令和3年(2021)7月7日(水)
そんなはずはなかろうという思い込みは危険(首のないブッポウソウがいた巣箱にあった卵3つの行方)
首のないブッポウソウのオスを回収した日の晩(6月30日から7月1日)は,変な夢を見て夜中に何度も起きてしまった。
6月30日は死んだオスを回収した。ついでに,巣箱にたまっていた大量のワラを取り除き,親(オス)の下にあった3つの卵(胚)を置き直した。卵の位置は,7~8 cmは低くなっただろう。この位置からならば,卵を温めるブッポウソウの首を入り口からつついたりはできない。
オスを回収するときに,巣箱の100m前方にメスらしきブッポウソウが「(ここに)いるぞコール」を繰り返していた。その時私は,(私が)巣箱から離れればすぐに飛んできて早速卵温めを続けるのではないか,と予想した(図1)。メス親が残っていれば,卵をふ化させ,片親だけでもヒナを育てることはできる。
そうあることを期待して,次の日(7月1日)に事件のあったG-04の巣箱に行ってみた。
ところが何と,予想に反して,巣箱の中には卵はなかった(図2)。巣箱のすぐ近くには卵がひとつ落ちていた。卵は割れていなかったので,ひょっとしたらふ化する可能性もあると思い,どこかの巣箱にまぎれて温めてもらえる可能性を探した。ただし,卵殻が割れていないからと言って,胚が落下の衝撃で傷つき,すでに死亡している可能性も考えられた。
巣箱の外に捨てられた卵は,G-04に戻してもまた捨てられてしまうだろうから,元に戻すという選択肢はない。
いまのところ,6月30日(首なし死体の発見)と7月1日(残った卵の持ち出し)に遭遇した大事件がなぜ起きたかについては,こういう原因だと断定できる証拠がない。今は,不十分な証拠に基づいて断定することは避けた方がよい。不十分な証拠に基づいて発言すれば,カリスマ性は高まるだろうが,自然科学からは離れてしまう。
私の場合は,調査の結果わかった事実の原因解明は,2つのステップを踏んで行っている。まずは今までに明らかになっていることを勉強し,知識を増やすこと。次のステップは,それらの知識や情報をもとに,自分の頭で考えることである。間違っていたら自分で責任を取ればよい。
勉強する段階で,専門家や識者(自称でも大いに結構)の方々の知識は,謙虚に取り入れる。(全部信じるという訳ではない。)加えて,ブッポウソウの研究では,農作業の合間に実際に野鳥を見ている人たちのご意見がすごく役立つときがある。多くの人たちの意見を聞いていると,この可能性ではないかと,ある日突然ひらめくときがある。
この事件は,名探偵「コナン」のシナリオをまねて推理してみよう。
まずは,G-04でオスのブッポウソウを殺した「化け物」がいる可能性。
オスのブッポウソウを殺した犯人と,3つの卵を外に捨てた犯人は,同一とは限らない。真犯人は別なのではないか,と予想している。
真犯人の第1候補は,体長1.3~1.5m級の大蛇である。しかし大蛇ならば,もっと別な殺し方をするだろう。ヘビが親鳥の頭をちょん切ったという話は聞いたことがない。また,ヘビが入ったのに,卵は残っているのは変である。
次に,鳥の親の首を掻っ切る動物と言えば,イタチである。しかし,イタチがサーカス団よろしく電線を伝って巣箱に入ることなど,ありうるのだろうか?G-04のペアは,A-05でメスが死んでから(死因は不明)150m離れたG-04に移ってきて,産卵をした。考えにくいことだが,イタチも一緒に移ってきた可能性を完全に否定することはできない。
さらに,G-04のオスを殺した「化け物」は,カラスだという人もいる。これも,カラスが巣箱の中をのぞいていたのを見たということで,証拠としては強くない。ただし,巣立った幼鳥を追いかけてゆくのは,見たことがある。幼鳥の巣立ちを迎えた親のブッポウソウ(特にオス)は,巣箱の方向に飛ぶカラスに対して激しい攻撃を行うのを何度も見た。カラスも化け物候補のひとつである。
結局,G-04の殺人鬼はまだ特定できていない。
また,A-05でブッポウソウのメスを殺した犯人もいずれ特定しなくてはならない。
さらに,7月1日(木)には吉備中央町と江与味の間にあるP-07の巣箱(小森)で,オスのブッポウソウが死んでいるのが発見された(速報No. 25)。ここもG-04と似て,猟奇的殺人(殺鳥か?)の臭いがする。もちろん人間の仕業ではない。死に方(主翼はきれいに残っているのに,頭部,頸部,胸部は完全に白骨化している)は,A-05で見つかったメスのブッポウソウとよく似ている。
次に,6月30日から7月1日にかけて巣箱に入り,3つの卵を外に捨ててしまった「真犯人」は誰か?
