ブッポウソウ総合情報センター速報(No. 40)

令和3年(2021)7月30日(金)

がんばれ,令和3兄弟とそのお母さん

大和小学校の200mほど近くにE-17 の巣箱がある。3年前に小学校のすぐ近くの電柱につけられ(その時のナンバーはW-33),その年にブッポウソウが入って子育てをした。ところが,電線が田んぼに垂れ下がっているために,2年前に電線といっしょに電柱そのものが取り除かれてしまった。

新しい巣箱が小学校のすぐ近くに設置されたとの話があり,たしか去年(2020)はどこにもつけなかったと思う。今年になって,小学校の近くにつけた巣箱をみて,このようなところに巣箱を置いても,ブッポウソウは入らないとすぐにわかった。そして,急きょ小学校からやや離れた小川沿いの土手にあった電柱にE-17をつけた。

E-17はもう今年は入らないと思って,長いこと巣箱の真下を通過していたが,7月6日になって親が卵を温めているのに気づいた。だいぶ間が空いてしまったが,7月18日に行くと巣箱の中には3匹のヒナがいた(図1)。

図1.巣箱の中で餌くれコール。この時はまだ「ケケケケケケケケ・・・」ではなく「チチチチチチ・・・」だったと思う。を発するブッポウソウのヒナ3匹。この時には近くに親2匹の姿も見えた。E-17,7月18日。

7月18日に巣箱をのぞくと,3匹のうちの2匹は成長の兆しが見えていたが,気にとまったのは,真ん中にいる一番小さい個体である。明らかに他の2匹と違って発育が遅れている。皮膚も薄く,体はペニョペニョ感丸出しである。 

このままだと,親のエサやりが不十分になれば,栄養失調で死んでしまうかもしれない。それが野鳥の掟(自然の摂理)なのだから放っておけばよい,とおっしゃる方々もいるだろう。しかし,私はそうは思わない。発育の遅れは遺伝的な欠陥で起きるのではなく,ふ化してから親にどれだけエサをもらえるかで決まる。図1に示したペニョペニョヒナは,この段階を乗り越えれば,他の兄弟と同様に巣立ちができるはずだ。だとすれば,ここで死亡する可能性を減らしてやれば,いずれ兄弟とはケンカすることになったとしても,外の世界で生きる機会を与える方がいいだろう,と思う。 自然の摂理とか言って詠嘆するよりも,私はこのペニョペニョヒナをどうやったら救えるか,そっちの方が大きな関心事である。

19日から毎日電柱に登り,巣箱を開けてヒナ3匹にエサをやることにした(図2)。巣箱を開けたときには,一番チビは思ったよりも元気だった。親も巣箱にエサを運んでいたのだろう。だが,明らかに長男と次男に比べて成長は遅れている。2匹の兄は,初列風切や雨覆の羽軸が伸び始めているが,一番チビはやっと羽軸の原基ができたという感じである。

図2.E-17の巣箱の中(7月19日)。みんな死にマネをしている。この滑稽な死にまね行動は,何か意味があるのだろうか?

なお,ヒナに与えるエサは昆虫がよい。いつもの年なら軽トラで走ると,道路上には(他の)車にはねられてオニヤンマが転がっている。オニヤンマはいいエサになる。ところが今年は,オニヤンマの発生量が著しく少ない。他の昆虫を採集している時間がとれないので,ヒナにはスーパーで買ってきたゆでた鶏肉に羽毛の形成を促進するネクトンBIO(インターネットで購入)をふりかけて与える。

ブッポウソウの羽毛を作るケラチン(タンパク質)は,自身の胚発生に使われた卵黄由来ではないだろう。羽毛は昆虫を食べるようになってから生えてくるので,おそらくケラチンは昆虫に含まれる栄養素から作られると考えられる。鶏肉には,おそらくケラチンを作る栄養素は部分的にしか含まれてはいない。ネクトンBIOを混ぜてやる必要がある。羽毛が成長したり,生え変ったりする時期には,ネクトンSよりもネクトンBIOの方がよい。

