのぐらいの拡大がいいと思われる。アカマツの枯れ木に見える穴は,カミキリムシの羽化脱出跡もあるだろうが,大きめの穴は,エサを探してコゲラやアカゲラがつついた跡かもしれない。

 集音マイク(図1)は,レコーダーから70~80m先で鳴いているブッポウソウの音声を記録するために用いられる。リニアPCM recorderにもマイクはついているが,これだけの距離(70~80m)があると,集音マイクを使わないと鳴き声は入らない。なお,今はコンパクトカメラでも動画がとれるようになっており,画像と音声を同時に記録できる。画像と同時録音した鳴き声も,パソコンを通じてリニアPCM recorderに入れることができる。

 フィールドで撮影した写真はすぐに記事の中に入れられるが,音声記録の方は視覚化する作業が必要である。視覚化する際に使われる解析ソフトはいろいろあるが,野鳥の鳴き声に関しては,コーネル大学鳥類研究所が開発した解析ソフトがよく知られている。コーネル大学の解析ソフトはRaven LiteとRaven Proの2種類あって,Raven Liteの方はライセンスを無償で手に入れることができるが,Raven Proの方は有料である。当然ながら解析能力は,Raven Proの方が格段に高いと思われる。Raven Liteの方は,大学の学士課程から修士課程における学生実習用プログラムとして利用されることを想定しているかもしれない。音声解析に関して専門性の高い原著論文を書くときには,Raven Proを使う必要があるだろう。いずれにしてもRaven LiteやRaven Proの使用に習熟する必要がある。

 私は今まで音声解析に関しては,人にお任せでやってきた。しかし,原著論文を書くとなると人には任せられない。つまり,お任せされる方の人たちは,英語で原著論文を書くという習慣がないものだから,執筆のノウハウは全然お持ちになっていない。しかも,データをよく調べてみると,特に学生の場合には,とても国際誌に出せる水準に達していない例が多い。それを指摘すると,逆上してとんでもない行動に出る人もいる。ちょっとした技術を身につけて,それを無責任な行動をする人におだてられると,自分は素晴らしい研究者だと思い込んでしまうのだろうか?それは間違いだと指摘されると,自分を客観的に見ることができず,指摘したやつ(言葉が悪くて申し訳ない)が憎くて仕方なくなるのだろうか?いずれにせよ,そういう関係になったら,原著論文をパブリッシュさせようと思えば,後は自分でやるしかない。当然ながら,激しい抵抗は覚悟しなければならない。

 私は,10年ほど前になるが,Raven Proを購入している。その時はまだ音声解析の仕事はしていなかったので,ある人の仕事に使ってもらえればという思いで購入した。つまり,共同研究の推進ということで購入できた。しかし,このソフトはその人に持って行かれてしまった。実力で取り返そうとすると事件になる。泣き寝入りというと法律的にはまずいのだろう。消耗品として購入したのだから,関係者が自分のところに持って行って使っていると言えば,事務的には問題にならないと思われる。何かトラブルがあったときに直接対象者に対峙すると,足元をすくわれることがある。それで職場を追われるケースも多く発生しているので,十分な注意が必要である。こういう日本の社会にあって,生き残る可能性が高いのは,人の心は読まず,組織の内規に従って粛々と粛清を実施できる人だろう。そういう人の前では,言い訳が一切通じない。組織を維持するためには,人を罰することが一番効果的と考える人が混じると,政府が推奨する「働き甲斐のある職場」は生まれにくいかもしれない。

 音声解析の方は,動物の行動解析との関係で原著論文が書ければ,最初のうちはRaven Liteを使った解析で行けるかもしれない。実は,音声解析の論文は数年前に書いている。1回目はrejectされた。2度目もおそらく受理されないだろう。2度目の投稿に対する査読者のコメントを参考にして,3回目(あるいは4回目)の投稿が必要になると予想している。

<参考文献>
石井直樹(2020)Raven Liteを用いた鳥声分析入門。自費出版。

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