吉備中央町におけるブッポウソウ研究の大きな特徴は,巣箱の中と入り口にビデオカメラを取り付けて,ブッポウソウの行動を時系列でモニターしていることである。巣箱の中の卵が割られたり,持ち出して捨てられた場合には,ビデオ画像を見ればよい。ブッポウソウが巣箱に入り込んで,そこにある卵をつついて割ったり,卵を加えて持ち出す姿が写っている。ブッポウソウの卵を割ったり,巣箱の外に持ち出すのはブッポウソウであることの証拠はそろっている。
問題は,巣箱に侵入したブッポウソウが,巣箱で産卵したブッポウソウとは違うだろうという先入観である。当たり前のことであるが,ブッポウソウのメスが自分で産んだ卵を,どんな事情があるかは知らないが,自分で割ったり,巣箱の外に捨ててしまうなどありえないことだろう。
しかし私は,ひょっとしたらという考えを持っている。でも,それは「野鳥の卵(受精卵)は消耗品に過ぎない。」というダーク・ファンタジーが絡んでいる。もちろん,漫画を描こうという意図はない。
G-04の事例について「卵は消耗品」という見方で説明してみよう。何度も言うように,G-04のオスは6月30日に発見されたときには死亡していた。メス親の方は,100m前方のヒノキの上にいたが,オスが巣箱の中で死亡したことは認識していたかもしれない。(オスからの「いるぞコール」がない。)
このような場合,メスとしては新しいオスを待って,もう一度交尾をして,初めからやり直すことを選択する可能性がある。巣箱の中には,すでに自分が生んだ卵が3つある。オスが代わったときには,いくら自分の産んだ卵であっても,新しいオスが「うん」と言うかわからない。そうなると自分の産んだ卵は,邪魔者以外の何物でもない。新しいオスが捨ててくれなければ,自分で持ち出して捨てることになるだろう。
どんな事情があるにせよ,親が自分が生んだ卵を捨ててしまうことなど絶対にありえない あるいは巣箱に自分の産んだ卵を置いたまま,どこか別の巣箱に移ってしまうなんて,およそ人道(鳥道)に反する行為ではないか,という強いご意見はごもっともである。しかし,もし卵が消耗品であったのなら,自分の都合で捨てたり,つついて殺してもおかしくないように思える。しかし,さすがにヒナが誕生するとそうもいかなくなるだろうけれど・・・。
私としては,卵を捨てた後に産卵床が整えられていること(図2)に特別な興味を持っている。
もちろん,何が真犯人かは,今の段階ではわからない。事例を地道に積み重ねて行けば,いつか突如として説明がつくようになるだろう。
巣箱の外に捨てられた卵は,数日後にふ化の兆候は表れた。割れた卵殻から血がにじみ出て,ヒナは卵の外を見ることなく死んだ。もし巣箱の中で3匹のヒナがふ化し,死んだオスがすぐに取り除かれたとしたら,また違った展開があったかもしれない。メス親はずっと「いるぞコール」を送り続けていた。