図3.E-17の巣箱。7月20日。エサをやりだしてから2日後。ヒナの体温は極めて高く,40℃ぐらいありそうである。7月19日と同様に死にまね行動がみられるが,目を開けている個体もいる。2匹の兄者たちの手羽には,初列風切と雨覆の羽軸が生えている。ヒナの体表には,1㎜ほどのワクモ(双翅類)が素早く走り回っている。

図2と比較すると,エサやり2日目には,死にまね行動の「私は死んでいます」感がだいぶ失せて,目を開けたままの個体もいる。チビがくわえているのは湯がいたエビ。図4は次の日(7月21日)の写真。

図4.エサやり3日後(7月21日)の巣箱の中。死にまね感がさらに弱まり,兄者たち2匹は眼を開けている。この日は「ぴよ吉」のエサの残り(ウズラの卵)をあげた。

7月21日も電柱に登ってエサをやった(図5)。1日一回でいいのか不明だが,巣箱のある大和(やまと)は,調査地域の一番端にあるので,一日一回が限界である。

図5.エサやり5日後(7月23日)の巣箱の中。写真正面は,チビ。羽軸が急速に伸長しているのがわかる。

図5と図6は,エサやり5日後の巣箱の中(7月23日)を示している。図5の正面にいるのがチビで,図6に示したのが兄者2匹である。兄者の方は,初列風切に青緑色の羽枝が生えかけているのがわかる。

図6.エサやり5日後(7月23日)の兄者。これぐらい成長すると愛嬌が出てくる。
図7.エサやり1週間後(7月25日)の令和3兄弟(左から彦一,助一,そして賢一)。食べているのは湯がいた鶏肉。

ヒナが大きくなると令和3兄弟に名前を付けたくなる(図7)。長男は賢一,次男は彦一,三男は助一ではどうか。合わせて令和3兄弟。みんな鶏肉嫌いのように見えるが,巣箱のふたを閉じるとすぐに呑み込んでしまう。もうみんな眼は閉じていない。

図8.エサやり10日後の令和3兄弟。7月28日 助一は奥の方に隠れている。

7月19日にエサやりを始めてから10日後の7月28日には,兄者2匹の翼の羽毛(初列風切)は紫色が目立つようになり,小さいながら白紋も出ている。まだ両目の周囲には羽軸の表面についていた白い粉が少し残っているが,これが取れたらいよいよ巣立ちになる。賢一と彦一は,8月2日か3日の巣立ちになるだろう。助一はそれより3日ぐらい遅れそうだ。

ところで,オスは初めの頃はいたが,途中から姿を見せなくなった。巣立ちが8月に入る巣箱は,子育て途中からオスがいなくなってしまうことが多い。メス親の方は,E-17に行くと巣箱から10mほど離れた電線にとまっていることが多い。巣箱の下に行くと,ちょっと離れて別の電線にとまってこちらを見ている。警戒飛しょうもしてくれる(図9)。

ただ,あまり強くは鳴かない。電柱を登り始めると,メス親は電線を飛び立ち,すぐ近くの林の中に入る。林の中から私の行動を一部始終じっと見ているに違いない。

遠くから巣箱を見守っているのはもう一匹いる。電柱に登り始めると,メス親は飛び立って林の中に移動する。メス親が止まっていた同じ方向に黒い鳥が止まっているので,最初はこれがメス親かと思った(図10)。しかし,左上の電線にとまるスズメかツバメと比較すると,黒い鳥はブッポウソウではない。じっとこっちを見ているのはカラスだろう。

図9.巣箱の近くで警戒飛しょうをするメス親。7月27日。
図10.電線にとまる黒い鳥(写真中央)。その左上の方にとまっているのはスズメかツバメ。

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