令和3年(2021)7月2日(金)
植物の芸術的センス:美しい花の進化を促したのは訪花性昆虫
6月下旬になると野に咲く花の種類は限られてくるが,人家の畑ではいろいろな種類の花が咲く。カラフルな花も多い。
上野(吉備中央町)には,9コの巣箱が掛けてあり,定期的に巣箱内のヒナのふ化や生育状況を調べている。6月28日にB-07とB-08の巣箱があるすぐ近くの家の花壇では,多くの花が咲いていた。その中で一番興味を引いたのが,茎(でいいのか?)の両側に交互に赤い花をつけている植物だった。モントブレチアという品種でよいのだろうか。
赤い花の左下には,黄色い花(テンニンギク?)が見える。花弁のつき方は輪生である。
花のつき方についてインターネットで調べてみると,対生,互生,輪生の少なくとも3つのパターンがあるようだ。
図2.グラジオラス2品種(品種名は不明)。グラジオラスにこんな派手な色の花が現れたのは,そんなに昔のことではない。私は,昔からある肌色や薄桃色の原種に近い(?)方が好きである。ちなみに,南西諸島の花壇や庭木に咲いているハイビスカスも,黄色,ピンク,白色の品種よりも,原種に近い赤い花(これは間違いないだろう)が好きである。お墓の生垣となっているハイビスカスは,中国原産だろうと思うが,原産地までは特定できているのだろうか。イチョウは特定できているが,仏桑華はできていないように思える。
畑の中には,紫色のグラジオラス(図2;左)とピンク色のグラジオラス(図2:右)がきれいに咲いていた。図1の花も図2に示した花も,吸蜜に訪れるのは小型のクマバチとクロアゲハぐらいで,ともに昆虫に人気のある花ではない。図1に示したモントブレチアに至っては,吸蜜に来るのはハエぐらいかもしれない。
モントブレチア,テンニンギク,それにグラジオラス,畑に咲く花はすべて人間が品種改良をした種類(人為選択)ばかりであろう。臭いはしないが,いわゆる芸術点は高い。
図1~図3に示した花を見て,私が興味を魅かれたことが2つある。ひとつは,茎に対する花芽のつき方(図1)である。おそらく花芽のつき方のパターンを決める遺伝子はあるのだろうし,関係する遺伝子の発現パターンも分かっているのではないかと思う。一方,なぜ自然界には対生,互生,輪生の(少なくとも)3つのパターンがあるのか,という疑問は解けているのだろうか?
もうひとつ興味を魅かれたことは,3つのパターンの現在の芸術点は似たような点数であったとしても,各々のパターンが進化するきっかけを作った生物がいるのではないか,という予想である。
最新の研究と称して,有利な遺伝子・不利な遺伝子があり,自然選択によって全く意味のないものからきれいな花ができると主張する人たちがいる。確かに自然選択(natural selection)の概念を導入すれば,意味のないものの寄せ集めでも,進化的には高い芸術点を獲得することは(理論上)可能である。しかし,実際には,現在の花のつき方のパターンの原点(分岐点)は,有利な(不利な)遺伝子と自然選択の組み合わせにあるとはどうも思えない。
被子植物のいわゆる「花」が顕著になったのは新生代に入ってからであろうか。裸子植物の花粉を食べに来ていた昆虫(多分甲虫類)はいただろう。裸子植物の雌花の方は,風に吹かれて飛び散る花粉を待つだけだったが,何かの加減で(ここを無理に適応的意味で説明しようとすると目的論になる)雌花の方にも昆虫を引き付ける分泌物が出るようになったのではないか。つまり,ここで訪花性昆虫が誕生したのだろう。花芽のつき方のもっとも原始的パターンはどれかわからないが,昆虫が訪れるとなると,受け入れる花の方も(昆虫にとって)芸術点の高い種類が残りやすかっただろう。美しい花の起源は,訪花性昆虫にあると思う。
花のつき方は,昆虫にとっては,3つのパターンのうちどれでも大きな違いはなかったのかもしれない。そのパターンと花の色,形,大きさは人間の目に留まり,品種改良という方法を通じて現在のような派手な姿になったと考えることができる。
畑に植わっている花は,人間におべっかを使って(使わされた,と言った方がよい?)芸術点を高めてきた。しかし,今や人間と昆虫では花に対する評価(evaluation)は大きく違っている。野山に咲く花は,人間から見たら芸術点の低い種類が多い。
図4は,吉備中央町の「北」という地域の道端で見かけたアジサイを示している。なかなか芸術点は高い。赤い色の「がく」の中央に花がついているが,がくの中央にも退化した花みたいな突起がある。アジサイの花には,2つのパターンがあるように思える。・・・が,外側の赤いがくのある花は,中央の小さな白い花のうち,「がく」が巨大化したのだろう。
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